第4話 はじめまして、旧友


魔石採掘場で大量の意識不明者が出る前の事、へベルナはザイルドと一緒に脱出していた。


しかし、外では戦闘が発生しており、責任者であったのは若くしてギルドマスターに上り詰めた【赤の壁レッドウォール】のギルドマスター・ネイロス。

彼はある選択を迫られていた。


「ネイロスさん、採掘場内部でも予想外の戦闘が起きたとへベルナから報告がありました、内部に向かうチームを選ぶべきかと......」

赤の壁レッドウォール】所属のへベルナからの情報である。


これ以上戦闘が長引けば、増援を待っているチームが危険だ。


赤の壁レッドウォール】№2であるアーヴィはその事を報告していた

「幸い、ここの敵は数だけ、内部の存在の方を危険視した方が良いかもしれない......」

しかし、彼の勘はこの数だけの襲撃を怪しいと感じていた、本当に中にチームを送っていいのだろうか、中だって安全なわけではないのに。

「へベルナの判断か......」

「へベルナだけではなく、俺もそう考えている」

「へベルナとアーヴィが判断したのなら......そうだな」


信頼を置いていた、へベルナとアーヴィの二人の意見を飲んで

ネイロスはチームを二つに分けて内部に向かう増援部隊50名を選択した。


その中には【白亜の川ホワイトリバー】のギルドマスターである

ハンも含まれていた。


「ハン、すまないが内部の助太刀をお願いしてもいいか」

「構わんよ、わざわざ現場にいるのに何もしない方がいかんだろうさ」

「ありがたい」


全てのギルドマスターを連れていくわけにはいかない中でネイロスが選んだのはハンだ、真っ白な髪の老体でありながら、若人にも負けない身体能力を持っている彼は戦場においても絶対の信頼を置いており、彼を抜擢した。


「ザイルドにはその戦闘があった場所までの案内をお願いする」

「了解したぜ」


こうしザイルドを先頭にハンはそれぞれ魔石採掘場の入り口へと向かっていく。



内部と外の二手に分かれ、採掘場外の戦闘はその後終わらせる事が出来た。



戦闘が落ち着き始めるとへベルナはある男を捜索していた、アキラである。

戦闘でごちゃごちゃになったとはいえ、牢屋は機能していたが、アキラがいない。


「(おかしい、逃げ切れるはずがないのに......)」


闇の鎖は時間が経てば消えるとは言え、まだそんなに時間は経っていない。


「――こういう人見ませんでしたか?」

「知らねぇな、盗掘してたやつなんだろ?どうでもよくねぇか?」


色々な人に聞いたが見ていないという。


「まさか、本当に逃げられた?」


もし、そうなら彼女の失敗だ、確かにあの戦闘の隙を突けば逃げられない事もなかった。


「はぁ......」


へベルナはこうしてアキラの事を報告をするが、今は。戦闘の後処理中、死者は出なかったとはいえ、怪我人が出ていたので、みな真剣には探していない。


「しかし、大量にいる冒険者を襲うなんて馬鹿な奴らだ」


各々が戦いの感想を言い合う、まぁ彼らにとってもいい刺激になった程度の認識だった。


「なるほど、逃げられたと......」

「申し訳ありませんマスター......」

「やらかしたな、へベルナ」

「うぅ......」


へベルナはアキラの事を報告した。


この後にもう一度、魔石採掘場へ突入をする準備を始める、その矢先にだった――


「ッ!?」「今の光は!?」

紫色の光が洞窟より放たれた。


唖然、何があったのかわからない謎の光に困惑する。

そして誰かが声を上げる。


「――おい、中の奴らは大丈夫なのか!?」

「そっそうだ――」



そして中に入って調べて行けば、見つかるのは眠ったように倒れている人、人、人。冒険者だけではなく、そこに住んでいたであろう魔物、闇ギルドの残党、全てが昏睡状態で何をしても目を覚まさない。


