第6話 殺人ゲームの発案
「ってことは、やっぱりお前が考えてるゲームって誰かを殺すってことか?」
呆然としていると悪七はいつもの微笑を浮かべて俺にそっと囁いた。
「悪かったよ。別に狩ってくれてもいいから。証拠は残らないんだし。そう、俺達二人ならね」
俺達二人ならという言葉が耳について残った。悪七が危険なことをやらかすのは確実だ。そして、その証拠を隠滅する方法も考えてあるのだと。頭がぐらぐらする思いがして呼び止めた。
「これから昼飯行かないか? もう少しぐらい詳しく聞かせてくれてもいいだろ?」
軽い返事で承諾されて、内心むかついた。悪七は肝心なことは何も言わない。近くのファーストフード店でチキンナゲットだけを注文してさっそく、がっついた。そうすれば残念な凹んだ腹に腹筋がつくような気がした。
窓際の席に陣取って悪七は、通りを行き交う人を眺めて俺とは視線を合わさない。昼食らしい昼食も取る気はないらしい。こうなると俺から切り出すしかない。
「ゲームの参加者はお前が集める。そこまではいい。で、俺は必要なときにだけ動けばいいって言ってたけど、俺がする役目は何だ。狩りなら自分で獲物を選ぶって言ったよな」
アイスティーにミルクを入れ、悪七は感情を表に出さず声を潜めた。
「じゃあ聞くけど。狩りって何? 他人の人格を消すこと?」
「カムが付帯するのは『狂気』だ。触れたら最後ってだけだ」
俺が忌々しく説明していても悪七の含み笑いが、余計にことを荒立てる。
「確かに特定の人間には俺は良心なんてものがないかもしれないけど、そんなの誰だって一回くらいは考えたことあるだろ」
「それが積み重なると、味が分からなくなってくるよ。結局は特定の人間もそうじゃない赤の他人だって区別がつかなくなる」
声を荒げかねなかったが、すぐ近くの後ろの席に同い年ぐらいの女が一人で席についたので、声を押し殺した。悪七はアイスティーに手をつけず脇へのけた。
「リョウのしてることは殺人よりも醜悪なんじゃないかな? ある意味で死よりもつらい仕打ちだと俺は思うけど」
だから何だって言うんだ。俺はそれだけのことをされたんだから。
「お前が言いたいのは、俺に手を汚せってことかよ」
吐き捨てるように言い放つと、悪七はまんざらでもない顔をして、ほのめかした。
「ま、結局はそういうことになるかな。これがどこまで犯罪性があるか俺には分からないんだ」
いや、十分すぎるぐらいあるだろう。悪七の頭の中は一体どうなっているんだ。
「法律なんて人間が考えたルールだからね。俺が生まれたときにはすでに法律があった。俺が原始時代に生きていたら法律はないわけだから。ま、所詮、心は裁けないよ」
「そういう問題じゃないだろ」
俺は戦きながら、こういう冗談を言う奴だったか? と幻滅しかかっていたその矢先、後ろの席の女が席を立った。背に白い影が見えた気がした。慌てて目で追うと、彼女の肩には紛れもなく、俺達と同じようなミカエリが居座っていた。
そのことに悪七も気づいて、目を見張った。話は聞かれなかっただろうかということより、ピンクの風船のような姿のミカエリに俺達は釘づけになっていた。最初に声をかけようと言い出したのは悪七だった。
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