第11話 謎の生命体

マルフはすぐに駆け付けて付けてきた、パレハ駆け抜ける際に擦り傷も多く、アイーシャから回復魔法を受けている。


「採掘場にもだとッ」

「何かを回収する気らしい......ッウルオーノに何かあったんだ!だからリードルが追って......」


これは一刻の猶予もない!


事の話を聞いていたマルフはすぐさま提案してくる。

「アキラ様、パレハ様、私はウルオーノ様を救出に向かいます、お二人は此処に――」

「いっいや、俺は採掘場に向かう!」

だが、その提案は受け入れられない。


「っアキラ、お前じゃ無理だ!足で纏いに――」

「――っ、採掘場にはまだへベルナがいる可能性もあるんだよっ!」

「なんだと!?」

「なんでも最深部で何か見つけたらしくてな、それの調査をしに行くと」


もしかしたら、既に外に出ているかもしれないが、もしもの事がある。


「マルフさん!俺は採掘場に!」

「......アキラ様、もどかしいのはわかりますが、怪我を治したばかりで無理をさせる訳には......」

「――マルフさん!」

頭を下げる、ここで退いたら絶対に後悔すると思ったから。


「......わかりました......アイーシャ、彼についてください」

「えっですが......」

「......アキラ様、アイーシャが退くよう言ったら退くと約束してください」

「......わかった」


これで、どうにか。


「パレハ様、ここはルキウス様の別荘でございます、たかが使用人と言えど最低限お客様を守る程度の実力はあります......」

「......いっいや僕もアキラと一緒に行く、ウルオーノはマルフに任せておけばいいだろう、だがこいつらだけじゃあまりに心もとない」

「パレハ、お前は大丈夫なのか?」

「お前には言われたくない、僕の本気を見せつけてやる」


パレハもやる気のようだ、数が増える分にはありがたい、マルフは少し考えているが。


「......マルフ、僕は行くと言ったら行くぞ」

マルフからしたら溜まったモノだ、お客様を危機に晒すようなモノ、この恩は必ず返すから......


「......わかりました......」

マルフはいつの間にか腰に剣を付けている、マルフは剣士だったのか。


「私はウルオーノ様の所へ向かい、救出、その後採掘場に向かいます」

「ありがとう、マルフさん、この恩必ず返します」

「いえ、きっと私でも同じ事を願ったと思います......」


マルフは静かに笑うと真剣な面持ちに戻り。

「では、行ってまいります」

そう言ってマルフは剣を持ってパレハの言っていたウルオーノの元へ急ぎ向かっていった。


「俺たちも行くぞ」

「私は付与魔法使えますから、『疾風の足』を皆に付与して急ぎましょう」


アイーシャの付与魔法を利用して

俺とパレハとアイーシャは採掘場に向かう事になった。



◆◇◆◇



後ろにいるウササとトラッテを守りながら警戒をする、バルガとガレナは堂々としている。


「私は【漆黒の蛇ブラック・スネーク】のドリナ=シュタン、無事地上に出たいのでしたら、どいていただきたく――」

「断る」

「......」


バルガの即答にはドリナの気だるそうな濃い青の瞳は一瞬だけ怒りを見せた。

喜怒哀楽は案外はっきりしているのかもしれない。


「【漆黒の蛇ブラック・スネーク】......目的は何かしら?」


次はガレナが聞く。


「大切なモノの回収です」

「大切なモノ?それはなんですか?」


大切なモノ?私には見当もつかない、思わず口を出してしまった。


「それは、アレです」


ドリナの指さす方向を見ると壁にある無数の赤い結晶。


「それは魂の檻、私たちには必要ですので......どいていただきたいです」

「たま......しい?」

「......どいていただきたく......」

「魂の檻とはなんだ?」

「そのままの意味ですが......どいて......はぁ......あなた方も別に怪我とかしたくはないでしょう?......その壁のやつを回収したいだけでして......」


