第53話 アネットとの約束

 年の瀬も迫り、今年も残すところあとわずかとなってきたけど、僕の生活はますます騒がしくなっている。

ドリーを治療したあの事件以来、たまにアネットが朝ご飯を食べに来るようになった。

アネットだけじゃない。パットン姉妹やタオまでもが朝の早い時間にやってくる。

食材はいっぱいあるし、彼女たちも寮からいろいろ持ってきてくれるから困ることは何もない。

それに一人で食べるご飯は味気ないから、僕も嬉しいのだ。

もっとも、タオは僕に会いに来るというよりはドリーに会いに来ていると言った方が正しいか。


 ドリーのために塔を二階建てにしてサンルーム(4)という部屋を作った。

ここは彼女専用の南向きの部屋で、大きなガラス窓がいくつもついている。

太陽の光をたっぷり受けてドリーは元気いっぱいだ。

ただ、一人にしておくと寂しいようなので、僕や他の人たちが塔にいるときは、なるべく一緒にいられるようにしている。


 ドリーを運ぶためだけにディフェンダーLv.1 を作成した。

そもそも防御は僕がやるから、ディフェンダーの必要性はあまり感じない。

ただ、こいつはパワーがあるので、ドリーを抱え上げて移動するのに便利なのだ。

ディフェンダーはドリー専属の護衛といったところか。

ドリーが来てから孤独な時間がなくなったから、これくらいはしてあげないとね。


 今朝も僕ら5人は塔に集まって、一緒に朝ご飯の準備中だ。


「見ろ、ドリー。あれがハーレムを作る女たらしだ。俺はね、富の偏在へんざいは許せても、愛の偏在は許せない人間なんだ。ドリーはああいう男に惹かれたらダメだよ」


 少し離れたところで、タオが準備をサボってドリーによからぬことを吹き込んでいる。


「ウリー……スケベェー」

「そうだ! ドリーは賢いな」

「ドリーに変なことを教えるなよ。そもそもスケベなのはタオの方だろう?」

「うるさい。リア充が何をほざこうと負け犬の遠吠えでしかないのだ! ん? 負け犬は俺の方……?」

「アオー……マケヌー」


 タオは相変わらずだったけど、大人のお店へ行くのはやめにしたそうだ。

その分、ドリーの洋服を買ったり、きれいな植木鉢などを購入したりしている。

なんだかんだで本当に純愛? に目覚めたようだ。


 僕らはアルバイトを再開して、ニグラダ平原で薬草を集めもした。

そして、集めた素材を元に各種の魔法薬を販売している。

しかも、このバイトにはシャロン先輩も加わってくれて、作製できる魔法薬の幅は広がっていた。


「私としてはお金よりも研究が楽しいのよね。研究室にいるだけでワクワクしてくるんですもの」


 シャロン先輩はレベル4にランクアップした研究室にご満悦だ。

一緒に『万能目薬』を開発したせいか、好感度は2段階も上がっている。

万能目薬はブラックミストなどの目潰し攻撃に有効で、フォレストオクトパスが頻出する地帯での売れ行きが好調だった。

二人で改良をほどこした回復薬も、よその物より効果があると、冒険者からの評判はかなりいい。


「今夜は帰りたくない気分……、もう少しここにいたいな……」


 とか言われるとドキッとしてしまう。

先輩は研究を続けたいだけで、僕と二人っきりになりたいってわけじゃないのにね。

たぶん……。


 冬休みを利用していく冒険旅行の準備も着々と進んでいる。

僕は稼いだお金でディノ型の装備を新調した。

専用の手綱たづなと、お腹側の鎧も兼ねたくら、革帽子も作ってやった。

防御力がけっこう上がったから、戦闘になっても少しは安心できる。

さっそく装着してローレライの森を一周してみたけど、動きにくそうな様子はない。


「ディノ、あそこの倒木に尻尾攻撃だ!」


 僕の命令に反応してディノは標的にトゲ付きの尻尾を叩き込んだ。

ディノ型は僕らが乗るごとに学習を深め、さらに頼もしい冒険のパートナーに成長している。


「いいぞ、ディノ。帰ったらオイルを差してやるからな」

「クゥー!」


 このように冒険の準備はバッチリだ。

だけど浮かれてばかりはいられない。

僕らには冬休み前に越えなければならない試練が待ち構えている。

もちろんそれは期末試験のことだ。

試験で落第すると冬休み中の補習授業に出なければならない。

そうなれば冒険にもいかれないので僕たちは必死だった。


 本日の放課後冒険クラブの活動は休みにして、僕とアネットは塔の書斎で試験勉強をしていた。

ドリーは窓辺で景色を見ている。

僕らはひたすら暗記に努め、何度も何度もテスト問題を解いていった。


 『情報を制する者は戦いを制する。テストは答案を盗むべし!』とは、師ラッセルの言葉だが、そんなことはリスクが大きすぎてできない。

