第6話 人には言えなかった事もある


両親との関係は良くはないが悪くもなかった、両親からは愛されているとは

思っていた。そして物足りなさも感じていた。



「いただきます」

「ごちそうさま」

いつもの食卓だ。


こういう挨拶が全くない家庭ではなかった。


「いってきます」

と言えば

「いってらっしゃい」

と返されたし


「ただいま」

と言えば

「おかえりなさい」

と返される。


それなりに普通の家庭だった。



高校3年の俺は部屋でいつものようにお楽しみをしていると――


「晃?話が――」

「――ッ馬鹿っノックくらいしてくれ!」


思春期の男の部屋にノックなしで入ろうとしたのは藤原咲ふじわらさき

俺の母親だ。


「晃?将来はどうするの?」


......そんなのはこっちだって知りたい、どうするの?ってそれを答えてどうする?東大にでも行くか?大学行かずに漫画家にでもなるのか?スポーツ選手か?なんにせよ今からでは無理だろう?


「知らねー」


そう突き返すと母さんは「はぁ」と大きなため息をついた。


そんなのはこっちだって溜息をつきたい。


「晃、大学は何処の学部に入る気だ?」


親父、藤原雄介ふじわらゆうすけがそう聞いて来た、何処へ行くって、いままで教育に関して無関心だったのに、

今更聞かないでほしい。


「さぁ?入れた所に入るんじゃね」

「そうか......」


相談してほしかったのだろうか、人生の先輩として尊敬はしているつもりだ。


だが


「俺はお前よりも人生の先輩として話せる事はある、困ったら相談していいんだぞ?」


ただ、今更それを聞いてきた事への苛立ち、今からではどうにもなるわけにないだろうが。





「入学おめでとう」

「っ恥ずかしいって......」


スーツ姿の俺の写真を撮りまくる母さん。


親との関係は悩みを打ち明けるほど仲は良くなかったが、それでも、それなりに良く出来ていたと思う。





「晃、私買い物に出かけてくるから、留守番お願いね」


夕食前、いつものように母さんは買い物に出かけた、俺は軽く相槌を打った。


「それじゃ、いってきます」


その後、事故に遭った。


最後の顔なんてまともに覚えてはいない、その後の事だって、覚えてはいるが......

覚えていない。ただ、食卓が3人から2人に変わっただけだ。


だけだ。


親父との関係も変わらなかった、いつものように可も不可もない関係性。


その後は就職して......失敗して――




◆◇◆◇




「――アキラ」


あれ......なんか夢を見てた気がする。


「メイドが起こしても起きないというから、来てみれば......」


懐かしい気もしたが......


「......アキラ?」

「......へベルナ......もう時間か......」


どんな夢だったか思い出せないが、あまり良い夢ではなかったのだろうな。





座学の間もこのモヤモヤが一向に消えない。


「......」


朝起きてからずっとだ、こんな状態じゃあ、ダメだと思うのにな......。


「起きてから、そんな調子ですか」

「こんな調子......調子が悪い訳じゃねぇんだが、何かな......」


へベルナは少し考える素振りを見せて

「......アキラ、今日の予定は変更しましょうか」


へベルナを本をパタンッと閉じた。


「外に行きましょう!」





へベルナに連れられて前にスライムを倒した森に向かう。



「ほら、アキラ、魔力を杖に込めれば――こうっ!」


へベルナの大きな濃い赤い杖を地面に叩きつけると

バァンッ!という衝撃破と共に地面に小さなクレーターが出来上がる。


「へベルナは力持ちなんだな......」

「......私の力ではなく......魔力の力です」


魔力......万物に宿る万能のエネルギーだっけか。


「杖は基本は魔法の補助ですが、最悪の状態では打撃武器として扱う事になりますからね、魔力を纏わせて武器を強化するのも大切な事です」

「魔力なぁ、魔法に必要なのは知ってるが......やっぱ大切なのか?」


当たり前のように魔力、魔力言うからな......


