第3話 名無しの権兵衛の戦い
「戦闘が近いな」
爆発音が奥から聞こえて来る、このままいけば戦闘になるだろう。
「......」
作戦はとにかく敵に攻撃してすぐ退散、これだけだ、へベルナと対峙してる奴らを攻撃すればいいだろう。長居はしない、どうせ捕まるだけだし、わざわざ死ぬ気で戦うつもりはない。最終的にへベルナを守れればそれでいいだろう。
「――ッ」
戦場に近づいていく――
◆◇◆◇
闇ギルドが占拠していた魔石採掘場の一斉摘発決行が開始してから数時間。
当初はすぐに終わるだろうと考えられていた、何せここはアルカディア帝国首都ソルテシア近郊、魔石採掘場奪還の為に精鋭が集められていたのだから。
「......増援はまだですかね」
内部で戦闘が激しくなるのは予想がついていた、その為に外にも余裕ある戦力を置いていたし、増援が来る手筈だった......だったのだが......
「......これは......アレだな、外で何かあったとかだな」
予定時刻を過ぎても増援は来ない。
「外で襲撃を受けたと?」
「可能性の話だがな」
魔女姿の少女へベルナは狼男と合流した後、内部で闇ギルドの一派と戦闘初めていた。
「......だとしたら、私達が罠に嵌められているのかもしれませんね」
「だろうよ、すんなり行き過ぎてたしな......」
採掘場の広場にはへベルナ達にやられた人間が倒れている。
「いったん戻るか?」
「そうですねぇ......仲間と合流してから考えましょうか」
二人だけ戻っても場合によっては戦力にならない可能性がある、ここは数を集めるべきだと判断した。
「とりあえず最深部に行って――っ!?」
バァァンッ!
突然の爆発に狼男とへベルナは吹き飛ばされる。
「グアッ!」
「ザイルド!」
ザイルドと呼ばれた狼男は、壁に激突して意識を失ってしまう。
「一体何が......」
へベルナはザイルドに駆け寄り辺りを見回すと爆発の土煙の中から、一人歩いてくるが見えた。
「――」
即座に戦闘態勢を取る。
「えっウソ......」
土煙からは心底驚いた間抜けな声を出していた。
「大仕事をしようって奴らがさ、なんで今ので一人再起不能になってるわけ?君たちはさ、真面目に摘発する気ある?」
20代くらいだろうか、鋭い目つきにピンク色の髪、ピンク色のスーツにピンクのネクタイ、ピンクのワイシャツと......全体的にピンクな服装をしている。
「何者ですか?」
「うーん、暇つぶしと言えばいいかな」
「......」
へベルナは全身に魔力を流し、警戒を強める、実力で負けている気がする。しかしそれでも諦めるわけにはいかない。ザイルドを見捨てる訳にもいかないし、ここで逃せば被害が拡大するかもしれない。
「その点、君は面白そうだね、獣人君が簡単にリタイアして萎え萎えだったから、2倍遊んでもらおうかな.......『爆裂の鞭』」
男の両腕は長い赤色の鞭に変化する、しかしただの鞭ではない。
相手に隙を作らせない
「――『サンダーボルト』」
へベルナは杖の先から青い雷を男に向けて放つが――
「『爆裂の鞭』の衝撃には気を付けたほうがいい!」
――鞭は大きく振り落とすと、赤色の衝撃破が巻き起こる。
「――ッ」
衝撃破が雷に当たり、大きな爆発が視界を奪う。
その隙を相手はつく。
へベルナの目の前に突撃してきて、右腕の鞭でへベルナ身体を叩きつけようとするが
「――!」
「チッ」
咄嗟に杖を縦にして鞭の攻撃を防ぐ――
「フンッ」
その隙を突き左の鞭で叩きつけた。
「イッ!」
さらに追い打ちをかけるように鞭が襲い掛かる。
鞭の激痛に思わず杖を離しそうになるが――
「ッ『電撃障壁』」
自らの守りに雷の壁を張る。
「グッ」
鞭から自らの体に電撃が伝い思わず片膝をつく。
「『ダークレイ』」
