第9話 おやすみなさい


ウササはきょろきょろと辺り見回す。


「ホントはこんな奥にへベルナは行っちゃいけないんだよ、ドージャは私を無視して勝手に行ったけど......」


採掘場を奥へ奥へ進んでいくと単調だった内部がドンドンと様変わりしていく。

薄い青の小さな石は恐らく魔石の欠片である、相当内部へ掘っていたようだ。


「ん~、ここが最深部っ!」


最深部は何の変哲もない少し広いだけの空間だった。

しかし、魔石の欠片が壁から生えている。


「ふふっ、アキラにお土産の魔石でも」

「あっだめへベルナ!プロイントスとアルカディアの人に怒られちゃうよ、あの人達ドケチだから!」

「......冗談です」


辺りを見回すが、コレと言ったものはなかった。


「ねっ、つまらないでしょ?」

「......そうですね......」


これでは完全に行き損である......何かないか探していると――


「あれ?」


壁は土と岩と魔石だが、地面の端っこに一か所だけ、人工物のような物が見えた。

地面の砂を払うと灰色の扉である、開けてみるとそれは階段であった。


「ウササ、これはなんですか?」

「私、知らない、他の人も知らないんじゃないかな?」


下から魔力をより強く感じる。


何かある、そう確信したへベルナは決心して。


「......行きますよ」

「え、行くの......」

「......正直安全である保障はないです、ここで待っていても......」

「......ん、ついていくよ、ご褒美まだだし」


そう言って、へベルナの服を軽く引っ張る。


「そうですか、安心してください、守りますからね」


へベルナはそのまま地下へと進んでいくのだった。




ドージャとレントム、流石に二人相手は流石にキツイか......


「ドージャ、リードルが近くに潜伏している可能性があるのは知ってるのか?」

「あぁ知ってるさ」

「だったらリードルをまず捕まえてから俺を捕まえてもいいだろう!?」


しかし、俺の言葉に聞く耳を持っていないようだ。なんなんだよこいつはっ!


「レントム、戦うか?」

「いや......」

しかし、レントムは戦うきはないようだな、あまり乗り気じゃないのか?

「そうか......戦わないならどいてくれ」


ドージャがそう言ってくれたおかげかレイトムは戦闘の邪魔にならぬように離れていく。


良かった一対一なら......まだ戦える。



ドージャは剣を取り出す、それを見て俺も剣を出す......これは命がけなんだよな......

俺初めて命がけの戦いをするんだよな......

「すぅはぁ......」

気休め程度の呼吸をしてドージャを見る。



「アキラ、マスターの為に――死ね」





「アキラ、マスターの為に――死ね」


その一瞬で間合いを詰められていた。


「早ッ――」



カキンッ――



アキラは反射的に剣を構えたおかげで切られる事は防げたが――

「――」


攻撃を受けた反動で動けない隙を突いてドージャは横蹴りをする。


「――ッグアァ」


アキラはそのまま吹っ飛ばされるが途中で受け身を取り、すぐさま立ち上がる。

しかしその隙を逃さずにドージャはアキラに向かい走る。

「――」

「ッ『魔光破』」

魔力を纏った剣を思いきり振り払う事で放たれる魔力の衝撃波

「――クッ」


激しい魔力の衝撃に思わず防御態勢を取るが今度その隙をアキラがとる。

「――ッ」

右手で剣を振り下ろし――


カキンッ


相手がそれを防いでいる間に左手で魔法撃つ――


「『ファイアボール』」


左手の火球はそのままドージャの身体に当てるように叩きつける――


バァァンッ!


「グァァァッッ!」

ドージャは吹き飛ばされていく。


「!」

アキラは吹っ飛んでいくドージャに向かい走るが――


「――っ」


――一瞬の躊躇


剣を一瞬と止めてしまう――


その隙を突かないはずがない、ドージャは切りかかろうとしたアキラに――

「『水流斬』」

水を纏った剣を振り上げる。


「グッ!」

アキラの体から顔面までを真っ直ぐに切る。

「っち、寸でのとこで避けやがって......」


アキラも咄嗟の判断でバックステップしたことで真っ二つにならずに済んだが

「......ッ」

しかし、ダメージは大きい、先ほどまでのスピードはない。


「少し、油断したか......」


だがそれはアキラだけではなく、ドージャも同じであった、アキラの魔法は弾道こそはシンプルであり、魔法も基礎魔法。しかしその火力は歴戦の冒険者であっても当たればダメージを避けられない。それを至近距離で受けてしまったのだ。


