第10話 戦いの予感


「――あれ......ここは......」


起きると見慣れた部屋だった。どうやらベッドで寝ていたようだ。


「う~ん?確か......」


思い出す、昨日へベルナにおんぶされながら寝ていたことを......


「うっわっ恥ずかしッ――痛タッ......」


恥ずかしいと思うと同時に横腹に痛みが......見てみると包帯が巻かれていた......


「あーあ、これは回復するのに時間がかかるよなぁ」


ドージャから受けたダメージまぁまぁ大きかったし......


「アキラ様、お身体の調子は如何ですか?私の回復魔法が効いていれば良いのですが......やはり専門の魔導師にお願いしたいですね......」

「大丈夫ありがとう、アイーシャ」


アイーシャ、最初の頃、俺に回復魔法をかけてくれていたメイドだ。


「......そういえば、アイーシャは回復魔法が使えるけど、やっぱり難しいのか?」

「はい、回復魔法は相手と自身の魔力を交わらせる必要があります、細かい調整ができない魔導師ですと危ない事に......」


回復魔法は攻撃魔法と違って難しい、やっぱり人にかける魔法はへベルナが言っていた通り難しいんだな。


アイーシャと話しているとマルフも入ってきた、どうやらへベルナに関する事のようだ。

「今日はへベルナ様は来られないとの事、ゆっくり休むように言っておられました」


家の事だろうか......いや、採掘場の最深部に何かあったとか言ってたし、それの報告をしているのかもしれないな。


「......しかし、へベルナ様とはどういう経緯でコンビに?」

「へ?それはどういう?」


アイーシャの突然の質問に少し驚いてしまう......どういう経緯、いけない考えてなかった。



「アキラ様とへベルナ様の関係は知っています、私は戦闘に関する知識はありませんが、へベルナ様がお強い事はわかります......しかし......」


恐らくアイーシャはこう言いたいんだろう、へベルナに比べて弱すぎる俺がどうしてコンビなんて組めたんだ、と......確かに最近は戦っては負けて、良くて引き分けだ。

へベルナが急いで俺を強くしようしていたのは万が一にでも誰かと戦ってボロが出るの回避する理由もあったのだろうか......


「アイーシャ、アキラ様に失礼ですよ」


マルフが話の間に入ってくれた。


「交友関係とは単純なものではありません、そしてそう易々と人が踏み込んでも良いモノでもありませんよ、アイーシャ」

「しっ失礼しました、アキラ様」


そういってマルフとアイーシャが部屋を出て行った。


アイーシャの疑問は間違ってない、俺が最初の頃に比べて強くなったとはいえ、まだ弱いのは確かだ。


「寝てるしかできないなんて、もどかしい......」


俺が回復力が早いとはいえ、今日は安静にしていよう、でないとへベルナに怒られるだろうし。


ベッドの隣の机に置いてある、紫色の分厚い本を手に取る。


「これも、少しは読めるかねぇ......」


当初貰った時は全く読めなかった魔導書、へベルナが重宝すると言っていた。


「何々......【ヘカテの魔法論】......」


あっダメそう......


何だろうか、俺にはわかる、

合わない本というのがなんとなく。


「あぁ、ほらほら......専門用語......」


ペラペラとめくるがダメだ、興味が持てないから頭に入らない......


そもそも文字は簡単なのしか読めないし......

へベルナはなぜ俺にこれを......これ専門家とかが使うものでは?


「まぁ、こういうのが読めれば役には立つだろうけど、俺にはまだ早いか......」


だが、何もしないのも嫌だから......