へベルナはその隙を突き、『電撃障壁』を解いてすぐに闇の光線を撃つが、相手も地面に手をつき「『アイスウォール』」氷の壁が立ちはばかり『ダークレイ』を防ぐ。
「ふぅ、膠着状態といった所かな、まっ僕は本気だしてないけど」
壁を解きヘラヘラと笑う。
「でもそっちも同じかな、魔法使いの弱点の一つだよねぇ、仲間のいる洞窟で大がかりな魔法が使えないって――」
「『
「ガッ!?――」
一瞬にして男の足元より現れた黒い薔薇の棘に反応しきれず串刺しになる。
「なるほど......対策くらいしてるか......」
男の手足からは血落ちて、吐血をする。
「中々の魔法の実力でした、只者ではないですね......あなたには聞いておきたい事が山ほどあるので、殺しはしません」
へベルナは警戒しながら近づく、男は棘が突き刺さって浮いている。
「へぇ、聞きたい事、僕は外の事なんて何も知らないよ?」
「......あなた、仲間がいますね?」
別に根拠があるけではない、要はこんな大それた事を個人ではできないだろうと考えただけだ。
「当たり前だね、暇つぶしで捕まるとか馬鹿じゃねぇのとしか......」
「目的は何ですか、まさか本当に暇つぶしではないでしょう?」
「僕は末端なので、何も知りませーん」
これは困ったことになった、ザイルドを放置するわけにもいかず、この男も放置はできない、増援は恐らく難しい。
ドンドンドンッ
とてつもない足音が近づいてくる。
「――この足音は何ですか!?」
「いや、僕も知らないな、新手かな」
へベルナは再度警戒する、へベルナが歩いてきた方角、そこからとてつもない者が近づいてくる、さっきの戦闘のダメージもあるが、仕方ない、ここで引く訳には行かないのだ。
「――何処だァ!」
全身がオレンジ色の頭部からは2本の真っ赤なクリスタルが角のように反りあがり、額の中央に青い水晶玉が埋め込まれている。鋭い目と髪は燃えるように真っ赤な色。
「――っ」
「ほう、随分とすごいのが来たね」
危険だ。あまり人前では使いたくない、単騎での使用も危険だし、洞窟内での大規模魔法は危険、しかし対抗手段がそれしか考えられない。
「――我が肉体に流れる魔力よ――」
杖を両手で突き、目を閉じて集中する。
「詠唱魔法か、随分と危険な賭けだ」
男は他人事のように語る、詠唱魔法は基本大規模な破壊魔法で洞窟での使用は危険だ、そして何より。
「詠唱魔法を一人の時に使うとはね......」
彼の憂慮した所はそこだが、そんなのはへベルナだって考えていた。
それを考えても今すぐにどうにかしなければならない相手であると考えたのだ。
「大地に住まう精霊よ我が――」
「フレアァ!」
「きゃあああっ!」
しかし詠唱が完成する前に相手の攻撃により妨害されてしまう。
「魔法使いも大変だね......アレ?」
怪物はなぜかへベルナではなく、男を見る。
「よし決めた!お前を殺......ボコボコにしてやる」
「えっなんで僕――」
怪物の右拳の一撃に男は吹き飛ばされていく、壁に激突した衝撃で瓦礫が崩れていく。
「痛ったっ!、いきなり殴るとか礼儀がなってないね!?」
しかし平然としながら歩いてくる。
「なっなんで傷が......」
へベルナは地面に手を付きながら立ち上がる。
先ほどまで串刺しにしたはず手足の傷が完治していたのだ。
「それは僕は回復が得意だからさ、それよりも――」
怪物に目が移る。
「こっちが気になるかな、名前とか教えて貰える?」
「お前に名乗る名前はねぇ!」
「ふむ、だとさ?」
男はやれやれとへベルナを見る。
「まぁいいか、少し遊んであげる」
男は『爆裂の鞭』に両腕を変化させ、戦闘態勢を取るのだった。
■
「とりあえず、ザイルドを......」
へベルナは男と怪物が対峙している間に気絶しているザイルドの元に駆け寄る。
「ザイルド、しっかり!」