外に次々と運び出されていく人、そんな様をネイロスは茫然と見ている。


「どういうことだ......何があった......」


恐らくは大規模な魔法が発動した、したとしか言えない。しかしどうやってこれほどの規模の魔法を......そんなすぐに発動できないはずだ。


「あぁ、マスター!」「なんてことだ、ハン様!」「起きてください!」


白亜の川ホワイトリバー】ギルドマスター・ハンが運びされた時には同ギルドメンバーが駆け寄り声をかけるが起きない。


「大規模な睡眠魔法......ですかね......」

「あぁ、ただ睡眠というよりは――」


へベルナの問いに何かを言おうとした時、泥玉がネイロスに飛んでくる。


「――ッ!」

へベルナは咄嗟に杖で泥玉を振り払う。


「なぜ庇った!」

「自分のマスターを守るのに理由が必要ですか!」


へベルナは強く言い張る、今泥を投げたのは【白亜の川ホワイトリバー

の一人である。


「ネイロスの作戦ミスで俺たちのハン様が倒れたんだぞ!」

「関係ありません!」

「へベルナ、庇う必要はねぇ、俺のミスでもあったんだ、奴らの気が収まるなら......」

「ダメです、私が許しませんよ」


しかし、別の冒険者も噛みついてくる。


「俺たちの所だって、仲間が多くやられた、ザイルドだってやられたんだぞ!」

ザイルドが所属していたのはギルド【黄金の鍵爪ゴールドクロウ】だ。


「へベルナ、仕方ないだろう、俺たちの所の冒険者もやられた」

「ッッ!自分のマスターを裏切ると!?」


それを言ったのは【赤の壁レッドウォール】の№2アーヴィであった。

あろうことか同じ【赤の壁レッドウォール】№2の冒険者でさえ、

ネイロスを裏切ろうとする始末。


「......そうか、そういうことか......そういうことだったんだな......」

「マスター?......」

「......」


一触即発、そんな中だった――


「――そこまで!」


声の主は【黄金の鍵爪ゴールドクロウ】のギルドマスター・バルガだった。


「お前ら、いい加減にしろ!冷静になれ!」


この場に居た者はみな感情に支配されていたがバルガの怒声でそれを打ち払う事に成功したのだ。


後ろから現れたのは【緑の園グリーンガーデン】ギルドマスター・ハネリィ。【緑の園グリーンガーデン】は裏方としてサポートしていたために被害は出ていなかった。


「......バルガを呼んで正解でしたね......情報共有を行いますよ」


こうして、一応の平穏が生まれ、採掘場から逃げた者が確認できただけで5人であることがわかった、アキラという男、怪物、ピンクの男、白いローブの人。そして内部にいたと思われる闇ギルド

漆黒の蛇ブラック・スネイク】ギルドマスター・リードル。


それらの捜索を最優先にすることが決まった。




◆◇◆◇




目を覚ますと太陽が真っ直ぐ照らす、ということは時刻は正午くらいだ。


「うわ......結構寝てたか......」


幸い魔物などに襲われなかった、俺は運がいいのかも。


「さて、この後だな、ソルテシアに戻るべきか......」


正直、盗掘くらいで指名手配とかされているとは思わない。

「うん、戻ろう、魔物とか出くわしたら交渉の余地がねぇ......」

意思疎通ができない相手に出くわしたらアウトだ。


だったら戻ろうそう思い、ソルテシアに戻る為に歩く。



ソルテシアに戻れば、ある大広場の前に住人がごった返している、なんだ?

どうも俺と同じように見物人がいる。話しやすそうな人に聞いてみよう。


「何かあったのか?」

「何でも一斉摘発作戦に参加していた冒険者が大変な事になったらしい」

「大変な事?」


まぁ、冒険者業も命がけだろうから、そう言う事もあるだろう。


「沢山の意識不明者が出たらしくてな、何があったのかみんな説明をみんな求めてるのさ」

「意識不明者......」

「幸い死んではないが、大ごとだからな」


何かがあったんだ......俺が出ていった後に......