1ページを四苦八苦しながら数十分以上かけて読んでいる内に俺の1日は終わった。





昼過ぎ、いつもより数時間は遅いがへベルナが来る。


そして結局本はほとんど進むことがなかった。

ヘカテという魔導師が昔に居た事とその魔導師が魔法について弟子にも話していた事くらいしかわからなかった。


「アキラ、おはようございます」

いつものように静かに笑いながら、挨拶をしてくる。

「おはよう、へベルナ」

俺としては少し気まずいんだけどな、おんぶしてもらったわけだし。


「......前はありがとうな、背負ってもらって」

「構いませんよ、アレくらいなら何時でもできますし、良い運動になりました」

「運動って......」

「アイーシャから聞きました、まだ戦闘するのはきつそうですね......ただあの怪我で1日経ってるだけなのにその回復力はすごいです」


確かに完治はしてないが数日すれば回復できるだろう。


「......回復魔導師を連れてきたのですが」

「回復魔導師、回復を専門にした魔導師って事か?」


いるみたいなのは聞いていたけど。


「はい、回復魔法は高度な魔法ですから、専門にしている者もいるのです」

「俺、お金ない」

「安心してください、私は貯金がありますから」

「はぁ、何から何まで、頭が上がらない......」

「気にしないでください......では呼びます」


へベルナがドア越しに誰かを呼ぶ。

「ヒリア先生、お願いします」


そう呼ばれて出てきたのは小さなお婆さんだった、目を細めてヨボヨボ、小さなカバンを持っている。


「ヒリア=クホ先生です」

へベルナが教えてくれたヒリアという先生は近くの椅子に座る。

「アキラ=フジワラです......よろしくお願いします......」

「ほほっ、ヨロシクね、アキラちゃん......少し触るよ?」


そう言って俺の横腹を触る。へベルナはそんな俺を見守っている......マジで母親か


「これならすぐ治るわねぇ......」

そういって緑色の光が傷口を包んでいく。

「『ヒール』」


そう一言呟くと、俺の傷口はドンドンと小さくなっていき。


「すっすごい、痛くな......いたっ」

痛みはまだ引いていない、少し時間がかかるようだ。


「元気なのは良い事よ......これで大丈夫かしら?へベルナちゃん」

「ありがとうございます、ヒリア先生」

「ありがとう先生」


礼を述べるとヒリア先生は笑顔でそれを受け止めている。


「それでは私はヒリア先生を連れて――」

「私は一人で帰れるから平気よ......」

「ですが......」

「心配性ね、大丈夫、私はこう見えて強いからね」


細いヨボヨボな腕を上げる、正直強いとは思えない。


「へベルナちゃんも休んでね」

「......はい、ヒリア先生もお気をつけて」

「はい、ありがとう」


そう言ってヒリア先生はアイーシャに連れられて部屋を後にした。


「......【白亜の川ホワイトリバー】のドージャは謹慎処分される事になりました」

「謹慎処分か」

「後、ドージャがギルドマスターの代行権限を使用しての勝手な事だったらしいです、そしてそんな勝手を止められなかった【白亜の川ホワイトリバー】は一定期間の活動禁止を受けました、これで【白亜の川ホワイトリバー】は組織だってあなたを狙う事は多分ないと思います」


「......そうか」

「?あまり感情がないですね、喜んだり、安心したりするかと思いました」


確かに安心はしたし、俺を殺しかけた話の聞かない野郎だとは思ったが。


「あいつも被害者だろ」

「――」


仮に俺がドージャだったら、冷静にはいられないと思う、親代わりの人が意識不明、犯人はみなどこかへ行った、回復の為の方法はそいつらを捕まえるしかない。

そんな時目の前にそいつがいた......、

あいつは冷静さを欠いてはいたがその気持ちは理解はできる。


まぁそれはそれとして......


「まぁ、嬉しいとは思ってるがな!よくも俺を殺しかけたな、と、ざまぁみろと!」

「はぁ......そこは言わないでくださいよ......かっこよかったのに......」

「俺が全員回復させて、奴に復活したハンを見せつけてやり、俺が合ってたなと言ってやれば良いんだ、それで万事解決!ハッハッハッ」

「ふふっそうですね」


とにかく敵が減った、これで一歩前進だろう!


「ふぅ......では、私は用事があるので」

「用事って?」

「えぇ、採掘場の調査ですよ、私が案内しないといけないので......」

「調査って、そんなにすごいものが?」

「すごいというより怪しいですかね、アキラは今日は安静にしていてくださいね?『ヒール』は怪我は治せても疲れを取るわけではありませんから」


「ン―ッ!」

へベルナは大きく伸びをする。


「また来ます、今日もゆっくり休んでいてくださいね」


へベルナはそう言って部屋を後にする

魔石採掘場に向かっていくのだった。



「あっ【ヘカテの魔法論】について聞いておけばよかった......」




◆◇◆◇




へベルナは採掘場の最深部で目撃したモノを調査する為に再度最深部へ。


調査に同行したのは【黄金の鍵爪ゴールドクロウ】のギルドマスター・バルガ=ブレイザー、本調査隊の戦力として自ら希望した。その際に同ギルドメンバーより反対意見が相次いだが全部無視した。


