空の写生を趣味とする女性の、過去の思い出とそれに縛られたままの現在の物語。
現代ドラマです。ものすごい勢いで内容が殴りかかってくるお話。重い話、と言っては語弊があるのですけれど(作中の出来事そのものの重さはそんなでもないはず)、でも読んだそばからその内容が重石となってどんどんお腹の底に溜まっていくかのような、そういう読み口の重厚さがとてつもないことになっていました。ちょっと個人的かつアホな例えで申し訳ないのですけれど、きっとカツ丼とかラーメンみたいな、大好きで毎日食べたいけど実際やったら確実に体がもたない感じのやつ。最高すぎる……。
本作単体でも読めるのですけれど、実は連作シリーズのうちの一話です。つまりこのレビューはそれらを読んできた上でのものである、ということを一応先にお断りしておきます。単話として独立しているものの、それでもシリーズを通して見てきたからこそ煽られる様々なものは間違いなくあって、なので本作を読んで気に入った場合はシリーズを追ってみることをお勧めします。どれも面白いのはいうまでもなく、連作のうちの一編としての楽しみ方ができて二度美味しいので。
おそらく主題を担うためのモチーフであろう『空』の、その取り扱い方が冒頭からかなり直截的でびっくりします。いや普通に引き込まれてしまったのですけれど、でも一度読み終えてから見直すとすごい始まり方してる……この主人公、周りくどい言い方をしない「話の早さ」のようなものがあって、文字を通じてどんどんとこちらに投げ込まれる出来事や考えの、そのひとつひとつの持つ質量が本当に好きです。またその上で、時折その姿勢がよれるような形で顔を出す、何か身勝手なナイーブさのようなもの。内容そのものはきっと相当にひどいのに、でもそれらがしっかりした理路をもって語られていること、その事実に対する絶妙なやりきれなさのような気持ち。この辺、主として【2】(第二話)のことなのですけれど、もう何から何まで全部胃の中に溜まる、その感覚が本当に最高でした。こちらの体力を削ってくるだけの「威力」のある、つまり肉体で体感できる文章が面白くないはずもなく。
その先、【3】からははっきりと物語が動き出して、でもそこに関してはここでは触れません。ネタバレが致命傷になるタイプのお話ではないのですけれど、それでもやっぱりもったいないので。是非とも直接読んで体験して欲しい、分厚くて太い人間のドラマでした。面白かったです!