大広場の中央に誰かが現れる。


丸坊主にして鋭い金の瞳の大男。

腕を組んで堂々と歩いてくる姿に人々も徐々に沈黙していく。


「【黄金の鍵爪ゴールドクロウ】のギルドマスターのバルガだ」


ギルドマスター、素人目に見てもわかる、あれは強い。


「魔石採掘場での一斉摘発で多くの被害を出した事は皆も存じているだろう」


一体何を話す気だ?


「採掘場の作戦途中にて、採掘場内で発動した魔法によりその時、内部にいた者たちは昏睡状態に陥ってしまった。今現在、われわれは冒険者協会やアルカディア帝国の協力を受けながら回復の方法を探している」


......あのピンク野郎が言っていた、『逃げた方が良い』はこの事だったのか......


「だが手がかりはある、採掘場から逃げ出した者達だ、奴らこそが我らを罠に仕掛けた者!必ずや全員捕まえてみせ、被害者を全員完治させて見せるぞ!」


その言葉に他の住人はホッとしていたり、喜んだり様々な様子。


俺は全くホッとしていない、ゾッとしている。

これ、まずくないか?俺、変身姿どころか、人間の俺も容疑がかかってないか?


「――目撃者から顔を再現して手配書を――」


俺は既にへベルナに捕まっていた、しかし、逃げ出した、結果的に逃走してしまった。


「――」


即座にその場から去る。



「......ここを去るしかないか......自首したって、何の信用もない俺を信じてくれる訳がない」


ここには名残惜しさもあるが。こんな大ごとに巻き込まれたら人生終了、そんなのは勘弁だ。


知り合いなんていない、持ち物もない。


「少なくともソルテシアから逃げるしかない......」


町影に隠れながら、コソコソと進む。どこで手配書を見た者がいるかわかったモノじゃない。


「はぁ......はぁ......」


どうして俺はこんな目に遭っているのか......


「......魔石盗掘しようとしたからか......」


はぁ、俺って本当にくだらない事やらかしてるな。

「......辺りも暗くなってきた、人通りが少なくなれば逃げやすくなる」


気が付けば貧困層の多い、スラムについていた、ある意味安全......

「んな訳ねぇよな......」

ここがソルテシアのスラム、小汚い場所、俺が寝泊まりしてた場所に先客がいなかったのは本当に運が良かっただけか。


怪しい売人に気が狂ってる人間。


「栄えてるように見えたソルテシアの裏の顔かな」


どんな町にもやっぱりあるモノなんだな、変な奴に絡まれないうちにここを離れよう、もうすぐソルテシアの外のハズ......。


「――ごめんなさいっ!」

「――おら!」

「......」


小学生くらいの少年が暴力を受けている。他の住民は助けたそうにしているが、動けずにいる様子。


「返しますから!」

「食いかけのモンを返してもらってどうするってんだ!」

どうやら、店の品を盗んだ少年に店長の男はご立腹らしい。


「(悪いな、俺に金とかあれば助けたが、今はそんな金ないし、俺も逃走している身だからな)」

「――ッ」


勘弁してくれ......そんな助けを求めた目を向けられたって......俺はそんなにお人よしじゃない......良い人じゃねぇんだよ。


「――ッッ!」


大体お前が盗んだから始まったんだろう?お前が悪いだろう?


......チッしょうがねぇなぁ!?


だったら俺の勇姿を見て目に焼き付けておけよ!


「......エート、そこまでしなくても――」

「あぁ?」

やばい、怖いわ。


「っ!いっいや、盗みはダメだが、ならその額の金を返せば」

「じゃあテメェが代わりに今すぐ払え」

「......あとで払う......」

「今すぐ払えねぇなら邪魔をするなよ」


俺を無視してまた少年に近づく。


......正直気が引けるが......やるしかない。


奴の背中を――

「ウラァ!」

蹴り飛ばす!


「――イッ」


俺の蹴りに大きく前へ転んだ。


その隙に――


「――おい、逃げろ!」

「――でも......」

「早く!」


クソッ俺もさっさと逃げるぞ、マジで危険犯しただけだよ!




