第1章 容疑者アキラと偽りの旧友編

第5話 初めての魔法


異世界に転移した藤原晃ことアキラ=フジワラは自身が大量の意識不明者を出した

事件の 容疑者の一人になっている事を知った、アキラは逃走を企てるが失敗。


へベルナ=マギアフィリアに捕まってしまう。


へベルナ=マギアフィリアはアキラは無実であると判断し、実はアキラ=フジワラは自身の旧友であり、今回も自身の為に独断で動いた事にするという設定をアキラに提案し承諾した。



こうして容疑者アキラの偽りの旧友が生まれる事になったのだった。




◆◇◆◇




昨日の夕飯に出された御粥はおいしかった、正直味は期待していなかったが、全然だった、アレなら元居た世界でも十分に受け入れられただろう。


朝の朝食後の事、ルキウスは用事で屋敷から出ていったがへベルナが来る事は伝えられていた。まぁ、話すことは俺の身の回りについてだろうか、話すこと全くないけどな。


「おはようございます、アキラ=フジワラ」


相変わらずな眠そうな瞳だが、優しい瞳とも言えるか......

濃い赤紫の髪、先の垂れた大きい紫色の三角帽子にフードが付いた紫色のローブにマント。濃い橙色のブーツに大きな濃い赤色の杖。

そして何やら重そうな本を持ってきていた。


「身体の調子はどうですか?」

「結構良い、これならすぐに動けるようになるかも」


朝起きた時はメイドが回復魔法をかけてくれていた、ルキウス曰く本当なら本格的な回復を使える魔導師にお願いしたかったらしい。


ただ俺の再生力のおかげもあってか、割とすぐに治ってきている、これは変身の力のオマケかな?だとしたら以外な発見だ。


「回復魔法は高度な魔法、ここに回復魔法を使える者がいて助かりました」


メイドにも感謝だ。


「色々と聞いておきたい事がありまして、出身地とか」


......やっぱり聞かれるよな、正直に日本とか言っても信じてくれる気がしないし、この世界の地理もよくわからない。


「そっそれが、俺もよく覚えていなくてな」

「それは、記憶がないと?」

「あぁ......それが、あやふやで......」


へベルナにも迷惑をかけるが、俺としても苦肉の策だ。


「......家は?」

「家もないし、身寄りもない、今まではソルテシアの橋の下とかで寝泊まりしてた」

「なるほど......家はない、身寄りもない......出身地もわからない......」


どうしよう、我ながら誰がどう見ても怪しすぎる......。


「怪しさの塊ですね」

「はい......」

「......ふむ......」


こんな俺を庇ってくれるなんて、頭が上がらない。


「とにかく、あなたには強くなってもらうしかありませんね、そして自らの手で犯人を捕まえる、そうしない事には疑いは晴れません」


そういうとへベルナは

ドンッ

と分厚い、辞書と見間違えるような紫色の本をベッドの上に置く。


「これは?」

「私が厳選した、大変に素晴らしい魔導書です、今のあなたは動けないかもしれませんが、本は読めるはず、これは重宝しますからね、プレゼントしますよ」


ペラペラとめくると図式とか色々書いてあるが、何よりの問題がある。

「......文字が読めない......」

「......へ?」


そんな目を点にされても困る、正直この本が何を書いてあるのかが何も、全然わからない。というかこれ、初心者が読むモノなのか?


「ほう......なるほど......ふぅむ」


へベルナがすごい色々考えている、恥ずかしい。


「......まずは文字から始めますか......」

「はい......」


こうして俺、アキラ=フジワラとへベルナ=マギアフィリアによる勉強会が始まった。



「まず魔法というのは――」

「......」

「――でして――」

「......」

「魔力と言われるモノを魔導師は扱うことで魔法を――」


難しい!


