Episode7 チエコ先生とキクちゃんの水平思考クイズ【3】『嵐の前の残業』

【問題】


 F子さんが勤めている会社は、残業代の出ない会社でした。

 そのため、F子さんはいかなる時も、定時で仕事を切り上げ、退社していました。

 ですが、ついにある日、課長より課内全員での残業を命じられてしまいます。

 当然、F子さんも残業しなければなりません。

 F子さんが窓の外に目をやりますと、雲行きがあやしく、もうすぐ嵐がやってくることは確実でありました。

 いつも通り定時で帰りたかったF子さんでしたが、今日の残業だけはうれしく、心も軽くなってきました。

 さて、それはなぜでしょうか?



【質問と解答】


キクちゃん : えーと、チエコ先生、残業しなければならないのに、F子さんがうれしくなっていることを察するに、もしかして今日だけ特別に残業代が出ることになったんでしょうか?


チエコ先生 : NO。それはいつもと同じよ。


キクちゃん : もしかして、残業を命じた課長が皆のために豪華な出前弁当を取ってくれることになったんでしょうか?


チエコ先生 : NO。そういったメリットもないわ。


キクちゃん : それなら、F子さんは課内に気になっている人がいて、この残業をきっかけにその人との距離を縮められると思ったんでしょうか?


チエコ先生 : NO。


キクちゃん : となると……あ! 「F子さんが窓の外に目をやりますと、雲行きがあやしく、もうすぐ嵐がやってくることは確実でありました。」とあるから、嵐が来ても会社にいれば課内の皆も一緒だし、心細くないからうれしいということでしょうか?


チエコ先生 : 関係ありません。でも、F子さんの”心”に注目してみるのは、良い線いってるわね。


キクちゃん : 雲行きうんぬんのくだりは、ただのトラップだったんですか……F子さんの”心”にもう一度、注目してみますと、「いつも通り定時で帰りたかったF子さんでしたが、今日の残業だけはうれしく、心も軽くなってきました」とあります。「心も軽くなってきました」には違和感を感じます。金銭的や物質的、恋愛的なメリットは何もないのに、これから残業して仕事をするなんて、心がズーンと重くなってくると思うんですが……心が軽くなってきているのは、A子さんだけでなく他の人たちも同様でしょうか?


チエコ先生 : NO。だんだん解答へと近づいてきたわ。その調子よ。


キクちゃん : となると、他の人たちにとっては、この急な残業は、心がズーンと重くなるものでしかないということですね。うーん、うーん……


チエコ先生 : ……例えばだけど、キクちゃんが重たい荷物を一人で運ぶ場合と、その重たい荷物を別の人が一緒に運んでくれる場合、どちらがキクちゃんの負担は軽くなる?


キクちゃん : それはもちろん、後者ですよ。でも、自分の負担が軽くなっても、重い荷物を他の人に一緒に運んでもらうのは気が引けちゃいますし、肉体的な負担は減っても精神的な負担はそんなに軽くはならないです……


チエコ先生 : キクちゃんなら、そうでしょうね。でも、世の中の人が皆、キクちゃんと同じ考え方や感じ方をするとは限らないのよ。


キクちゃん : あ! F子さんは自分がするべき仕事を他の人に手伝ってもらうことになって、それで「うれしく、心も軽くなってきました」ということですか。まさか、他の人たちは、F子さんの仕事を皆で終わらせるために、急遽、課長より課内全員での残業を命じられてしまったのですか?


チエコ先生 : YES。正解よ。なお、さらに解説しておくと、「F子さんはいかなる時も、定時で仕事を切り上げ、退社していました。」の”いかなる時”とは”F子さんが自分の仕事が終わっていない時”も含むわ。そして、「ですが、ついにある日、課長より課内全員での残業を命じられてしまいます。」には、”ついに”ともあるから、F子さんは自分がすべき仕事を長期にわたり放置し続けていたんでしょうね。それが”ついに”発覚して、課内全員でF子さんの尻拭いとすることになったのよ。


キクちゃん : ……普通に迷惑な話じゃないですか。


チエコ先生 : そうよね。嵐も近づいてきているわけだし、課内の人たちだって、家族や家の様子が心配だったり、交通機関が止まってしまって家に帰れなくなるかもしれないのにね。F子さん以外の人の心には怒りのブリザードが吹き荒れてると思うわ。



(完)

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