「クソが、全く話を聞かない野郎だよッお前はッ!」

「――ッ」


お互いの剣がぶつかり合う。


「グッ!?」

剣のせめぎ合いをしながらドージャはアキラの剣の勢いを利用して受け流す――


体制を崩したアキラが前に倒れそうになった所を――


――蹴り上げる。

「ガハッ!?」

アキラは腹に当たった事で――

「――イッ!?」

嘔吐物はドージャに噴出される、これはアキラの意地によって行われた技である。


「クソッ」

ドージャはいきなりかけられた汚物に動揺してしまう――


その隙を突く――


「『ファイアボール』」


炎の玉をドージャに向けて撃つ――


「舐めんなぁッ!」


しかし、ドージャもそのままではやられない剣をアキラに振り払う様に投擲――


ドージャは『ファイアボール』が当たり――


「ギャアアッ!?」


アキラも腹の横を剣が通り切り裂かれる――


「ガッハッ!?」


お互い倒れ、少し時間が経てば、また、四つん這いになりながらも立ち上がる。


「はぁはぁ、まだだ貴様を殺して、マスターを......」

「冗談じゃないぜ......冤罪で死ぬなんて......」


ドージャに一歩及ばず、アキラはどうにか立ち上がる。


「お前......剣投げてたけど、なくて大丈夫ッスかぁ......なぁんて......」

「舐めるな、剣がなくても体術がある......」


正直これ以上戦える余裕はアキラにない、しかし、相手はやる気――


「冗談じゃないんだよ、よくわからん事に巻き込まれて死ぬなんてッ!俺は何も残せても、成せてもないんだぞッ!」


アキラ自らを鼓舞する、そして――


「最後の手段......使うか......」


覚悟を決める、変身姿もまた容疑者の一人、これを使えば、恐らくはへベルナからも疑われる事になるだろう。


「(それは、それだけは嫌だなぁ......)」


しかし、死ぬわけにはいかないだろう、そう決心して――


再度戦闘が始まろうとした時だった――



「――待ったっ」


その声に全員が振り向く。


眼鏡に緑を基調として、胸をさらけ出した服、金ぴかな杖。


「ガレナ=メイネ、参上ってね、喧嘩......のレベルを超えてるわよ」





目の前には見た事のある人......。


「アキラ君、平気......じゃないわね」


ガレナ......か、助かった......俺絶対最後の手段の変身を使ってた......


「【白亜の川ホワイトリバー】ギルドマスター代行・ドージャ=オブア、何か言いたい事ある?」


ガレナの目は真剣そのもの......殺し合いをしたわけだからな......


「......なぜ此処に?場所はバレないようにしていたはず......」

「そんなの簡単よアキラ君に私の使い魔つけさせてたからね?」

「えっ」


あれ、俺のポケットからカメムシが、えっこれ?......


「これであなたがどこいるのかわかってたのよ、細かい事はわからないけど戦闘をしているかくらいはわかるわ」


えっ勝手に......


「ふふっごめんなさいね?一応アキラ君は容疑者なわけだからさ、何もしないのはちょっと、私、へベルナと違って疑り深いのよね」


結果的に助かったからよかったが......使い魔ってそんな事もできるのか......


「そんな虫、意思疎通ができないはず、そんなのを使い魔に......」

「それでも出来るのが私よ?ドージャ君どうするの?流石に見なかったことには出来ないけど、言い訳くらいなら聞くわ」

「ドージャ、頼む、もうやめてくれ......」


レントムもドージャを見ている、ダストという場所での縁がそれほど深いのだろう。


「.......アキラ君はどう?」

「きついっす......」


腹を剣で切られたし、傷口を見る勇気がない......


「......ドージャ君、あなたがハンを親のように......いえ、親として慕っているのは知ってるわ、今の状態をどうにかしたいというやきもきした気持ちもね、でもやりすぎ、あなたは一回頭を冷やした方が良いわ」

「っ......」

「レントム君、他の仲間は?」

「......今は別行動を取っている......あまり意思疎通は出来ていない」


どうやらドージャが独断で動いている側面があったようだな。


「なるほどねぇ......でも、アキラ君もアキラ君よ、あなたが狙われてるってわかってたのに」

「すんません......」

「それでその、へベルナは今は何処にいるの?」

「俺はへベルナと魔石採掘場で別れて――」


だが、もう夜、へベルナは家に帰ってるのでは?


