第7話 初めての決闘
バルガとハネリィとの話は終わりソルテシアを俺とへベルナは二人で歩いていた。
「......」
やばい、気まずい、俺は別に気にしてないのに、というか俺の所為でギルド辞める羽目になったんだろう?だったらへベルナが落ち込む必要ない。
「......」
それに、本当は、こうなることは想像はできた、被害者がいる事件なんだ、俺は犯人かもしれないんだ、そんな奴をへベルナは庇っているんだ、なら、こうなることくらい想像できただろう?
「すみません、こういう情報共有はしっかり行うべきでしたね......」
あまりに恥ずかしい、散々庇ってもらっている人に謝られた。
「......いや、謝るのは俺のほうだ......」
「......アキラ、ギルド【
「結構ひどい事になってるのか?」
ギルドマスターはいるらしいが、代理も立てられない状態なんて相当だろう。
「はい、前マスターのネイロス=ザッドルアが辞めた後に№2のアーヴィ=パウンが新たなギルドマスターに就任しました」
アーヴィはその際ネイロスを庇った人間を次々と除名していったという。
「正直私も細かくは把握できていません、事件があってからはあまりギルドには出向かないようにしていたので」
そりゃあ、そうか、へベルナも俺を庇った状態で行ける空気ではなかったか。
「まぁ、そういったことがあって私は辞めたワケです」
すると急に立ち止まり
「......んーっ!」
へベルナは大きな伸びをして。
「戻りますか」
そう言って俺とへベルナは帰路に立った。
■
「『ファイアボール』」
俺の『ファイアボール』は真っ直ぐに飛んで、爆発する。
へベルナ曰く俺の魔力が勢いがありすぎるらしい。
「あなたのそれは個性ですね、パワーは申し分ないでしょう」
へベルナの言う通りだ、我ながらパワーはあると思う。
「......そろそろ、本格的な対人戦を考慮した模擬戦を開始しましょうか」
「対人戦......」
「やる事は変わりません、ただ訓練のスピードアップもしたいですからね......
最初ですからゲーム感覚で行きますよ、それにご褒美もあります」
へベルナは俺を見ながら
「何か欲しいものはありますか?」
そうにこやかに告げた――
■
そして――
「ほらほら、早く相殺しないとケガしますよ!」
へベルナはいくつも『ファイアボール』を撃ち込んでくる。
「『ファイアボール』」
同じく相殺を図りへベルナに近づこうとするが――
「アキラ、剣士を目指すなら剣も使ってください!」
「――ッ」
火の玉が目の前に!
剣でどうにか――
「剣ばかりに注意を向けていると魔法は撃てませんよ!」
しまった!
「危な――」
寸での所で避ける。
「敵の攻撃をよく見てください!」
「いや、あの!」
「剣を使わないと捌ききれませんよ!」
剣技についてもっと詳しく教えて!
へベルナは俺が剣を使いたいという思いを汲んでくれてこう言う事を言ってくれている、魔法の長所と剣技の長所を合わせようとしているのだろう......が
「へベルナ!魔法ともかく俺、剣技は全然使えないんだが!」
これ無理だろ!
