第10話


2日後に2学期が始まると聞いてしまったら、5日後のシャーロットの訪問を待っていられない。


「シャーロット、私は優秀だとか偉そうなこと言っておいて2学期云々忘れてるんだよ! なんで5日後とか言ってんだ!! リスケしろ!!」


思わず不満を口にして叫んでしまう。


だが直後に自分に対しても嫌気がさした。

相手はまだ16歳で、大切な殿下が訳の分からない日本人になったことによって混乱していたはずだ。

中身が俺の方が大人なんだから、利用するつもりとはいえ頼りすぎるのは情けない。


「……とはいえ文字が読めないのは話にならないか」


現状文字も読めないのだ。本を使っての情報収集すら出来ない。拙すぎる。


不幸中の幸いか、まだ1日猶予がある。


「さて、それなら……」


この2日間は軟禁されているとはいえ見張りなどは付いていなかった。むしろ第一王子の生活宮殿内は自由に歩き回って良いと聞いている。

当初の俺は何がなんだかさっぱりだったので大人しくしていたが、そろそろ落ち着いてきた頃だし動き回ってみるのも悪くはない。

少なくともこの宮殿内は第一王子の管轄となっている以上多少の無茶が効く。各王子それぞれに生活するための宮殿が与えられているのはラッキーだった。


「まずはシャーロットとどうにか話をつける必要はあるな。2日でどうにかなるかなんて分からないが間近に迫った2学期をどう乗り越えるかだ……」


できるなら直接公爵邸に行って話をしたいところだが、流石にそれはシャーロットの怒りを買いそうなので出来ない。

できるだけ人に見られず連絡を取る手段が必要だ。


ふと、ルサファの言葉を思い出した。


『精神感応魔法はその人個人の精神に何かしらの影響を与える魔法ですよ。幸福な気分にさせたり、嫌な気分にさせたりするだけの魔法です。

 高度な魔法士であれば相手の心を読んだり、自分の気持ちを伝えたりも出来ます』


……そうか、精神感応魔法。つまりは『テレパシー』。

俺はその魔法を使ったことはないがギルバートなら出来るかもしれない。


魔法は集中力とイメージによって発現する。


実際に使ったことはないが、様々なSF作品を見てきた。想像するだけならできると思う。浮遊魔法が意外と上手く使えたのも、もしかしたら俺自身の知識が役立っていた可能性だって無きにしも非ずだ。


「とはいえテレパシーか……」


精神感応魔法として使われていると保証があるのだからできるはずだ。


例えばそう、まずは意識を伝えたい相手を思い浮かべる。俺の場合ならシャーロット・ディア・エーレンベルク。可愛らしい美少女の顔の癖に、怒ったり拗ねた顔ばかりが思い浮かぶ。まぁ本人らしくていいだろう。


次にシャーロットに何を伝えたいのかを確認する。

2学期からどうすれば良いのか……いやその前に俺が通っている学校についての情報が欲しいな。他にも文字さえ読めないから文字を教えて欲しい。あとはシャーロット自身のことももう少し知っておきたい。一緒の学校に通っているのか、何を学んでいるのか。


いや、考え出したらキリがない。


そうだな……精神感応魔法でどの程度会話ができるか分からない以上、まずはシャーロットが気付くかに絞っておこう。『シャーロット、俺の声に気づいたら精神感応魔法で返事をして欲しい』、それが通じれば成功だ。


もしシャーロットも精神感応魔法で相手に意思を伝えられるならトランシーバーと近いことが可能だ。ルサファはテレパシーは高度な魔法だと言っていたから、シャーロットに出来るとは限らないがあれだけ自信満々だったから使えてくれる事を祈ろう。


「よし」


やることは決まった。まずは精神感応魔法を使ってシャーロットに呼びかける。

何度でも、シャーロットが気付くまで呼びかけ続ける。

ただそれだけだ、分かりやすくて良い。

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