「――ガハッ!」
ザイルドは意識を回復し始める。
「逃げますよ!」
「はぁ!?何が何だか――」
意識がハッキリしないザイルドの手を無理やり引いて急ぎ引き返す。
「この事を早く伝えないと!ザイルド私をおんぶしてください!」
へベルナはザイルドにおんぶしてもらう、これはザイルドの方が速度が速いからである。
「任されたァ!」
こうして自分がどうにか出来る範疇を超えたと判断したへベルナはザイルドを連れて採掘場から出ていくのだった。
◆◇◆◇
「(最悪......)」
アキラもかなり困った状態になった、へベルナを守る為に向かったはずがへベルナに攻撃してしまったからだ。
「(仕方ねぇよな、あんな殺意向けられたらどんな温厚な奴でもあぁなるだろ?)」
そう心に言いつけて相手を見る。
ピンク髪の男は両手に鞭を持っているがただの鞭ではないのだろう。
「(こいつはへベルナの敵だったようだ、なら安心して戦える)」
しかしへベルナがいつの間にか消えているが、仕方ないだろう。アキラはこの男と戦う事でへベルナの逃走時間を稼ぐことにした。
「考え事かい、随分と余裕だね!」
赤色の鞭を思いきり叩きつけ、赤い衝撃破をアキラに向かって放つ。
「『フレア』」
フレアで迎え撃つが相殺され大きな爆発が巻き起こる。
「チッ煙が――」
「そぉら」
「しま――」
煙で目を取られている隙を取られ、右腕を鞭で巻き取られてしまう。
「『連鎖爆裂』」
巻きつかれた右腕の鞭が一斉に爆発する。
「グアァァアッ!」
右腕は鞭の爆発によって血まみれになり、思わず叫ぶ。
「まだまだ、次は――」
今度は左腕を巻きつける、しかし――
「オメェ......痛ぇじゃねぇかよぉ!!」
「しま――」
巻きつかれた左腕の鞭を掴み――
「おらぁ!」
壁にたたきつける。
「『フレア』」
腕から炎の玉をいくつも出し続ける。
「おいおい、どうしたよ、さすがにこれで死ぬっなんてないだろ?」
「――っハァ!」
フレアをかき消すほどの風圧を出して、猛攻を防ぎきる。
「流石に舐めプが過ぎたか......」
「回復が得意なんだろ?」
「あぁ、得意だ。君も中々の再生能力を持っているようだ」
アキラはふと右腕を見ると確かに先ほどの爆発のダメージが回復しているように見えた。
「流石に鞭だと遊びすぎかなぁ、でも洞窟であれはちょっと......」
男は一人で考え込む。
「おい、戦闘中に考え事か?」
「違うね、これは戦略を練ってるのさ、うん決めた」
ピンク男の両腕はピンク色の爪が鋭く伸びる。
「君相手に手加減は少し遊びすぎな気がするから――ネッ!」
「――ッ!」
咄嗟に両腕をクロスして防御するが、相手の爪はそんな両腕を容易く貫通する。
「僕のお気に入りの魔法『妖氷の爪』さ、中々だろ?」
「グッ......」
「ッ......」
どうにか踏ん張り相手の爪を抜けさせないようにさせる。
「『アイスランス』」
「――」
しかし腕を貫通して氷の刃が腹を貫く、腹は熱く冷たい、気持ちの悪い感覚に襲われる。
「ハァッ!」
「ガハッ!?」
思わず思いきり蹴り飛ばす。
「グッ」
アキラは片足を付きながら蹴り飛ばした方を見るが、男はやはりダメージを回復して、近づいてくる。
「僕の回復の方が速度は有利のようだね」
「はぁはぁ......」
どうするべきか、正直に言えば戦う理由はない、へベルナが逃げきれていれば戦う必要はないのだ。
「(だが、こいつがそう簡単に逃がしてくれるはずがない)」
「さて、もう一回行かせてもらおうかな!」
男は再度ピンク色の爪を伸ばしながら近づいてくる。
「『フレア』」
アキラは両腕を上げ周囲に炎の玉を大量に発生させ――
「焼き尽くせ!――」
一斉に放つ――
「(こんな密室で豪勢な事だ)」
相手は降り注ぐ炎を爪でかき消しながら近づいてくる。
「『氷結乱舞』」