「......前に説明した気がしますが......まぁいいでしょう、魔力は大切なんてものではなく、魔力が尽きる事は死を意味します」

「え、そこまで?」

「まぁ完全に尽きる事は普通ありません、魔力というのは生涯にわたり生成され続けますし......ただし魔法を使いすぎれば魔力は減ります、一気に減りますと生成が間に合わなくなり、酷い能力低下に襲われてしまい、足手まといになるのです」

「なるほど、魔力は生命力みたいなものか......」

「確かにそう思う方が分かりやすいかもしれませんね......魔導師というのはそんな魔力を専門に操るというそれはそれは名誉ある職業なんです」

「勧誘すか」

「違います......そして、そんな魔力ですが通常の方法では可視することはできません」


へベルナは地面に杖で何やら描き始める。


「そんな魔力が物質化したものを魔石と呼ぶのです......」


石のようなものを描くと周りに人のような細長い円を4つ描き始める。


「魔石というのは魔力が圧縮して出来ます、簡単ではありませんが製造は可能なのです」

「でも金と時間がかかるんだろ?」

「はい、4人の魔導師が囲んで同程度に強い魔力を注ぎ続ける......私も実は経験したことあります」

「へベルナは色々経験をしてるんだなぁ」

「ふふっ当然ですかねぇ......魔法が使えなくても、アレが出来るのなら普通に食べていけますよ、それくらい技術が求められます」


協力が必須な技術職って感じか、想像するだけで大変そう。


「作るのに手間がかかる魔石は採掘した方が手っ取り早く、安く済むのですね」

「なるほどぉ」


魔石は万能のエネルギーが凝縮した石だから需要がある、というわけだな。


「そして魔石について話したら魔結晶についても話さないといけませんね」


ん?魔結晶?


へベルナはクリスタルの絵を地面に描き始める。


「魔結晶は簡単に言えば魔石よりも膨大な魔力が凝縮されている結晶です」

へぇ、そんなの聞いた事なかった。


「そんなのがあるのか」

「まぁ、魔石は少量とはいえ一般的にも流通していますが魔結晶は基本流通していないので、知らない人もいると思いますよ」


魔石だけでもすごそうだからなぁ、それより上となると想像できない。


「正直一般人には関係ないですね、基本的に隕石から取れる魔石よりも重要なモノと認識すれば良いかと」

「なるほど」


魔石とか魔結晶とか色々あるんだなぁ。


「これも説明しておきましょう」


へベルナはそういうとローブの中から何かを取り出す。

水色の手の平に乗るくらいの石だ。


「これが魔石です、触ってみますか?」

「えっこれが!?」


へベルナに手渡された魔石をまじまじと見つめてしまう、少し重く暖かい、そして何より綺麗だ、太陽の光が水色と青色を交互に光らせる。これが万能のエネルギーである魔力を凝縮しているのか、こんな綺麗ならエネルギー源としてでなくとも装飾品にも扱える。


「それ一つで1週間くらいは食べていけますよ」

「......」


たった1週間、といえば安いと感じるが、違うなこれは普通に売ればそうなるだけだ、これを加工すれば、宝石として扱えば......あぁ理解した、これは売れる。


「魔石は魔力の塊、そして魔力が減ると生物の能力は低下する」

「......?」

「そういった物をですね、持っておくのも冒険者、特に魔導師として活動するのなら必要な知識の一つですよ」

「......!そうか、これを食べれば......」


魔力を回復できるのか......


「それを砕いた欠片をですがね」


こんな綺麗な石が......ねぇ


太陽に照らされる魔石の水色はまるで海だ、本当に綺麗だと思う。


「釘付けですね」

「あぁ納得した、どうして魔石採掘場なんてものがあったのか、シンプルにエネルギーとしての価値だけと思っていたが......」

これはみんな欲しがるよな、一度見てしまえば釘付けだ。


「ただ魔石の接種はリスキーですから最後の手段です」

「暴発するとか?」

「その魔石をそのまま食べればそうなるかもしれません、欠片だけでも拒絶反応が起きたり、そもそも欠片を食べられる状態ではなく、喉に詰まらせて窒息したり」


他人の魔力を取るって事だから、危険なのか。


「少し長く話過ぎましたね......帰りましょうか」

「あぁ」


そういえば、俺は疑問だったと事をへベルナに聞いてみた。


「......え、ルキウスのフルネームを知らなかったのですか?」

「はい......」


やばいな、へベルナが驚愕している、いや、なんかみんな知っていて当たり前みたいに過ごしてたから、今更聞けないなと思ってたから......