ドリナが壁に目線を向ける、回収という言葉に反応したのか、それに呼応するように壁にある赤い結晶の中の塊は明らかに激しく動き始めている。


「......まだ、憶測の域を出ないケド、これを回収させるわけにはいかないようね」


ガレナの言葉には私も賛同する、あの薄い青は意識不明者の魂......そうであると考えたからだ。


「はぁ......時間をかけるなと言われてるので、早く終わらせますね?」

「舐めてんじゃねぇぞ、ネジ頭が」

「......早くど――」


バルガは挑発をして相手の出方を伺い――



私が瞬きした瞬間――



バルガは拳を鉄に変化させ――

「――ッ鉄拳制裁』」


ドリナの顔面を――

「――グッ?」

――殴り飛ばす。


「――まだだッ」

「ッ!」


さらに追撃し、そのままドリナは階段に叩きつける。


「な――」

「おらッ――」


ドリナの片腕を持ちもう一度、地面に叩きつける。


「ひゅ~さっすがねぇ、バルガの鉄拳お師匠顔負けじゃない?」


ドリナを叩きつけ見下ろしているバルガの元へガレナは近づていく。

「はっ師匠の前でそれ言ってみな、笑われんぜ」


ドリナはよろよろと立ち上がる、凄まじい耐久力、殺すつもりなかっただろうが、あれを食らっても立てている。


「あっあれ......おかしい、どうして、こんな強いのがここに......」

「降参するか?」

バルガは提案する。

「降参?ふへ、しませんよ、と、言うか、逆に私が提案します、降参しませんか?」


先ほど圧倒的な実力差を見せつけられたはずなのにどういう訳か余裕そうなドリナ、何か策があるのだろうか。


「随分と余裕そうじゃねえか」

「想定外の相手がいたのには驚きましたが――」

ドリナはそう言ってと頭に刺さっている大きなネジを両手で取り始める。

「――ッ」

頭の頂点から緑色の炎が噴き出して、炎は巨大な人間の上半身のように変化する。


「まだまだ、これからが本番という奴ですよ......どいてくれませんか?」


「へっ断るって言ってるだろう?」


◆◇◆◇



漆黒の蛇ブラック・スネーク】のギルドマスター・リードルはパレハを追う事は時間の無駄と判断し仲間との合流を図る為に採掘場に向かっていた。


「ケイテスとドリナは採掘場に向かっているならば合流は出来る、そこから――」


漆黒の蛇ブラック・スネーク】は魔石の採掘場の盗掘を専門に行っていた比較的小さな闇ギルドだった。


西ソルテシア旧魔石採掘場にはまだ大量の魔石が埋蔵されている、という話は昔から聞いてはいた。だが、真偽も定かではない都市伝説、わざわざそこを選ぶ意味はなかったのだ。しかし、ある日、ある儲け話を依頼された。


「もうすぐか......ケイテスはもう着いている頃合い、後はドリナか......」


『採掘場の占領』西ソルテシア旧魔石採掘場を占領してほしいと......しかしいかに手馴れていても首都近くの採掘場占領など、本来であれば不可能な依頼だ。


だが、愚帝とまで揶揄された先々帝の残した混沌の遺産......それを取り除くことの出来ない凡帝の時代であった、そして没落の一途を辿り、ただ先祖の遺産を食いつぶす存在に成り果てていたプロイントス家には良質な警備の傭兵を雇う力は落ちていた。


「ドリナが回収していれば......依頼は完了だ......」


だから、占領出来た......出来てしまった。そして見つけてしまったのだ自分たちのレベルでは分不相応な代物を――



「着いた......」



ようやくついた採掘場前には倒れこむ警備隊、ドリナが行ったのだろう。

「これは......」

警備隊が倒れている事に驚いたのではない

「......数が多い、普段は此処まで多くはないはずだ」

普段の人員の数は把握していた、あらゆる状況を考え今日が最適であると踏んでいたのだ。


「......ケイテスは......内部に入ったか」

考え込んでいると――


『ファイアボール』


「ッ」

背後から炎の玉が飛んでくるの察知して避ける。


「......基礎魔法......その割には中々の火力だ」

「そりゃ、どうも」


男二人と女一人。


「お前は......」

「ひぃ」

「なるほど」


一人は逃した男だ、増援を呼んだと理解した。


「さっさと終わらせようか、時間をかけている余裕はない」



◆◇◆◇



しかしどうしてここにリードルが?ウルオーノとかいう奴がこいつと戦ってたんじゃ......


「おっおい!ウルオーノはどうした!」

パレハは威勢よく怒鳴るけれど......

「無様に逃げた癖に心配か?」

「ッ」


どうする......ウルオーノに関してはマルフがどうにかしてもらってるとして......


「(闇ギルドのギルドマスター相手に戦えるのか?......)」

「アキラ様ッ!『疾風の足』」

「――ッ危ッ」


地面から黒い蛇が出て来て俺を捕まえようとしてきたが、アイーシャの風魔法の援護によってどうにか避けられた。


「油断されるとは俺も甘く見られたモノだ」

リードルの身体にいつの間にか黒い蛇がとぐろを巻いている。


「アキラ様、パレハ様、急いで中に――ッ!?」


先頭に立っていたアイーシャを無視するように黒蛇が勢いよく飛びついて

「しまッ」

俺にまとわりつく。

「まずは一人」


黒蛇は自らの身体に巻きつく、

「グッ」


ぎゅうぎゅうと、両腕と共に身体を締め上げる、アイーシャはどうにか切り離そうとするが、どうにもできない。徐々に魔力が少なくなっていく。


「魔力を吸いながらより巨大になっていく、早く解かなければ命がないぞ?」

「こんなものぉ」


踏ん張ろうにも徐々に締め上げられ息が苦しくなる。


「リードル、覚悟!」

「あっアイーシャ」


アイーシャは救出は無理だと判断したのか、リードルに立ち向かう、それをパレハは静かに見ていた。


両腕にはナイフを持ち、自身の風の魔法を付与して速度上げながらの突進。


しかし、リードルはそれを容易く避ける、それを見越していたかのようにアイーシャもすぐに体制を直してリードルに向かう。


「ただのメイドではないようだな、どこの家の使用人だ?」

「言う必要はありません!」

「そうか、なら死ね」


アイーシャは両手のナイフで何度も切りかかるが、リードルはそれを素手で応戦する。


「くっ」


相手の方が有利だ、どうにかしなければいけないが、この蛇の所為で......