爪を氷で纏うと、数々の炎の玉を次々と破壊していく。
「(近づいてくる......)」
激しい乱舞は土煙を舞わせて、竜巻を巻き起こし、視界を狂わせる。
「――」
ピンクの爪が近づいてくる――
「っ――」
アキラは右手でピンクの爪を自らの手の平に突き刺しながら、相手の右手を掴む。
「――」
隙は今しかない――
「死ねェ!!」
アキラの左拳は相手の左の爪とりも早く振り下ろされ――
「グアァ!」
顔面を殴り飛ばす――。
■
土煙から出てきた男はやはり回復をしていた。
「ハァハァ......」
「フゥ、少し熱くなってきたなぁ......」
男はネクタイを緩め、更なる戦闘態勢を取ろうとした時――奥からやってきたハトが近づいてきた。どうやら手紙を持ってきたようだ。
「......」
見るからに不機嫌になっていく。
「あぁ、全く......興ざめだ、不愉快だ......」
「......終わりか?」
「そうだ、君も早く外に行ったほうがいい......」
「どういう意味だ?」
「時機にわかるさ」
そういって男は奥への消えた、戦闘の疲れはあるがアキラも早く逃げなければならない。
「あまり時間をかける訳にもいかないな――」
「ひィッ何者――」
どうやら人が新たに来たようだ、これ以上長居はできない。
「じぁあな!」
「ヒエェ!」
外に出る際中に、何人か人と出くわすが無視である、正直相手から攻撃をされなければ興味はない。
「人が全然いねぇな......」
幸い外に人はいなかった、いや、何やら戦闘跡がいくつもあったが興味がない、アキラにとっての関心があるのは変身が解けて自分の正体がバレないようにすることだけ
一目散にこの場を去るのだった。
■
気が付けば夕暮れ時、森は既に薄暗くなっていた。
「ソルテシアの端は森が多い、そのおかげで俺は変身を解く隠れ場所があちこちにある」
森の奥までどうにか誰にも見つからないように警戒しながら変身を解く。
「......あぁ、やっぱりこの変身は解くと倦怠感に襲われるな......」
やはり迂闊には変身できない、まぁへベルナが俺のやらかした事を報告するだろうから、変身姿は完全にアウトだな。
仕方ない、人間姿で出来る限りの事を考えるしかないか。
「......く、眠い、夜の森の中で眠るとかさすがにやばい......」
ほふく前進しながら前に進むが睡魔が襲い掛かる。
「クソ......なんて扱いづらい能力......なんだ......」
変身時の強さは飛躍的だが、このデメリットはきつい、近くに隠れる場所がないとアウトじゃないか、やっぱり一番最初のあの騎士との戦闘は痛かった、アレがなければどうにかなったのかもしれないのに......。
「......」
意識が......遠くなっていく......。
あぁ、ベッドの上で眠りたい。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
宝暦999年
アルカディア帝国首都ソルテシア近郊にて
魔石採掘場にて常態的に行われていた闇ギルド等違法盗掘行為の一斉摘発が決行された。
この作戦に当たり地元のギルド4つが作戦に参加し、
総勢約200名の冒険者の協力もあり――
≪省略≫
――結果として計101名の意識不明者を出して、首謀者を捕まえることはできず......
この作戦は明らかな失敗であり責任者には相応の処分が下るだろう。
採掘場より逃走を図り、捕まらずにいる者も少なくとも5名いる、早急に捕らえ、
意識不明者の回復の手がかりを掴むべきである。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
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