「ルキウス=グラディウスですよ......」


やれやれと首を振るへベルナ。


「グラディウス家は代々アルカディア帝国の政治的にも軍事的に影響力のある家なんですよ、そんな家系なものでルキウスは苦労していました......アキラもあまり世話になっている訳にはいけませんね」


へベルナはそう言って話し続ける。


「そうだなぁ、部屋探しとかしないと」

「まぁ、屋敷を出たらお金が必要になります、仕事先も見つけずに部屋を借りるのは、流石に......」

「うっ......」

「その為にも近々ソルテシアに行きますよ、アキラの事を皆に紹介しないと流石に怪しまれますし」

「俺は怪我で治療してた、だっけ」

「えぇ、かつては旧友でコンビ仲、仲間思いなアキラは勝手に行動して、捕まり、逃走、その後に少年を助ける為に戦いを挑み怪我を負った......」


それで本当に誤魔化せているのか?


「大丈夫です、【白亜の川ホワイトリバー】と【赤の壁レッドウォール】はともかく他のギルドではある程度は信じては貰いました」

「【赤の壁レッドウォール】ってへベルナのギルドだっけ、迷惑かける......」

「......えぇ、そうですね......」

「......どちらにしても早く犯人を捕まえないとな......」


仕方ない、あっちからしたら俺は仇敵みたいなものだしな。


「そうですね、私も皆を回復させたいです」


へベルナは悲しげに歩いている、そうか、へベルナの仲間も被害に遭ってるんだ、

なんでそんな大事な事失念していたのだろう。


「へベルナ、俺が捕まえるからな!」

「......よろしくお願いしますね」


そうだ、早く強くならねば......、大体へベルナにカッコ悪い所しか見せられてない。

それじゃあ、いけない早く強くなろう。




◆◇◆◇




ある日、いつも通りへベルナ講座の準備をしていた時のこと


「アキラ、今日ソルテシアに向かいギルドマスター4人に会ってください」

「へ?」

へベルナが買ってきたのであろう、服を出してきて

「さぁ、着替えてください!」

まさに怒涛である。





「アキラ、もっとシャキッとしてください」

「いっいや、してるって」

なぜかへベルナは俺の冒険者用の服を着せている。


「あのっへベルナそんなにべたべた触らないでくれるか!?」

「私達の仲でそんなの気にしないでください!」


別に俺一人で着替える事出来た、ただ第一印象が大切だぁ、とへベルナが言い始めて服を直し始めたのだ。


「いや、流石に恥ずいって」

「何を恥ずかしがるのですか、アキラ、冒険者というのは――」

「今は冒険してない!」


へベルナは俺の背中を軽くパンパンっと叩く、それだけ仲良くなってきたと思えば嬉しいが......普通に恥ずかしい。


「今から二人のギルドマスターに会いますからね、疑われないように、歴戦の英雄のように――」

「盛りすぎなんだよ!」

「そういう気概を持ってください、という事です」


しかし、ソルテシア......俺の事を誰も覚えていないと良いが





久しぶりのソルテシア、思ったより俺の事を認識されていなくて助かった。

「話すってへベルナの関係についてだよな?」

「そのあたりでしょうね、色々考えておいた方が良いと思います」


あそこにいた理由は貧困の為として、逃げ出した理由かぁ、変身したっからとか言えないし。


「そういえば、作戦に参加していたギルドについてきちんと説明していませんでしたね」


へベルナは説明してくれた、

黄金の鍵爪ゴールドクロウ】ギルドマスターはバルガ=ブレイザー

対人戦や魔物の討伐をメインに行うギルドであり、作戦中の主戦力であった。


「バルガさんは話の分かる人ではありますが、今回の事はあなたを疑っていました」

バルガは前に見かけたが、かなり気難しそうな人って印象だったな。


緑の園グリーンガーデン】ギルドマスター ハネリィ=ミリド

後衛でサポートに徹していた、全員外にいたために被害はなし。


「恐らく今回の人選では一番、あなたへの疑いは浅いです、そもそも戦場と化した現場で逃走するのは可能だったという見解です、バルガさんも一応それには同調していましたね」

ハネリィ......後衛でサポートしてたのに逃げられるって節穴すぎないか?

そのおかげバレずに済んだんだけど......