◆◇◆◇
「『ファイアボール』」
基礎魔法は汎用性が高く、少量の魔力で魔法を行使できるのが強みである。故に鍛え続ける事で様々な状況で戦えるようになる。
「......」
しかし、最近はアキラの成長速度が芳しくない。
■
「ひゅぅ~、今の魔法は良い感じだったなぁ」
「流石のパワーと言いましょうか、これなら、ゴブリンは蒸し焼きですね」
アキラは自らの魔法を自己評価する、アキラとて別に自分に甘く評価しているつもりはないだろうし、へベルナもそれを責めるつもりはない。
火力に関していえば問題はないのだ、しかし、それは相手の知能が低い場合だ、知能ある敵を相手にはあまり活躍できない。あまりに弾道が一直線すぎるから、容易に避けられる。
それがへベルナによるアキラへの評価であった。
「......しかし」
へベルナは自室で一人で日誌を書いている、これは全てアキラの状態を事細かく書いているのだ。
「厳しくしすぎれば彼のやる気を削ぐ結果に......」
いま彼はまさしく魔法を楽しみながら勉強しているのだ、これは大変に好ましい、
長期的に見れば、今のアキラの状態を維持しながら訓練を積むのが一番良い。
「はぁ......」
だが、今の状況はそれを許さない、如何に旧友であったとか、昔はコンビだったとか、結局潔白は証明できないから早く犯人を捕まえる為に短期的な結果を求めざるを得ない。
「どうしたものか......」
本来であれば、冒険者としてコンビを組み長期的な冒険を得て知識を共有することが一番に成長を早めることができる。
「......」
やはり成長の為に模擬戦を行うべきだろうか、まだ時期尚早ではないか。
「はぁ......困りましたね......」
一人頭を悩ませるのであった。
■
「何か欲しい物?」
「はい、模擬戦を行って勝った時のご褒美をと」
へベルナは物で吊るというアイディアを取った、確かにこれならモチベーションの低下をある程度は防ぐ事が出来るだろう、我ながら良いアイディアと思っている。
「欲しい物って言われてもなぁ......」
「お金ならありますから、なんでも欲しいもの言ってください」
「......なんでも......欲しい物......」
アキラは腕を組みながら深く考えている、何を頼むのだろうか、へベルナはアキラが望むモノというのがピンと来ないので地味に興味がわいていた。
「......決めたぞ」
アキラはそういうとニヤリとしながら。
「へベルナの膝枕が欲しい」
「......ん?」
「......へベルナの膝枕が欲しい」
「ほう......ほう?」
「......ダメッすかね......」
「......そんな子犬見たいに見上げないでくださいよ......」
へベルナは軽く頭を抱えて。
「......はぁ......私の膝枕ですか、そんなご褒美でやる気になっていただけるのでしたら、どうぞ」
「マジで」
「――ただし私に勝てたら、ですが......ね?」
◆◇◆◇
へベルナから放たれる『ファイアボール』をあらゆる手段を用いて防いで、へベルナに攻撃を加える事、俺が一回でもへベルナに攻撃を当てる事が出来たら勝ち!
晴れて膝枕!
「ひぃ~」
だが、現実は甘くない。
右手で剣を使い、左手で魔法、これが想像以上に難しい。
「アキラ、剣と魔法、両方扱うのは案外難しいでしょう?」
へベルナはいくつもの火の玉を浮遊させて堂々と佇む。
「その様子ではご褒美はお預けですね!」
「いっいや、まだ負けたわけじゃないだろう!」
「そうですかぁ、では頑張ってください、そぉれ」
いくつもの火の玉が俺に向かって――
「あっ――」
結局へベルナに近づくことさえ出来なかった。
■
「98,99,100......はぁ......はぁ......」
へベルナに惨敗してから、トレーニングを始めた。
これも全ては膝枕の為だ、日々精進しなければ......
魔法以前に肉体が追い付いていなかった、これでは勝てない。
「はぁはぁ」
それに剣と魔法を一緒に使うのは考える事が多くて混乱する。
狙いを定めて剣で切り込み、そして魔法で撃つ、これを一緒に行えない。
「複数作業を一緒に出来る奴が得意そうだな」
俺みたいなバカには難しいか、だが諦めきれない、ここで諦めたら膝枕が......
「剣以前に肉体強化か」
あの魔法の数は恐らく俺が剣を使う事を前提にしての事だ、多分剣技を問われてる訳ではないのだろう、彼女は教えていない事を求める事はしないハズ。
「俺が聞き逃したのか、それとも魔法を上手く使うのか......」
ダメだな、これじゃあまた負ける......
どうやら膝枕はまだまだ遠いようだ......
■
ある日の事いつも通り依頼をこなしていた。
「ゴブリン討伐完了!」
「E級クラスの魔物ならもう余裕ですね」
「依頼完了か」
へベルナとの依頼中にふと疑問に思った事があった。
「......そういえば、依頼とかどうしてるんだ?」
へベルナがギルドを辞めていた以上、どうやって依頼を受けていたのだろうか?