走る――



走る――




「人通りもなくなってきた......」


さすがにここまでは追ってこないか、あの少年には悪いがこれ以上関わる気はない、

後は一人でどうにか――


「エッ」


背中から刃物が突き刺さり腹を貫いている。


「っ......ッ?」


え?


「俺を甘く見てたな?」


なんだ、一体なにが起きた、最悪だ、最悪、最悪な状態。


「グ......」


口の中が鉄の味がする。


奴は俺の背中に刺さっていた短刀を取り出す。


「グアァ」

「俺、元々冒険者なんだよ、全く甘く見られたもんだ」

「くっ......」

「おらぁ!」


背中を思いきり踏まれる、あぁやっぱり無茶なんてするものじゃない......


「大体俺、全然悪くねぇよな?泥棒を教育してたらさ、お前が突っかかってきたんだもんな?」

「......」


痛めつけるのを楽しんでいた癖に......俺だって別に庇うつもりはなかったが、あの目を見たら動かざるを得なかった。


「何とか言ったらどうだ!?」

「――ッ」


踏みつけられ続ける。


「ガハッ......」

「へっ辛そうだな、これで最後にして――」


ふざけるなよ、いい気になりやがって、街中だろうが関係ないここで変身して――




「何をしているのですかッ!」


「「――っ!?」」




少女の声が聞こえてきた、思わず声の方向に目を向ける。


「だ、れだ......」


月明かりに照らされるのは先が垂れた大きな紫色の三角帽子と紫色のローブをした、所謂魔女の恰好をした少女......へベルナであるへベルナは大きな杖をもって近づいてくる。


「......」


あからさまに動揺している男、へベルナは地面を杖でカツンッと大きく叩く、その堂々とした凛々しい姿。


「へベルナっ!?なぜここに......」

男は驚きながらしゃべる、知り合いなのだろうか。


「近くに用事がありましてね、そしたら......」

「う......」


俺をチラリと見るが、見ないでほしい......逃げようとした挙句ボコボコにされているなんて恥ずかしくてしょうがない。


「ッチ、とことん運がない!『ファイアボール』」

男は右手を横に振り払うと同時に炎の玉を横に並べ――

「――ッ」

炎の玉を一斉にへベルナに飛ばす――


へベルナは空に向けて杖を突きだし。

「『サンダーボルト』」

雷を放つとファイアボールの列に青い雷が落雷して相殺していく。


「ッまだだ『ファイアボール』」

今度は両手の炎の玉を貯め、同時に投げる。


グルグルと回りながらへベルナに襲い掛かるが。

「『黒薔薇くろばら』」

杖の先から現れた二つの黒い荊は二つの炎を相殺して激しい爆発を巻き起こす。


土煙が舞う中、男の方は再度を炎の玉を並べようとするが――

「ッ『ファイ――「『サンダーボルト』」

しかし、間に合わずに雷を受けてしまう。


「くっ......」


しかし男は倒れない、さすがは元冒険者といったところか......


