第11話 アシアの生い立ち

アシアは、幼い頃のことを思い出していた。


アシア・カルベは、小惑星連合、辺境小惑星のウッドシップで生まれた。

ウッドシップに大気はなく、岩石型の鉱物採集用小惑星であった。


アシアが生まれたころには、アシアの住む小屋に父の姿は周りになかった。


アシアは、幼いころ、母に尋ねたことがある。


父はどこにいるのかと。


母からは、明確な答えはなく、幾度となく、尋ねたが、その度に、軍に駆り出された。出稼ぎに行った。と答えは聞く度に違う答えが返ってきた。


ただ、同じであったのは、遠い目をした母のトパージュ色の瞳であった。


アシアには、二つ下の妹がいたが、妹が7歳のころ、母が目を離した隙に大気シールドの外に出て、死んでしまった。


妹が死んでからの母は、遠い目をした日々を過ごし、子供のアシアから見ても気の毒なほど、日に日に痩せ細っていった。


幼いアシアは母を励ます方法を考えた。


アシアは、笑っている母の絵を描き、プレゼントしたり、手紙を書いたりしたが、母はある日、アシアの前から姿を消した。


母が発見されたのは、アシアの前から消えて2週間後のことだった。


大人たちは、見つかったと教えてくれたが、母には会わせてくれなかった。


アシアは、小屋の近くにいる大人を見つけては唯一の肉親である母に会わせてくれるよう縋った。


男たちは、無言でアシアを払いのけ、女たちは、アシアを抱きしめ、頭を撫でてくれた。



しばらくして 隣の小屋のおばさんが、漸く重い口を開き、


アシア、よくお聞き、母さんはもう帰ってこない。

大気シールドの外の妹の元に行ってしまったんだよ。

おばさんがいるから大丈夫。

アシア、しっかりと生きなさい。


鉱物の取れなくなったウッドシップは、住民の反対を押し切り廃棄されることになった。


居住区や家族の墓も。

全て一切合切。


身寄りのないアシアは、隣のおばさんの口利きで辺境警備隊の少年工作学生に採用されることになった。


アシアがウッドシップを離れる日、船内から見たウッドシップは、本当に小さく見え、そこに過去全てを捨てて行くことにした。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る