赤の壁レッドウォール】のギルドマスター・アーヴィ=パウン

へベルナが所属しているギルド、ネイロス=ザッドルアは作戦の責任者であったために解任され新たにアーヴィがギルドマスターに就任した。


「アーヴィについてはそうですね、真面目......といいましょうか......」


なんだろう、歯切れがわるい、へベルナもそのギルド所属だというし、

かなり関係が悪いのかも、俺の所為だな。うん。


「あと......」

「あと?」

「いえ、なんでもありません......」


なんだろう?


白亜の川ホワイトリバー】ギルドマスター・ハン=テレン

本作戦でギルドマスターのハンは昏睡状態に陥ってしまったため、犯人捜しに一番

躍起になっているという、俺が一番警戒したほうが良いギルドのようだ。


「あそこは少数精鋭のギルドでした、結束が強く恐らく今回説明しても納得はしてくれないでしょう」


へベルナが説明していると大きな木造の建物の前に立っていた。


「ここは【緑の園グリーンガーデン】です、みな集合しているはず」


わぁ、これがギルド、結構人が行き交ってるな。


「行きますよ」


俺が失敗したら俺だけじゃなくへベルナもまずい立場になるんだ。


「よし」





ギルド内は緑に統一されていて、俺たちが入るなり興味津々と言った様子で見てきた、大体30人くらいだろうか。


「――」「――?」


敵意というよりは好奇心的な目を感じる、このギルドは被害はなかったらしいが、俺が怪しいのに変わりないだろうに


奥に進んでいくと、2人の人間が座っていた。大柄な坊主頭の男と緑髪のポニーテールの女、随分と動きやすそうな衣装を着ている。


「へベルナ=マギアフィリア、アキラ=フジワラを連れてまいりました」


へベルナは静かに礼をしたのに習って礼をする。


「【緑の園グリーンガーデン】ギルドマスター・ハネリィ=ミリドです、あなたがアキラ=フジワラですね?」


ハネリィは緑の瞳で俺をじっくりと見てくる。


「へベルナとは古い仲とか」

「そうです......よ?」

「ふふっ」

怖、なんで笑った

「......バルガ、あなたも自己紹介してくださいな、名前がわからないとアキラも困るでしょう」


ハネリィは隣に座るバルガを肘でグイグイと押されると、はっとバルガは軽く咳をして

「っと、そうだった【黄金の鍵爪ゴールドクロウ】ギルドマスター・バルガ=ブレイザーだ」

「アキラ=フジワラです」

「アキラ、端的に言えば、俺とハネリィはお前を信じ切れていない」


言い切った、まぁ言ってくれた方が助かるな、それを晴らすために今も訓練をしているのだし。


「だが、逃げ出したから犯人は早計だと俺は考えた――」

「私が考えました」

「ハネリィも考えたらしい、俺もそのとおりだとは思う、ただ他の奴らは違う、【赤の壁レッドウォール】はギルドマスターを変える羽目になって憤慨している、【白亜の川ホワイトリバー】は容疑者を殺すとまで言い切っている」


バルガは近くの水を一気に飲み干す。


「俺の所の仲間も昏睡状態で意識を回復していないし、言いたい事は山ほどある」

「......」

「だが、もっと注意すべきことがある、だろ?ハネリィ」


バルガはハネリィに目を向ける。


「そうです、あの場にて逃走が確認されたのは、アキラ=フジワラ、へベルナが戦闘したというピンクスーツの男と襲ってきた怪物、謎の白ローブを着た者、そして【漆黒の蛇ブラック・スネーク】ギルドマスター・リードルともっと重視すべき者がいます」


怪物って、絶対に俺だよな。


「私としても不甲斐ないです、採掘場内部でなければもっと戦えたのですが」

「まぁ、しょうがねぇだろ、へベルナがいなけりゃあ、怪物とかピンクの存在は把握できなかったんだ」


口が裂けてもそれも実は俺でしたとは言えない。


「?アキラどうかしたましたか」

「いっいや、なんでも?」

「ふむ、なら良いのですが......」


どうにか、二人のギルドマスターとはうまく話せたが......


「「......」」

「......遅いですね」


あと二人が来ない。


「少し空けます」


ハネリィは席を外して、何処かへ向かう、連絡でもするのだろうか?