緑の園グリーンガーデン】トラッテ=リュテル、黄緑の長い髪が特徴な好青年、現場を記録する書記係として同行。


青空の幻想スカイファンタジア】のガレナ=メイネは使い魔による遠隔調査で人が入れないところでも情報を取る事が出来る為。

同じギルドのへベルナ=マギアフィリアは道案内兼戦力として。


そしてプロイントス家の使者兼見張り役として兎型獣人ウササ=ラルジャが選ばれた。


「なるほど、奥にそんなものが......」

「はい」


ガレナは静かに笑みを浮かべながらへベルナを見る。

「見張りがいたのにどうしてこんな奥まで行けたの?へベルナ?」

「......どうしてでしょう?」

「そう.......ウササは知ってる?」

「しっ知らない、私知らない、お菓子なんて貰ってない!」


ウササは口を塞ぐがもう遅い。


「そういう事ね、へベルナ?」

「......はい」


ある程度歩いていくと行き止まり、つまり最深部である。


「そしてここの階段と......確かに異質な魔力を感じる......」

ガレナは地面に手をつける。


「この下に?」

「はい」


地面のドアを開ける。


「それでは、足元に気を付けてください」


へベルナにみんなついていくのだった。





「......確かに、これは......」


ガレナはまず空間が異様であることを把握した、真っ赤であることよりも円状の空間に満ちる邪悪な魔力それは、中央部の祭壇らしきものを中心にして広がっている、恐らく魔力の元凶は既になく今はその残滓が発生ているのだろう。