「あぁ【
「ん?へベルナはそのギルドに所属しているのか?」
「えぇそうですよ」
へベルナは少し考える素振りを見せ。
「いい機会です、アキラも折角ですから行ってみますか?あそこなら馴染みやすいはずですから」
■
へベルナに言われるがままソルテシアにある【
派手さはないが、人の行き交う多さ、あきらかに冒険者ではないであろう者も時々混じっていたり【
「【
「他のギルドの冒険者同士だと話し合わないのか?」
「ギルドの空気によって、ですかね......一般人なら普通に行き来することはありますが、他ギルドの冒険者同士だとどうにも......このギルドはそういった仲介場としての役割もありますから、他ギルドと交友を深めたい冒険者も良く来ます」
長机と長椅子が設置してあるところにへベルナが座り、俺も向かい合うように座る。
「大規模な作戦が終われば、ここで祝賀会をするのが習わしなんですよ」
「なんで他ギルドもここに来るようになったんだ?」
「わかりません、設立が古いので信用されているのだと思います、何かありましたら、冒険者は皆ここに集まりますし」
へベルナと話しているとおかっぱで身なりが少し豪華な男が近づいてくる。
「っへベルナ、噂のやつか!?」
「あっアキラ、紹介しておきましょうか、パレハです、パレハ、彼はアキラ、
仲良くしてくださいね」
「待て待てッ、どうしてこの僕がこいつと仲良くなること前提なんだねッ!?」
オレンジ色のおかっぱ頭の男、パレハと言ったか、へベルナに抗議をしているな、
結構親しいようだ。
「パレハとアキラ、同い年ですから、すぐ仲良くなれると思いますよ」
「同い年ってだけで仲良くなれるわけないだろ!」
へベルナは自然に対応しているから慣れてるんだな。
「アキラ、自己紹介お願いします」
「あっアキラ=フジワラ、よろしく」
「ふんッ」
「パレハ......」
へベルナの言葉を無視するパレン。
「......パレハ?」
「......ッ」
おいおい、それ以上無視したら......
「最後ですよ、維持を張らないで自己紹介してください」
「......どうして僕が――」
「パレハッ!」
へベルナは杖でパレハの頭をコツンと叩く。
「――いったッ!?」
へベルナが怒った時にたまにやる、手加減してやっているのだろうがそれでも、
あれは痛いんだよなぁ。
「ッへベルナに免じて名乗ってやるさ、僕の名前はパレハ=プロイントス」
腕を組んで、あからさまに俺に敵意むき出し。
「っと、名乗ってやったからな、いきなりだがお前に決闘を申し込む!」
は?決闘?なんで?
どうやらへベルナも予想外だったようで、少し怒りながら
「パレハ、冗談でも笑えませんよ」
パレハに言うが、パレハの方は特に悪ぶれない様子だ。
「これはお前の為を思っての事、グラディウス邸に居たら流石に無理は出来ない......ここでなら捕まえられる」
「......私の旧友ですよ?」
「そんなのは関係ないっ!、アキラ、と言ったか、受け入れるかね?」
「......わかった、決闘を受けてやる」
負ける訳にはいかないな、へベルナの面子に係わるし、普通に悔しい。
「パレハ、約束してください、殺さないと」
「あぁ、わからせるだけさ」
何をだよ!