ガレナは頭に手を当てて集中している。


「いえ、まだ採掘場にいるっぽい......」

「......へベルナにも使い魔を?」

「......てへ★」


俺はともかく、知り合いであるはずのへベルナにも使い魔をつけてた訳だ。

ガレナは用心深い人かもしれない。


「ここからそう遠くないわ、私はドージャ達の事あるし、アキラ君はへベルナに任せちゃいたいから、急ぎましょ」





階段を降ると上層とは全く違う雰囲気である。


「ここは一体......」


円状の空間で壁に埋め込まれているいくつもの赤い結晶の核には薄い青の塊がユラユラと浮遊している。それは何かを知らせようと動いてる気もしたし、ただ無意味に浮遊しているだけにも見える。


「......?」


中央部には祭壇らしきものがある、祭壇を中心に紋様がところどころ目を模した形をしながらカクカクと放射状に拡散されている。


「......真っ赤......」


不気味なのは全て赤い事だ、魔石には加工品もあり、それのおかげでカラフルなのもある、しかし、ここにある魔石は全て深紅というには禍々しすぎる。

中央部の祭壇には血のように赤黒い魔石の欠片らしきものが残っていた。


それは明らかに他とは異質である。


「......」


これは危険だ、彼女の本能だろうか、全てがそう訴えかけてくる。


しかし、手に取ってみたくなる......そんな気持ちを覚えさせる。


「――これは?」



――少しだけ



「へベルナぁ、ご褒美!」

「わっ――」

ウササが後ろから抱き着いて褒美を求めてきたことでへベルナは驚き、我に返る。


「私、ご褒美欲しい、約束どおり最深部に連れてったでしょ」

「えっえぇ......そうでしたね、ここを出たら渡しますよ」


へベルナは魔石を取るのをやめてそのままウササと共に洞窟の外へと向かう。


「それに、この事は報告しないといけませんからね......」


へベルナはこの場を去るのだった。





「もう夜ですか、長くなってしまって――」


へベルナはウササと共に採掘場から出ると見慣れた面々が出迎えていた。


「――なっ何が、アキラその怪我はなんですか!大丈夫ですか!?」


思わず駆け寄る。


血だらけであるアキラを支えるガレナと

白亜の川ホワイトリバー】で怪我だらけのドージャとそれを支えるレントム、何があったのかは明白だった。


「あのー、自衛は出来ました......」

「へベルナ、アキラ君、自衛出来てなかったわ、私来なかったら、死んでたもの」

「......そのようですね......」


両者、何が起きたのかを説明しながらガレナはドージャ達を連れて別れ、

アキラはへベルナに連れられて別荘に帰路に立つのだった――





「あの......」

「なんですか?」

「恥ずかしいんだけど」


背負った方が早いとへベルナは俺を背負いながら歩いている、どうもへベルナは昔、荷車を引いてたり、色々した結果、力にはある程度の自信があるらしい。

22歳の大の大人を身体は15歳くらいの少女が背負う......魔力とかの助力もあるのかもしれないが、へベルナはすごいな......。


腕をへベルナの首に回して足も律儀に持ってもらえて俗に言うおんぶ状態だ。


「応急処置をしたとは言え、あまり動かす訳には行きませんから」

「いっいや、そうだけど、へベルナのマントとか服、血で汚れるだろ?」

「はぁ......怪我人が人の服の汚れを気にするモノではありませんよ」


そりゃそうだけど......


「......」


でも、落ち着くな......おんぶなんて大人になったらされる事はないし......


おんぶってこんなに落ち着いて安心するものだったんだ......


「......」

「ふわぁ......」


いっいけない......安心して眠くなってきた......


「眠いですか?」

「いっいや、全然?」


欠伸がバレた恥ずかしい。


「子供みたいな意地を張らないでください」

「うっ......」

「ドージャとは命がけの戦いだったようですね、なら疲れて当然ですよ」

「ふわぁ、そういう......ものなのか......」



ウトウトしてきた、これは――



「そういうものですね」

「......そういう......ものか......ふわぁ~」



そういうものか――



「......アキラ......おやすみなさい」

「おやすみ......なさい......」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る