教えてくれているのはありがたいが内容が全くわからない、なんとなくはわかったが、そもそも魔力という概念がピンと来ない。


「――って、起きてますか?」

「起きてるよ......」

「それは良かったです、ここからが大切でして――」


しかも、したり顔でそれを説明している。


「肉体から流れる魔力を使い――」


大変ご満悦なようだが、すごく質問しづらい......。


「そも魔法とは魔導士の特権ではなく、当然、剣士が覚えても十分活躍が期待できまして――」


ただ彼女は魔法の可能性を信じているんだろうな、それだけは強く伝わる。


「はっはい、質問!」

「なんでしょう、アキラ」

「実際に見させてください!」


一回じっくりと魔法を見てみたい、戦闘でしかまともに見ていなかったからな、そういえば。


「そう......ですね、では実演をしてみましょう、しかし、もう歩けるのですか?」

「ん?まぁ、走ると腹は痛むが、歩くだけなら」

「回復力が速いですね、それなら、明日にでも実技をしましょうか」


ものすごい速度で進めていく気だ、まぁ、彼女にとってもあまり時間をかける余裕がないのだろう。


「それでは、ついてきてください」





「へベルナは俺にばかり時間をかけてて良いのか?」

「?」

「いや、へベルナは冒険者とかやってるんだろ?」

「大丈夫です、いまは冒険に行ける状況ではないですし......」


へベルナは紫帽子のツバで顔を隠しながら歩くから顔が見えない。


「なぁ、本当に――」

「着きました」


へベルナは俺の言葉を遮ると、木材や何やら積んである庭。


「本来はルキウスが剣術の練習の為に使う場所ですが、まぁ勝手に使いましょうか」

「え、いいの?」

「大規模な魔法は使いませんから」


杖を先にある木製人形に向けると赤いオーラが纏い始める。


「今から使うのは火属性の基礎魔法の一つ『ファイアボール』です」


基礎魔法というと初心者の魔法と言う事か、かなりゆったりとメラメラとした魔力が杖の先に集まりはじめる、俺にわかりやすく遅く発動してくれているのだろう。


「魔力の流れ、熱い感覚を操作して、イメージします」


杖の先から火の玉が現れる。



「『ファイアボール』」



その瞬間火の玉は木製人形に目掛けて飛んでいく。



バンッ



「――おぉ」


オレンジ色の光が周囲を照らす。


こんなにしっかり見たのは初めてだ。


「アキラもやってみてください」


へベルナが使っていた杖を渡される。


「杖は必要なのか?」

「杖は基本的に魔法を強化したり、魔力を流して打撃武器として扱ったりするものですが、それに依存して負けるという者もいますね、しかし初心者にはやはりあった方がいいと思います」



彼女の杖を借りて、魔力を流すイメージを――



「――」



杖から先に熱い魔力を流して――



火の玉を飛ばす――



「『ファイアボール』」



火の玉は飛んでいき、焼け焦げた木製人形を吹き飛ばす。



「――やった、できた!見たか、見たかよ!?へベルナ!」

「えぇ、見ていましたよ、素晴らしい出来でしたね」


へベルナを思わず見るとにこやかに笑みを浮かべて拍手をしているのを見て、急に恥かしくなってきた、いや、人生で初めて正攻法で魔法を使えたのが嬉しすぎて......


「っコホン、そ......そんな事あるかぁ?へベルナの方がすごかっただろう?」

「......さっきまでの喜び様はどこへやら......アキラに座学はあまり向いていなかったのかもしれませんね、実技をメインにしましょうか」





それからへベルナは俺に魔法について色々と教えてくれた。


「基礎魔法というのは『ファイアボール』などのように基本的に誰でも覚えられる魔法の事です、そこから発展していって最終的に我流の魔法に発展していくのです」

「我流の魔法......」


火の玉を指先に浮かしながら、説明をしている。

へベルナが前に使っていた『黒薔薇くろばら』もその一つだろうか。


「攻撃魔法、補助魔法、回復魔法、召喚魔法、大体はこの4つでしょうか......まぁ一番簡単なのは攻撃魔法ですね」


へベルナはウロチョロと目を瞑りながら歩き、説明していく。


「相手を気にする必要ないですからね攻撃魔法、補助魔法は仲間に行うタイプもありますし、回復魔法も同じですね、召喚魔法は......少しややこしいので割愛します」


魔法と一括りにいっても全然違うのか、まぁ、俺も関心あるの攻撃魔法だし、いいか、召喚魔法は気になるけど......


「へベルナは攻撃魔法以外は使えるのか?」

「......攻撃魔法だけです」


へベルナのような魔導師でも攻撃魔法だけなのか、とするとあのメイドはかなりの魔導士か、ルキウスは大物だから、メイドもかなりの使い手を雇ってるのか。


「そういえば、ルキウスも魔法は使えるのか?」

「えぇもちろん、剣士であっても魔法は使えます、ルキウスは優秀な魔導師にもなれるほどの才ある人物ですね」

「そんなにすごいのか......」


ルキウスと言えば......


