第8話

シャーロットが出て行き、また1人になってしまった。


次は5日後だと言ったがそんなに悠長にしていて良いのか?


5日間何もせずニートを極め続けて良いというのならもちろんそうするが、仮にも王国の第一王子をそんなに放置はしないはずだ。

記憶がなくとも王国は第一王子に王族としての生活を強いるだろう。いやそれ以上に面倒なことにもなりかねない。


「いっそのこと中身が違うと言ってシャーロットに説明した話を国王とかにするか?

 頭の固そうなシャーロットでさえ納得したんだから案外信じてくれる可能性もあるよな」


……いいや、ないな。

シャーロットはギルバートが他の何よりも大切だから、この身体がギルバート本人のものであると俄かに信じ難くとも可能性を排除しなかったにすぎない。

頼る相手を誤れば、ここぞとばかりに偽物の烙印を押されて最悪殺される可能性がある。それは絶対に避けるべき結末だ。


ギルバートにとって実の親である国王は家族の情があると信じたいが、王位継承権云々の話があるところを見るに情報は最小限の信頼できる相手だけに与えるべきだ。


継承だなんだと言ってる場合は必ずそれぞれの後継者を支援する派閥があって、お互いが利益を得ようと躍起になり、いがみ合っていることがほとんどだ。王族や貴族やらが登場する作品には、だいたいそういう設定が付いてるの。それなりに歴史系漫画を読んだ俺は知っている。そういう展開がよくあった。

ギルバートの場合、絶対に第二王子ルートヴィンと歪みあってる。本人同士がどう思っているかなんて知らないが派閥はある、そして仲が悪い。絶対にだ。


「どこにスパイの目があるか分からない以上は警戒するに越したことはないよな。

 むしろ初めにバレたのがシャーロットで助かった」


仲が悪いのにしつこくギルバートに付き纏っていたシャーロットには感謝しよう。シャーロットのギルバートへの忠誠だけは疑いようがない。

敵だった場合は恐ろしいが、味方であればこれほど心強い協力者は他にいないだろう。


「さて、どうするかな」


俺はただの日本人だ。王族の振る舞いなんかできるはずもない。

いや、何より生きてきた世界が違う。

価値観も文化も知識も異なる世界で何を普通として享受するのかも分からずに、それ以上を求められても対応できない。

俺は5日間、どう過ごしておけば良いんだ。立ち去る直前にシャーロットを煽るような言ってしまったからか何も対策できていない。


「ギルバート殿下、失礼いたします」


頭を抱えていると少年のような声がドア越しに聞こえた。声の主は部屋の主人の了承を得る前にドアを開いた。


開かれた扉の先にはまだかなり幼い少年が、沢山の書類を抱えて立っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る