「この紋様もきっと意味があるはず......」


祭壇を中心に紋様がところどころ目を模した形をしながらカクカクと放射状に拡散されている。


「トラッテ、この紋様の形も全て記録しておいて」

ガレナは真剣にそう語りトラッテもそれを詳細に記録する。

「はい、わかりました」


そんな中バルガとウササは、壁に埋め込まれているいくつもの赤い結晶に意識を向けていた。


「なぁ、この薄い青の奴はなんなんだ?」

バルガは腕を組みながら、それを見ている。

「それが気になっていたのです、何か意思のようなモノがありますよね?」


核には薄い青の塊がユラユラと浮遊している。それは何かを知らせようと動いてる気もしたし、ただ無意味に浮遊しているだけにも見える。


へベルナはバルガと共に壁の結晶を観察する。

「触っても平気かな?」

「ウササ触らない方がいいですよ」

「あぁ、へベルナに賛成、誇張でもなんでもなく、ここにある赤い結晶は不気味だ」


バルガの言葉にガレナも賛成する。


「えぇ、装飾品用に色を変えた魔石もあるって話を聞いた事はあるけど」


ここにある魔石は全て深紅というには禍々しすぎる。


「あと、祭壇らしき所......」


中央部の祭壇には血のように赤黒い魔石の欠片らしきものが残っていた。


「......これは、回収するのは無理ね」

「ガレナもそう思いますか」

「それに周りの結晶の中の塊、何かあるはず......」


この調査隊事態即席で誕生したもの、近く本格的な調査隊が結成されるだろう。


「トラッテの記録が終わったら引き揚げましょう」




◆◇◆◇




「なぁパレハ、もう帰ろうぜぇ?」


オレンジ色のおかっぱ頭、パレハについていくように語るのは大柄で顔がブルドックの犬型獣人ブルオーノ、背中には斧を背負い、見た目から重戦士であると分かる。


「俺ぁお前の親父さんに叱られるのが嫌なんだが」

「お前は僕の用心棒だろうが!」

「パレハのじゃなくてプロイントス家の、だぜぇ?」


この獣人は別にパレハの用心棒ではなく、家の用心棒の一人、しかし、パレハとの付き合いが長い為に時々厄介ごとには巻き込まれる。


「グラディウス家の別荘は流石に不味いだろうがよぉ、こんな夜によぉ」


もし父親にこのことがバレれば大変な事になるだろう、パレハは当然、それを止めなかったブルオーノも大変だ。


「だが、あそこにやつ......アキラがいるはず!」

「オメェはよぉ、そいつにボコられたんだろぉ?」

「違う、僕はあの時、手を抜いていた!」


パレハ=プロイントスはアキラに引き分けになったことをいまだに根に持っていた。


「はぁ、手を抜いて引き分けってよぉ......カッコわりぃよなぁ」

「......」

「オメェのそういうとこ、ハノンにそっくりだぜぇ、不器用すぎんだよなぁ」

「兄上の事は......言うなブルオーノ」

「っと、これは申し訳ない、失礼しました」


獣人男ブルオーノは今までの態度とは違く、礼儀正しく謝罪をした。


「やはりやめとくか?」

「おいおい、マジかぁ、オメェここまで来て帰るとか、そらねぇぜ?」


ブルオーノの言う通りでここまで来ておいて帰るのはカッコが付かないだろう。


「っブルオーノ!どうして僕を止めなかった、疲れたんだが!」

「マジかぁ......」


街中をパレハとブルオーノが歩いくと、徐々に街の建物は木々に変わっていく、

別荘は町はずれの森の中にある、その為余計暗く感じるのだ。


「あぁ、やっぱやめ、帰ろう」

「ったく、最初からそう選択しておけば帰りは楽だったのによぉ」

「用心棒がどうしてこの僕に偉そうな口を――」


――その瞬間ブルオーノはパレハの口元を塞ぎ、大木の裏に隠れた。


「(何がっ!?)」

「シッ」


ブルオーノは本気の顔である、流石のパレハも何事かと思いブルオーノと同じ視線の先を見つめる。


「......」

「(?)」


誰かが話し合っている、幸い森は静かだ、声が聞こえて来る。


「時間をかけ過ぎました......」

「もはや一刻の猶予もない、不完全なアレでは、もう時間をかけられない、これ以上時間をかければ回復されてしまう......今までの苦労が全て無意味に......」


ブルオーノは完全に仕事モードだ、一切も聞き漏らさぬようにじっとしている。


「(顔が解れば......フードを被っていてわからないな)」


「......俺も今から採掘場に向かう、そしてドリナと合流して急ぎ回収する」

「自らが行く必要は......」

「今回の一連の出来事は全て俺のミスだ、尻拭いをしなければ」

「マスター......」


どうにも怪しい。


「いや、既に【漆黒の蛇ブラック・スネーク】は壊滅状態だ、マスターなどとは呼ぶな」

「――ッハイ......」


漆黒の蛇ブラック・スネーク】......パレハはその名前を思い出す。


「っ!?あっ......」

「――っ......」

驚いた拍子に声を漏らしてしまった。


「ッ!」

「――マスターッ!?」

「お前は採掘場に行けッ代わりに俺が――」


靄が消えるとフード男は茶色髪を晒しながら両手に短剣を持って突っ込んでくる。


「ブルオーノッ!」


パレハが叫ぶ前にブルオーノは斧を持ち出して、パレハの前に立つ。


「聞かれたからにはっ、死ね!」

「――ッ」


ブルオーノが押されている、プロイントス家の用心棒として長年仕えてきたブルオーノの実力は並みの冒険者を超えている。


「パレハ、オメェは別荘に行け、誰か助けを呼ぶんだ!」

「だっだけどっ」

「俺ぁ大丈夫だ!つえぇかんな!」

「っ――」


ブルオーノの言う通りにして、パレハは逃げていく。


「ッチ......」


ブルオーノは自慢の巨体を武器に相手を力で押さえつける。


「オメェの目的はなんだぁ?」

「言う訳にはいかないな!」

「そうかい、んじゃ潰れて死ね」


リードルの短剣はギシギシと悲鳴をあげている。


「(仲間が潜んでいる可能性がある......)」


自分の実力に自信があるとはいえ、一気に複数は相手にできない、それにパレハを追う者もいる可能性もある、だがブルオーノが身動きがとれぬ以上、パレハの実力に期待するしかできないのだ。