「そういえば......へベルナとルキウスってどんな関係なんだ?」


気になる、ルキウスの別荘をほぼ貸し切りにしても許されるなんて、ただ知り合いってだけじゃあり得ないだろう。


「幼馴染......という感じでしょうか」

「へベルナは25歳だっけ?」

「......女の子の年齢をそうズケズケと言うものではないですよ?」

「以後気をつけます」

「気を付けてください」


へベルナの睨みつける瞳、どこからどう見て25歳には見えないし、本人に自覚があるのかはわからないが、へベルナは精神も15歳に引っ張られてると思う。


「まぁルキウスは22歳ですから、幼馴染というよりは弟見たいなものですね」

「ルキウスと俺って同い年だったのか......」


マジかぁ、あの騎士と俺が同じ年って......。


「なんか、いいな剣士......俺も剣とか使ってみたい......」

「やれやれ......なら早く魔法を覚えてください、剣と魔法を使えるようになれば、冒険者社会でもそれなりに上位に行けるでしょう」


そうだ、俺は早く強くならないといけない、へベルナに時間を無駄に使わせてるとか罪悪感あるし。


「ただルキウスのようになるのは大変ですよ?」

「いや別にルキウスのような剣士を目指してるわけじゃ......」

「いえ、目標は高く設定しなくてなりません」


近くに置いてあった剣を勝手に持ち始め、振ったり払ったりする。


「彼は剣の天才ですし、攻撃魔法も使えます......あなたが目指したいのは魔導師ではなく、魔法剣士でしょう?ならルキウスを目指すのが良いかと......」


そうはいってもこの世界で知ってる奴なんてへベルナとルキウスくらいだからなぁ。


「目標は保留で」

「はぁ、まぁ無理強いはしませんが......」


それかもへベルナとの二人で魔法の授業と特訓が繰り返し行われた。





アキラはいつものように基礎魔法を撃つ。

「『ファイアボール』」

彼にとって一番撃ちやすい魔法の一つが火属性『ファイアボール』だった。


「......」

へベルナはアキラの将来性を見極める。


彼が将来魔導師になるかどうかは本人が決める事、彼女も別に強制するつもりはない、剣士になるのならそれも良いと考える。


日々日々『ファイアボール』の火力は増していく、どうやらアキラには魔法の才があったようだ。


「......」


アキラの容疑が晴れていない現状、ルキウスの別荘に居続ければ迷惑もかかる。

へベルナにとっても余裕はなかった。


「(そろそろ、冒険に出させますか......)」



へベルナのそんな、思いを知らずにアキラは自らの魔法の出来を一喜一憂していた。





もう怪我は回復して普通に歩けるようになってきた頃。


「冒険?」

「はい、冒険です、といっても遠出はしませんが」


へベルナは突然そんな事を言い出したのは驚いたが、へベルナも時間をかける訳にはいかない、実戦を経験してみよう、ということか。


「本来ならギルドに加入してから受けた方が良いのですが、そんな状況ではないですからね、私が代わりに受けた依頼ですよ」


へベルナは白っぽい紙を俺に見せてくれた。


「ん~と、森、現れる......す......らい......む?」


少しは覚えてきたつもりだったがまだまだだ、全然わからない。


「森に現れるスライムからスライムゼリーという素材を取ってくる依頼です」

「俺って外に出ても大丈夫なのか?」

「私の旧友という設定は外部に通しているので大丈夫なはずですよ、もしもの時は守りますからね」

ホントに大丈夫か?


「依頼のスライムは危険度E級なのでアキラでも問題ないはずです」

「何級まであるんだ?」

「E、D、C、B,A級までですね、そこから最上位のS級になるのですアキラには

C級相当にはなってほしいですね」

「はーい」


俺が訓練を受けているのは旧友設定に相応しい強さを身に着けさせる為だった。


「ひょんなことからコンビを組んだ過去があるという設定ですからね、友達の為に勝手に侵入したとなればそれくらいの過去が必要でした......」

へベルナはやれやれと首を振る、まぁ、だから別荘に籠ってる状態なんだよな、俺。


「あぁ、それと、はい」


へベルナから何かを渡された。


「これは?」

ずっしりしてるな、うん?これは......