そして【
お互いが向き合う。
「両者、リタイアを宣言するか、審判が勝敗を決めるまで試合は終わりません、そして故意の殺人行為は禁止です」
審判はギルド内で適当に捕まった人だ、まぁ、俺の初陣を記念に見てくれ。
「はじめっ」
とっ宣言した途端に
「『ファイアボール』」
「ッ!」
おいおい、いきなりかよ――
■
喧嘩沙汰だ、【
「『ファイアボール』」
パレハは基礎魔法であるファイアボールを使う――
アキラはファイアボールなんてずっと見てきた為に右に避ける。
「ッ!?」
――が、弾道は右にずれる。
「(カーブッ!?)くッ!」
いまだ慣れぬ剣技でファイアボールを切り捨てて――
「『ファイアボール』」
お返しだ、アキラは左手で魔法を撃つ。
「(クッ!)」
パレハは相殺を図ろうとしたが――
「ッ!」
火力が足りないと判断して避ける。
真っ直ぐと飛んでいく火球はパレハのそれとは違い大きい。
「(これじゃあ、相殺は無理か?クソッ!)」
「(ダメだ、当たらないなこりゃあッ!)」
アキラは手を抜いていない、パレハは手を抜いている、へベルナに殺すなと言われているからだ。
「左手に魔法、そして右手で剣――」
このままではこっちの体力が削られると判断し、突き進む。
「『ファイアボール』」
パレハは6つの火の玉を浮遊させて、次々とアキラに発射する。
グルグルと回り軌道が読みづらい。
走る――
「(へベルナのに比べたら、避けられる)」
一つが飛んでくるが切り捨てる――
もう一つ飛んでくるがこっちの『ファイアボール』で破壊する――
しかし、4つ一気に飛んできた――
「(まずいッ間に合わないッ!)」
流石に4つは捌ききれない――
「(やっぱまともに習ってない剣技じゃ......)」
そんな時外野から声が聞こえてきた。へベルナの声である。
『防ぎ切れます、問われているのは剣技ではなく、魔力ですッ!』
魔力?
「(そうだ、魔力が減れば能力が低下する、そして魔力を武器に纏わせれば――」
アキラは自らの魔力で自らを纏う。
「(様子が変わった......だからどうした、お前の実力は大体把握でき――)」
「オラァァッ!」
剣に魔力を纏わしてそれを思いきりに4つの火球に向けてなぎ払う。
「『魔光破』」
純粋な魔力による衝撃波という荒業、それは火球を相殺するのに十分な火力を有していた。
「ッ後は――」
怯んでいるパレハに攻撃するために全速力――
「――ッッ『フェザーウィンド』」
「――『ファイアボール』」
パレハは翼を模した腕で大きく羽ばたくと風の刃をまき散らし、それのカウンターとしてアキラはファイアボールを全力で解き放つ。
お互いの魔法がダイレクトに命中した――
■
気が付けば夕焼け空だった、一体どうなった?決闘の結果は!?
「――ッ」
痛っ......
「勝てた......のか?」
いや、近くにパレハがいる......、恐らく同じように倒れているんだ。
「......引き分けか......」
初めての決闘は引き分けか......
「この僕を相手に手加減していたとはいえ、中々......」
ボロボロなパレハ、まぁ初めてにしては良い方か......
「はいはい......」
なんか疲れて雑に返事してしまう。
「一回戦っただけで、扱いが雑過ぎるのでは!?」
「いや、強かったよ、うん、間違いなく」
一回戦っただけでこんだけ疲れるなんて、プロはこんなのをずっとやり続けているのか......
俺とパレハは近くで倒れこんでいるとへベルナが近づいて来た。
「アキラ、パレハ、良く頑張りました、パレハは『ファイアボール』の練度が前より良く上がっていました、アキラの『ファイアボール』にすぐ反応して『フェザーウィンド』で反撃をしたのは良かったですよ」
「......」
「アキラ、『魔光破』はあなたの有り余る魔力で成した荒業、アレはあなたのオリジナルの技です誇ってくださいね、二人とも素晴らしい試合でした」
「あぁ、どうもな」
へベルナは俺たちの頭の近くで話し続けている。
「パレハ覚えていますか、あなたは昔、私に泣きついて魔法を――」
マジか、二人が倒れてる、この状況でも思い出話に入るのか......。
「パレハ......ん?」
パレハの目線が上を向いている。
へベルナは俺たちの頭の間に立って思い出に浸っている。
この図式で導き出せる答え――
「......」
パレハ静かに笑みを浮かべている。
「......」
ふっなるほどな......黒!
俺たちはこの時初めて心を通わせ一つになった気がした――
「......『サンダーボルト』」
「「ギャァァ!」」
決闘という対人戦で勝つことは出来なかったが引き分けに持っていくことができたし
それに色々あったがパレハ=プロイントスという新しい知り合いが出来た。
後はへベルナの膝枕を掛けた勝負に勝ち、被害者を回復し、事件を解決するだけだ、少しずつだが確実に事態は好転していっている。
それが何よりも嬉しい。
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