「基礎魔法であるファイアボールをあそこまで......流石の練度、お見事です」


へベルナは賞賛を送っている、これは心からの賞賛なのだろうが――


「――ッどいつもこいつも俺を馬鹿にしやがって!」

男は短刀を手に持ち、へベルナに投擲しようとする――


危ない――


「――ッ!」


奴の片足を力一杯に引っ張りどうにか体制を崩させる。

「――なっ!?」

「――『サンダーボルト』」


体制を崩した隙を突きへベルナは杖の先から青い電撃を当てる。


「......終わりですね......」


へベルナが近づいてくる。

「......大丈夫ですか?」

「へへっ全然――」


あぁ、安心したからか、意識が飛んでいく、結局捕まる羽目になったが、仕方ない。


「......あの――ちょっ――、――!?」


俺の意識はここで途切れた。




◆◇◆◇




「?」


窓からの日差しが俺を照らす。


「んー!確か助けられて......」


ベッドの上で寝ていた、久しぶりの布団での睡眠だった。


「ここは......どこだ?」


辺りを見渡すが、清潔な部屋だという印象、綺麗なツボやらがある事から富裕層の家であることは予想がついた。


誰かが部屋に入ってくる。


「起きましたか」


見慣れた魔女姿のへベルナが部屋に入ってくる。


「へベルナ......助けてくれてありがとう」

「別に気にしないでいいですよ、あの場面に出くわしたら誰でもそうしますから」

「そうか.....ここは?」

「知り合いの別荘です、さすがに異性を私の家に連れていくわけにはいかないので」


知り合いの別荘......へベルナはもしかして大物なのだろうか?

へベルナが話しているともう一人部屋に入ってくる。


「元気そうでよかった」

「――」


輝くようなライトイエロー色の髪と碧眼の青年、白い鎧には金色のラインが入っており、如何にもな騎士......


「どうしたんだ?驚いて......」

「えぇと、アキラさん?この人はですね、ルキウスと言いまして。あなたの為に部屋を貸してくれたのです」


豊穣の森で戦った騎士だ見間違えるはずがない。俺を殺そうとした男。


「アキラさん?ルキウスにお礼を」

「いいよ、僕は部屋を貸しただけだから」

「しかしですね......」

「......いや、ありがとうルキウス、こんな怪しい奴に部屋を貸してくれて......」


どこからどう見ても怪しい男でしかない俺に部屋を貸してくれたのだ、感謝しかない。過去のアレは仕方のない事、事故みたいなモノだ。


「すみません、二人で話しても?」

「構わない、僕は訓練場にいるから何かあったら呼んでくれ」


ルキウスはそう言って部屋から出る、俺とへベルナと二人だけになった。


俺はベッドに座り、へベルナは椅子に座りお互い斜めに向かい合い話す。


「......俺はこの後どうなるんだ?」

「......ふぅむ、本来であればこのまま捕まえてしまおう......と考えてました」

「?しまおう、と?」

「......」


へベルナは考え込んでいる、何だろうか。


「私はあなたを見つけた事をまだ他の人に知らせていません」

「......え?」


なぜ言わなかったのだろう、俺は罪人だ。彼女にとってはそうだろう。


「どうしてだ?俺はアンタと親しくない、隠蔽する必要なんてないはず」

「......私があなたと別れた後、立て続けに戦闘が起きました」


ピンク野郎と俺か。


「その後、私は運よく脱出しましたがその後の事です、採掘場にいた冒険者、計101名が意識不明の状態に陥りました、違法採掘者なども数に含めればもっと多いでしょう、あの怪物やあの男が何かしたのか......」


俺にはかけられている容疑はそっちか、もう魔石云々の話ではなくなってるのか。


「もしかしたら内部に何かしらの魔法がかけられていたのかも......いくつものギルドが協力して行った作戦でした......」

「......」

「当然今回の出来事には憤慨しています」

「......俺が何かしたと疑われる危険性があると......」


101人が意識不明......


「えぇ、仮に私があなたの事をこのまま報告したら尋問されます......確実に」

「......」

「あなたには無実を証明する事はできない、魔石盗掘というのは、実は嘘であり、何かしらの魔法を使ったとか、言いがかりをつけられるかもしれません」


俺に身寄りもないし仮に間違ってても問題はないのか。


「......アキラさん、私はあなたが悪人だとは思っていません」


赤い瞳で真剣にじっと見つめる。


「ですので......あなたには汚名返上をしてもらいます」

「汚名返上......」

「あの採掘場に居たであろう闇ギルドのギルドマスターも捕らえれず」


へベルナ語り続ける。


「私達は失敗してしまったのです......」

「......意識不明者を大勢出して、目当ての敵のリーダーは逃げられて......か」

「そうですね、あなたもまた一斉摘発に失敗した冒険者の一人」


ん?