「しかし、へベルナの事を思って一人で向かうなんて男気のあるやつだ、今は容疑者だがよ、容疑晴れたら俺んところ来いよ、可愛がってやるぞ」


バルガは笑顔で俺に向かい話してくる、少し罪悪感あるな......


「良かったですね、就職先決まって」


やめろへベルナ、就職とかいう心の底からゾワッて来るワードを出すの。


「しかも、だいぶ前の事とはいえ、へベルナとコンビを組んでた事もあるってことはそれなりに実力もあるんだろ?いいねぇ」

「ははっまぁ......」


ウソを貫き通すのはきついな......


「そんな事ないですよ、彼の腕、鈍ってましたから今も修行をしてあげてるんです」

「まじか、アキラお前恵まれてるな、へベルナに修行してもらえてるとか」

「はははっ感謝しかないっすよ」


へベルナは魔導師として強力だからな、実際へベルナのおかげで自分の実力に自信がついてきてる。


「ただ、コンビを組んだことあって、修行もしてもらえて、他の奴らからどんな目で見られるか......」

「えぇ、アキラは信用できる人物として流布できますね」

「いっいやそういう事じゃ――ん、ハネリィが戻ってきたな」

あれ、なんか怒ってる?

「バルガ、へベルナ、アキラ、今回話し合いをした結果、私はアキラを信じる事にしました」

「おいおい、ハネリィ、勝手に話を......」

「バルガ?良いですか?」

「はいっ」


話が急すぎて全く状況がつかめない、周りも同意見だろう。


「あの、ハネリィさん、何が......」

「へベルナ、【白亜の川ホワイトリバー】の者達はアキラを主犯格の一人として確定したと先ほど報告を受けました」

「どういうことですか、その事を説明するためにこの場を設けたのに」

「あいつらは確かに仲間意識は俺たち以上に強いが、時々見境が付かなくなる」


白亜の川ホワイトリバー】は結束が強いとは聞いていたが......


「いままではそういう問題点をハンが抑えてたんだがなぁ......」

「アキラ、【白亜の川ホワイトリバー】はそう宣言しましたが何の効力もありません、もし襲われたのであれば、適当なギルドへ駈け込んでください」


大ごとになってきてるな、これ犯人捕まえるとかそんな余裕あるのか?


「そうですか......」


へベルナが見るからに落ち込んでいる。


「おいおい、へベルナ気にすんなって、なっアキラも言ってやれや」


俺?


「っへベルナ気にするなよ、どうにかなる」

「気にしなければいけないのはアキラですよ」

「その通りだな!」

「やれやれ......」


その通り。


「まぁ奴らは来ないと、そうすると、後はもう一人か......」

「【赤の壁レッドウォール】も来ないようです、あそこは内部分裂が深刻ですからね、余裕がないのでしょう」

「はっそれは良かったな!」

「良かった?」


どういう意味だ、良い事ではないと思うが


「だって、元【赤の壁レッドウォール】のへベルナがいるんじゃあ気まずいだろう?」

「あっバカ――」


それは、どういう......


「――っあ、すまん」

「......いえバルガさん謝らないでください、何れはバレる事でしたので、アキラ、私は既に【赤の壁レッドウォール】の冒険者ではありません」

「......俺の所為か?」

「......」


そうなのだろう。


「正直今回【赤の壁レッドウォール】が来ることはないと思ってました、あそこは既にギルドとして維持できていませんから」

「アキラ、へベルナが嘘をついていた事を責めないでやってくれ」


責める?なぜ?違うだろう、俺が責められるべきだろう?


「遅かれ早かれ瓦解する、その時にアキラに報告しようと考えていました」



「「......」」



嫌な沈黙が起きる。



「......いや、しかし、あれだな!うん!」

「バルガ、もう少し話を考えてください」



この後【黄金の鍵爪ゴールドクロウ】【緑の園グリーンガーデン】とで、俺は完全な潔白を証明をすることは出来なかったが、他のギルドにアキラ=フジワラを主犯の一人とは断定できない事、二つのギルドは俺がへベルナと過去にもコンビを組んだ旧友である為に信用している事を再度通達してくれるらしい。


へベルナが俺に黙っていた事、きっと俺に変な心配をさせまいと思っての事だ。


本当に世話になりっぱなしの異世界生活だ......

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