「剣です、杖はなくても魔法は使えますが、剣士は剣がないと戦えませんからね」

「剣士になりたいっていった事覚えててくれたのかぁ!」

「まぁ、覚えてますよ......ほら、早く行きますよ!」


へベルナは帽子のツバで顔を隠しながらさっさと部屋を出てしまった。





屋敷から出たはいいが街から少し離れていたらしく、道だけはあるが、人や馬車は通ってこない。


徒歩で行けるらしいので、へベルナについていっているとへベルナが話始めた。


「あなたの容疑は魔石採掘場で多くの意識不明者を出した事ですが、闇ギルド【漆黒の蛇ブラック・スネーク】のギルドマスターを捕まえて、意識不明者を回復させねば、容疑は晴れません」

「そのギルドって魔石採掘場を占拠していた?」


よくよく考えれば主犯格の事を全然知らない、【漆黒の蛇ブラック・スネーク】ってのがその闇ギルドの名前なんだろうが。


「ギルドマスターはリードル、ソルテシア近郊で目撃されるようになった男です」


「実は彼が魔石の採掘場が占拠していたのは把握されていました」

「ならなんでサッサと動かなかったんだ?魔石ってかなり使いどころあるらしいし、早めに追い出せば良かったのに......」

「簡単に言わないでください、一斉摘発とか、そういう事に力を入れ始めたのは最近ですし......」

「最近?」


するとへベルナは少し悲しげにうつむく。


「......皇帝陛下が崩御されましたから......」

「そう......だったな」

「はい、いままではあまりこういった事に関心はありませんでしたが、現皇帝陛下は違います、なので一斉摘発も行われるようになりました」


危ない危ない、さすがにそういうのを知らないのは洒落にならない。


「ふぅむ、ここら辺に出るはずですが......あっあまり離れないでください、危ないですよ」

「へぇ」


思えば、いままでは余裕がなかったから、周りを見る事もしなかったな。


「あっスライム――」

「えっ――ぎゃ――」


ものすごい弾力ある何かが体当たりしてきた。


「なっ」


青色のぶよぶよした奴がうねうねしてる、これがスライム?

薄い青の奥に濃い青がある。


「アキラ、さぁ、スライムです、魔法で戦ってください」

「おう!」


ぶよぶよとしたスライム俺に向かって飛んでくるが――


「『ファイアボール』」


俺はそんなスライム目掛けて魔法を放つ!


バァンッ!


スライムは爆発を引き起こして溶けて行く......すごい気持ち悪いな......


「おめでとうございます!アキラ、スライム撃破です!」

「......」


そうか、俺、俺の力で初めて魔物を倒したのか!


「やった、やった!おいおい、へベルナ!俺の初めての魔物退治を見てたか!」

「えぇ、見ていましたよ」


万歳万歳をしながら歓喜している様をへベルナからにこやかに見られているのに気が付いた俺は、なんだか恥ずかしくなってやめる、いや、嬉しいからつい......


「コホンッ......あっそういえば、スライムゼリー」

思い出した、スライムゼリーの回収が依頼だった。

しかしスライムはドンドンと溶けている。


「スライムゼリーというのは、スライムの核の所にある濃いエキスの事です」


へベルナは溶けているスライムの中から濃いスライムをぐちょっと持ち上げて

「はい」

俺に手渡す。

「ひああぁ......」

少し冷たくてぐちょぐちょ、人によって気持ち悪いと感じるかもしれない。


「まぁ上級者になるといちいち倒さずに、生きたままそれを抉り出すようになりますね」

「えぇ......」

へベルナは容器の中にスライムゼリーを回収する。


「スライムゼリーって何に使うんだ?」

「料理でしょうね」

「料理!?」

「知りませんか、良く好む人もいますよ、冒険者業をしてる人は一度くらい食べた事あるでしょうし」

「へぇ、美味しいのか?」

「ハチミツとか混ぜて食べるのが普通です、水分とか取れますから危機的状況の時の非常食ですかね」


スライムゼリーねぇ。


「そういう意味でスライムはありがたい存在です高所から密室、様々な種類のスライムがいますからある程度は覚えておくと便利ですね」

「へぇ」


へベルナはしたり顔をしながら森を歩いてく。


「スライムに限りません、魔物というのは何処にでも潜んでいますから、場合よってはそういった魔物も食べる事になるでしょう、それにこういった森の中で遭難したら虫とかそういう魔物も――「あっ前に――」