「(チッ、つくづく運がないなぁ)」


「オメェ他に仲間は潜んでいるか?」

「言うわけがないだろう!」


だろうなっと思った矢先だった


「当たりィ」

「――ッ」


リードルから離れて赤色の鞭をかわす。


「オメェは......」


鋭い目つきにピンク色の髪、ピンク色のスーツにピンクのネクタイ、ピンクのワイシャツ、へベルナが目撃したという容疑者の一人だ。


「ッなぜ、逃げた奴を追え!」

「そうは言ってもねぇ、僕と君との契約はさ、強い奴と戦わせてくれる事だったわけだし......」


仲違いだろうか、ブルオーノとしてはありがたいところ、様子を見ながら様子を伺う。


「お金なんてもうないリードル君のお願いを、僕が聞いてあげた訳だしさ、少しくらい好きにさせて貰ってもいいだろう?」

「ッチ」


リードルと言い争いをしている男。


「そんなに怒るなよ、僕が時間稼いであげると言ってるんだからさ」

「――ッいかせるか!」

「『爆裂の鞭』」


ブルオーノは逃げようとするリードルを追おうとするがピンク男に足止めされる。


「――ッ」

「という訳で遊んでくれるかな、ワンちゃん」


ブルオーノとピンク男は向かい合う、パレハの逃走を信じて――



◆◇◆◇




「『――旅を終えた魔導師ヘカテは有志と共に学園を設立した、その学園は将来に名を残す著名な人物を魔導師、剣士といった職業、種族を問わず多く輩出してきた。

人々は彼女を師のように慕っていたとも云うし、異性として見ていたとも云う。

と云うのも、時に弟子の一人であったメルリヌスは彼女に夜這いを――』」


どうにかして【ヘカテの魔法論】の序章部分を読んで少しは理解してきた、

ヘカテが自分で書いた本ではないという事と、痴情の縺れがあった事。

学園の設立にも貢献した魔導師ヘカテは魔法の発展において重要な役割を持っていたであろう事はわかる。


「きっと創作物の題材にも沢山されてるんだろうな」


そしてこの本の本題には多分まだ入ってないハズだが......


「へベルナには悪いケド、俺コレ、きっと全部は読めない......」


へベルナがくれたモノだから無駄にはしないようにはするが。


「......もう夜か......」


なんとなく、屋敷を歩いている時だった、ヤケに使用人やらが動き回っている。


「何かあったの?」

たまたま通りかかった、アイーシャに

「パレハ様が助けを求めてきたのです!」

「っパレハが!?今どこに」


何があったんだ?


急いで向かうと入り口の所には疲れ果てているパレハ。


「パレハ、大丈夫か!?」

「戦える奴いないか!?」

「なんだ、誰かに追われてるのか!?」

「【漆黒の蛇ブラック・スネーク】のリードル、奴が――」

「――ッ!」


リードルだと!


「リードルは今どこだ!」

「わからない!さっきまで僕を追って来てて......」

「わかった!」

よしなら、俺が――

「まっ待て!、お前じゃ勝てない!、マルフだ、ここにいるマルフはそこらの冒険者より強い!それに敵は他にも――」


なんだと......他にも?


「パレハ、大事な事だ、詳しく教えてくれッ!」




◆◇◆◇




一方その頃、へベルナ達は――



「皆さん、記録終わりました」


トラッテの言葉を待っていたかのようにウササはぴょんぴょんと跳ねる。


「やったこれで帰れるよ!」

「もう外は真っ暗でしょうね......」

「何かあるかと思ってきたが、俺が来た意味なかったな」

「バルガ、ギルドに戻ったらメンバーに色々言われるわねぇ」

「あぁ、言わないでくれ、無理して言って何もなかったとか......」


ガレナとバルガが話している間、へベルナは階段の方を見ていた。


「ん?へベルナ、どうしたの?」

「......いえ、何か近づいてくる音がしませんか?」


へベルナの言葉にウササは耳を立てる。


「――ッ!誰かすごい速さで来てるよ!」

「っ一人!?」

「うん!」

「そう、見張りを連れていないと......だとしたら相手は不法侵入をしている事になります、ウササ後ろへ」

「んッ!」


ウササはそう叫ぶとそのまま階段を離れてへベルナの後ろに隠れてしまう。


「バルガさん、ガレナ!」

「わかってるわ、トラッテはウササを」

「っわかりました!」

トラッテはウササを連れて後方へ移動する。


「俺は先頭で戦うぜ、ガレナサポート頼む」

「バルガ、あなたが倒れたら、全員死ぬかもだから、お願いね?」

「へっ責任重大だな、任されたッ!」

「私はここでは大きな魔法は使えません、トラッテ達を守りながら援護します、バルガさんたちは相手に集中してください」


階段の前に立つ、先頭にバルガ、その後ろにガレナ、さらに後ろには、ウササを後ろにしてトラッテとその二人を守るへベルナ。



ドッドッドッドッドッ――



激しい足音が聞こえて来る、もうすぐだ――



――バンッッ



階段から何かが飛び降りてきた――



土煙が晴れると立っていたのは灰色の髪をしている少女。


そして異様だったのが顔色は極めて悪く灰色にも見える。継ぎ接ぎだらけの顔や腕、足は統一した色をしていない。

この容姿で先ほどまで激しい音を立てながら走っていたのだろう、それも不気味だ。


そして大きなネジが頭に突き刺さっていた。


「中に人がいるなんて、聞いていなかったのですが......どいてくださるとありがたいです」

「......お前は誰だ」


バルガは警戒を崩さずに話しかける。


「私は【漆黒の蛇ブラック・スネーク】のドリナ=シュタン、無事地上に出たいのでしたら、どいていただきたく――」

「断る」

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