「えっと何言ってるんだか?」

「隠蔽?違いますよ、あなたは私の旧友で採掘場の一斉摘発に私の身を案じてたった一人単身で挑んでしまったちょっとおバカで友達思いな冒険者アキラ......」

「フジワラ」

「そう、ちょっとおバカで友達思いな冒険者アキラ=フジワラ。しかし作戦は失敗してしまいました、だから次は失敗出来ません、アキラ=フジワラは今度こそ失敗するわけにはいかないのです!」


へベルナは上を向いて、静かに笑う、こちらを見る様は何処かドヤ顔を彷彿とさせる。


恐らくは俺が採掘場にいた理由はへベルナとの旧友で、友を思って勝手に行動したからと、そうすることで......俺を守ろうとしてくれているのか。バカは余計だが。


「良いのか?俺、クソ雑魚だぞ、お前の実力と不相応だろ、絶対」

「......鍛え上げます」


鍛え上げるって......。


「俺が強くならなかったら?魔法とかてんでダメだぞ、学がないっていうか......」

「いえ、強くなりますよ、というかさせます......」

「すごい自信......」


なぜここまでしてくれるんだ?正直優しいという言葉だけでは説明がつかない。


「なんでそこまでしてくれる?メリットがない気が......」


へベルナは困ったように考える。

「はぁ......私は主犯者の関係者の可能性がある敵を前にして逃亡してしまいましてね、周りから白い目で見られているのですよ、そして今の設定どおりに行くと、私の評価はさらに下がります、旧友の勝手な行動を抑えきれずに、挙句逃げられてしまった訳ですから」


敵前逃亡と拘束失敗か......確かにな。


「私としては名誉挽回する機会が必要と考えておりまして、あの、ギルド所属の経験はありますか?」

「いや、ないけど」

「よかった、つまりあなたは無名、そんなあなたを強くして、犯人を捕まえられれば、素晴らしい原石を見つけた私は魔導士として再評価を受けられるでしょう、もちろんあなたも評価されますし、一石二鳥です」

「つまり、俺を利用すると?」

「言い方を変えれば、そうとも言えるかもしれませんね」

「......俺で名誉挽回出来るといいな」

「安心してくださいよ......させますから」


怖。


「それに......もう後悔はしたくありませんから......」

「後悔?」

「あっいえ、なんでもありません......そうだ、あと、あなたが魔石の盗掘未遂なのは事実ですので、アキラさんは素行にも気を付けてくださいね」

「えぇ......」


完全に犯罪者扱い、いや実際やらかしてるから反論できない。


「だったらさ、さん付けはおかしくないか?友達なのに、さん付けはおかしいとか周りに言われるぞ?」

「それは......そうですね、ではアキラさ......アキラ、しばらくの間ここで休んでいてください、ルキウスには頼んであります、私はやることがありますので」


へベルナはヨイショと立ち上がり伸びをする。


「アキラ、また会いましょう――」

「あぁ、最後に一つ聞いても?」


これだけは聞いておきたかった。


「名前を聞いても、いいか?」


へベルナは不思議そうな顔を一瞬して、笑顔に戻る。


「えぇもちろん、へベルナ=マギアフィリアです」

「俺はフジ......アキラ=フジワラよろしく」

「アキラ=フジワラ......ですね、よろしくお願いします、アキラ」


へベルナは笑顔で握手を求めたので握手を返す、異世界に来てから初めての握手。

中高生くらいの手の大きさだ、俺より小さい――


「......ちなみに私は25歳ですよ?」

「――は!?」

「不老の秘薬『ソーマ』を15歳の時に飲んで以来、成長していませんから」


さらっととんでもない事を言われた。俺より年上だったのか......


「ではアキラ、また明日」

「あっあぁ、また明日」

完全に驚き顔に慣れているな、俺とは対照的に自然に挨拶してきやがった。


だけど、ようやく異世界でも知り合いと言える存在が出来た、まだわからない事だらけで不安もあるが、きっとうまくいくと信じて――


異世界での初めてのベッドで睡眠を満喫したい、襲われる心配のない心からの休息を取るとしよう。



目を覚ますともう夕暮れ時、今日の俺は完全にニートだな......。


「へベルナに休めと言われたから仕方ない」


いままで生きた心地がしなかったし、橋の下か森でしか寝てなかったから、疲れなんて取れてなかったかもな......