何年かに一度、そういうことをする生徒もいるそうだけど、先生方も様々な対策を講じていると聞いた。

噂によると、ノエラ先生は全身脱毛の呪いをキャビネットにかけているらしい。

誰かがテスト用紙を盗もうとすれば、髪の毛から脇の毛、胸毛にすね毛にあそこの毛、すべてが抜け落ちてしまうという恐ろしい呪いなのだとか……。


 そもそも、テスト用紙を盗む苦労を考えれば、普通にテスト勉強をする方がよっぽど楽だ。ラッセルなら『ロマンがないねえ』と言いそうだけど……。


「そうだ、ロウリーにお願いがあるんだけど……」


 教科書から顔を上げたアネットがモジモジと言いにくそうに切り出してきた。

ずっと話し出すタイミングを計っていたように見える。


「どうしたの?」

「ウィンターレのパーティーのことなんだけど……」


 ウィンターレとは終業式の前夜に行われる学校行事だ。

一年の終わりを祝して会食とダンスパーティーが開かれる。


「ああ、そんなのもあったね。僕はパーティーなんて初めてだから緊張しちゃうな」

「それでね、その……エスコートをロウリーに頼みたいの。ほら、私たちは一応婚約者ということになっているじゃない……。あ、もしかして先約とかある?」

「そんなのないよ」

「だって、パットンさんたちとか、ギアス先輩とかと仲がいいから……」

「それは同じ冒険部員だもん。シャロン先輩とは一緒に薬の開発もしているから……」


 アネットはやきもちを焼いている?


「くずぅ~、ウリーはくずぅ~」


 タオめ、また新しい単語をドリーに教えたな……。


「とにかく僕に先約はないよ。その日はきちんとアネットをエスコートするから安心して」

「うん……」

「ところで、エスコートって具体的に何をすればいいわけ?」

「寮まで私を迎えにきて、一緒にご飯を食べたり、踊ったりしてくれればいいのよ」


 要はパーティーの始まりから終わりまで、二人で過ごせばいいんだな。


「それくらいなら任せておいてよ。せっかくのパーティーだから楽しく過ごそう」

「うん、私も楽しみだよ」


 アネットの笑顔はやっぱり可愛かった。

ラッセルの実子であることが疑われるほど光り輝いている。

それに、最近やたらと一緒にいたがるんだよね。

友だちが少ないのかな?


「ところでパーティーって何を着ていけばいいのかな?」


 僕は気になっていたことを聞いてみた。

フロッグコートなどの正装で来いと言われても、そんなものは持っていない。


「ドレスや正装で行く人がほとんどだけど、制服で出席する人もいるわ」


 制服でも構わないならありがたい。

僕が持っているのは制服と冒険用の服だけだもん。

せめてマントでも羽織っていこうか? 

師匠の倉庫で見つけたラビリンススパイダーの布だけど、洗濯機のじっくり手洗いモードで洗ったら、独特の光沢が生まれていい感じになった。

せっかくだからと工作室のミシン(2)でマントに仕立て上げたのだ。


 一見するとアイボリーのオシャレなマントだけど、アンチマジック効果もある立派なマジックアイテムだ。

洗濯すればすぐに汚れが落ちるので冒険にも使えるほど実用性は高い。

ドレッシーにして質実剛健、我ながら傑作と言っていい仕上がりになった。


「わかった、当日はウンディーネ寮まで迎えに行くからね」

「ありがとう。でも、遅れないでよ。エスコートをすっぽかされるって女にとってはすごく不名誉なことなんだからね」

「わかっているよ。何があっても駆けつけるから」


 僕らは時間が来るまで勉強をし続け、日が落ちるとアネットは寮へと帰っていった。



特殊能力:塔マスター(レベル13)

魔法:身体防御(プロテクト) ストーンバレット 

身体能力:自己治癒力 解毒体質 夜目

エクストラギフト:オートシールド×2枚 落とし穴×2 石壁

タワー構築(基底部~3F)・部屋作製・小砦Lv.2(30)

保有ポイント:204


■所有ガーディアン

ソードマンLv.2 ×1

アーチャーLv.2 ×1

ディフェンダーLv.1 ×1


好感度・親密度

 ラッセル・バウマン  ★★★★★★★★★★

 アネット・ライアット ★★★★★★☆☆☆☆

 タオ・リングイム ★★★★☆☆☆☆☆☆

 ララベル・パットン ★★★★☆☆☆☆☆☆

 ルルベル・パットン ★★★★★☆☆☆☆☆

 レノア・エレノイア ★★★★☆☆☆☆☆☆

 シャロン・ギアス ★★★★★☆☆☆☆☆

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