目の前に蜘蛛の巣が、と言おうとしたが――



「食べざる――」



かなりでかい蜘蛛の巣だったようだ、顔面と三角帽子を見事に包んでいる。



しかもなんて事だ蜘蛛は多くの蜘蛛の子を宿していたらしく――



わらわら――



そんな恐ろしい光景に俺はただ鳥肌を立てた――




「キャアアアアアアァァァッッ!!」




森の中をへベルナの叫び声が木霊したのだった――




あれからどれだけ経ったか......へベルナはまだのたうち回っている。


「あー大丈夫か」


あんな悲劇を味わったら誰でもそうなる。


「ぜぇ......はぁ......」


四つん這いになりながらもどうにかして立ち上がり。


「......さぁ、あと4匹討伐しますよ!良いですね!?」

「えッ」

「時間は待ってはくれませんよッ!」


へベルナはそう言ってまた先へと進むのだった。





「『ファイアボール』」

スライムを見つけたら撃つ、最初は狙いを定めるのに時間もかかったが、5回目ともなると、慣れてきた。

「だいぶ慣れてきましたね」


特に問題はなく終わった。剣を使う機会なく終わってしまった......


「しかし、最近魔法を覚えたというのにアキラは成長が速いですね」


平均が分からないからなぁ、自覚がない。


「そんなに?」

「はい、個人差はありますが、アキラの成長スピードは速いです」

「えっすごい?」

「えぇ、すごいですね」

「そぉかねぇ......」


称賛には弱い。


「しかし、慢心はしないでくださいね、確かにあなたの『ファイアボール』の威力は強いですが、残念ながらそれだけでは生き残れません、基礎魔法というのは汎用性の高さが強みであり弱みです、読まれやすいという弱点がありまして――」


そしてへベルナはいつもこのように説明をしてくれる、正直かなり長いし話半分で聞いてしまうこともしばしば.......でも、俺の事を思っていることに感謝してる。


「――ただ剣士となるからには、やはり補助魔法による強化系魔法は覚えておきたい所ですね」

「そういえば、攻撃魔法より難しいんだっけ、補助魔法は」

「はい、ただ難しいのは人に付与する場合ですね、自分でかける場合にはコツを掴めばできるはずです」


へえ、強化魔法はかなり汎用性ありそうだし、いつか覚えたいな。


「では、戻りましょうか」





へベルナは俺を別荘に返すとそのまま依頼達成の報告の為にギルドに戻るという。ギルドと言えば......


「へベルナのギルド所属ってどこなんだ?」

「あぁ......【赤の壁レッドウォール】というギルドです」


それって確か......


「被害を受けたギルドの一つですね、当時ギルドマスターであったネイロス=ザッドルアは責任を取り、新たにアーヴィ=パウンがマスターになりました」


黄金の鍵爪ゴールドクロウ】は多くの意識不明者を出した。

緑の園グリーンガーデン】は唯一被害者ナシ

白亜の川ホワイトリバー】のギルドマスターは意識不明

赤の壁レッドウォール】は責任を取りギルドマスターの変更


「へベルナは大丈夫なのか?」

「......安心してください、こう見えてもあなたより年上ですからね」


俺を匿ってる所為で彼女だって苦労しているはずだ。


「それでは、また明日」


そういってへベルナはギルドへ戻っていった。


「これは甘えてばかりじゃいられないな」


そうだ、へベルナがこんなに苦労しているのは俺の所為だ。


「へベルナは俺なんかに時間を使う必要はない、俺が早く強くなってへベルナを開放してやらないと......」


強くなって【漆黒の蛇ブラック・スネーク】のギルドマスター・リードルを捕まえて、俺の容疑を晴らす。


そうすればへベルナは偽りの旧友である俺の為に頑張る必要はなくなる。


俺もこの世界を生きる余裕ができる、そしたら、お金だって稼げる、金があれば色々とできるようになるはず!そう、いろいろ!



そのために強くなろうと再度決心した――

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