「アキラ......クソっ......中々切れない」

パレハが蛇をどうにかしようとするが、どうにもならない。


「まずい、何か体力も奪われていって......あれ」


どういうわけか、蛇の身体が徐々に結晶化し始めていく。


少し力を入れると容易く砕け散っていく。


「えっへッ、アキラ何かしたのか!?」

「いや、勝手に......」


何が何だかわからないがチャンスだ。


「ッ貴様、一体どうやって――」

「隙ありッ!」


リードルが俺に意識を向けた隙を突いてアイーシャが腹にナイフを突き立てる。


「......リードル確保」


アイーシャは魔法で手錠のようなものをリードルに付ける。


「大した事なかったな」

パレハがそういうとリードルはパレハをにらみつける。


「何もしなかったた奴が偉そうに......おい、そこの男」

「えっ俺?」

「......一体どうやってあの黒蛇を破壊した、許容量を超えれば破壊は出来る、しかし、アレは違うな、魔力そのものが原因となって壊れた」


やはり普通の事ではないようだ、しかし自分にも自覚がないために反応に困る。


「いっいや、俺は何もしていないんだが......」

「......特異な魔力か......面倒ごとに巻き込まれないようせいぜい気を付ける事だな」

「おい、何を知って――」

「ッ皆さま危なッ――」



ズガァァァンッ!



アイーシャが何かを叫ぶと緑色の何かが飛んでくる、それを追う様に激しい爆風で吹き飛ばされていく。



自分は幸い剣が地面に深く刺さり、どうにか遠くまで吹き飛ばされなくて済んだが......。



「ッパレハ、アイーシャ!」



みんな森に吹き飛ばされてしまった......まさか死んだりはしていないはずだ。


「う~ん、全員は吹き飛ばせませんでしたか」


白いローブからチラリと見える薄い水色の髪、顔立ちからしておそらくは女だ、確か採掘場に居て逃げ出した奴が白いローブ服をしていたと聞いたが。


「お前は誰だ」


そう問いかけると相手はこっちを見てきた。


「私はぺルラ=ゼイト、恐れられたる魔晶生命体クリスタリア。その一人」

白いローブから右腕を出すと薄い水色の結晶で覆われた腕を見せる。


魔晶生命体クリスタリア......?」


なんだそれは、へベルナからも教えられてない。


「既存の生命を凌駕してしまった生命体のこと......あれ、あまり知らないんですか、まぁいいか」


腕から水色の光を浮遊させる。


「さて、逃げるなら追いません、目的は違うから」

「その目的ってなんだ?」

「魂の檻の回収、召喚術に必要な素材なんですよね、そのため採掘場に向かいますから」


やけにすんなりと話してくれるが、そういう事なら


「だったらそれは見過ごせないな、中に旧友がいるのでねッ!」

「――ふーん」

「――ッ」


一瞬心臓を掴まれた気がした、蛇睨まれたカエル、恐ろしくて動けない。


「そういう勇気をふり絞って啖呵を切るの私は好きですよ......それが無謀って事を除けばですが」

「ははっ、威勢が良いのだけが取り柄な者でね......」


幸い周りに誰もいない、恐らく前より強くなっているから変身したら大変になるだろうが、それ以外に選択肢はないのだから。



「......――っ」


ぺルラは相手の雰囲気が一瞬で変わった事を感じ取り間合いを取る。


真っ赤魔力がアキラを包み込み、肉体を変化させていく。


「ふぅー、ああぁ、やっぱりこっちの方が俺には合ってるなぁ!」


全身オレンジ色、頭部から生えた真っ赤な2本の魔力結晶は角のように反りあがる、額の中央に青い水晶玉が埋め込まれ、鋭い目と髪は燃えるように真っ赤な色。


「あなた......魔晶生命体クリスタリアだったんですか?......」

「だからそんなの知らねぇし興味もねぇな」


ぺルラは右手の結晶に魔力を溜める。


「偉そうな口調は今の内にね、私だって舐められる訳にはいきませんから、同じ魔晶生命体クリスタリアとして舎弟にしてやりますよ」



魔晶生命体クリスタリアと呼称される謎の生命体同士の戦いが始まろうとしていた。

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