「......」


コンコンッ


ドアをノックする音が聞こえる。


「......どうぞ」

「起きましたか、お体の調子は?」

「まだ痛いけど、大丈夫かな」


メイドが俺を見るなり話しをかけてきた、どうやら今日の夕食は食べられそうかを聞きたかったらしい。


もちろん食べる、いや、食べたい!


「畏まりました、いつ召し上がりますか?」

「あぁ、19時で」

「わかりました、19時にまた参りますので、何かありましたら、そのベルでお呼びください」


ベル、ベッド横にある金色のやつか、そして19時......いまは17時過ぎか。


勘だが俺には御粥のようなモノを出されるだろう、背中から腹に短刀をブッ刺されたばっかだ仕方ない。


俺があれこれ考えてたらまたノック音が聞こえる。


「入っても?」


この声はルキウスだ。


「どうぞ!」

「起きたと聞いて......そういえば、へベルナとは友達だったんだな」

「――そうだな......」


へベルナと話し合って設定を考えておかないと......。


「そんなへベルナの事で少し話しておきたい事がね」

「話しておきたい事?」

「いや、そんな畏まらなくていいよ、知っていて欲しいだけだ」


知っていて欲しい、何だろうか?


「へベルナがここに君を連れてきた時の状況についてだ――」


昨日この別荘ではある会議が行われていた、会議は終わりその帰り道とある少年が

へベルナに助けを求めてきたという、事の詳細を聞いたへベルナは急ぎ、

現場へ向かい俺を助けた。


「その少年は身寄りがいなくてね、飢えでついには盗みをしてしまったようだ」

「......」


その後へベルナは俺の足先を引きずりながら背負いこの別荘まで歩いて来たらしい。


「夜だったとはいえ、誰にも見られるわけにはいかなかった君を、わざわざ背負って運んでくれたんだよへベルナは......その事は知っておいて欲しかった」


そうか、彼女はそこまでのリスクを冒してまで俺を助けてくれたのか。


「......」

「後、少年は君に感謝していたぞ」

少年......

「君が助けた少年の事だよ、助けてくれてありがとうって言っていた」

「感謝?俺が?」


俺は感謝なんてされる事をしていない、感謝されるべきなのはへベルナ、彼女だ。

彼女があの男を倒した、俺はボコボコにされて死にかけてただけの男だ。


「俺よりへベルナに言うべきだろ?俺は何もできなかった」

「......話を聞く限り、君が助けてくれたと言っていたがね」

「助けただなんて、おこがましい......俺は......ただイキってただけだぜ」


助けてなんていない、少年が助かったのはへベルナが来たからだ、仮にあそこに

へベルナが来なければ、俺は死んで、その後に少年も無事ではすまなかっただろう。


「......そうか......」

「そうだよ......」

「......じゃあ、この話題はこれで終わりだ!それよりも君の今日の夕食は御粥だ」

「やっぱり(やっぱり)」


やべ、声が出ちゃった。


「安心してくれ、ここの料理人の腕はピカイチだ、御粥だって最高の物になるはず」

「別に期待してなかったわけじゃないんだが......」

「だと嬉しいな、じゃあ、僕は自分の部屋に戻るから、安静にしているんだぞ?」

「わかってるよ」


ルキウスはそう言って出て行った。


「......」


ルキウスも俺を匿ってくれたんだよな、へベルナとの関係は運んできた時

には当然何も知らなかったはずなのに......


「あぁ、全く、俺は運が悪いんだか、良いんだか......」



俺はそんな厚意に、思いに、きっちり答えないといけないよな

へベルナ=マギアフィリア、俺は一生懸命にお前が考えた設定を演じて見せる。



俺を庇った所為で誰も大変な目に遭わせないように――



はじめまして、旧友!

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