第94話:マジックポーチ2
「やったー、アーニャお姉ちゃんと完全にお揃いだー」
マジックポーチをかかげて、ジルはルンルン気分でスキップをしていた。
「エリス、もう少しジルの教育をしっかりしなさい。あの子、けっこう天然が入ってるわよ」
当然のことだろう。どう考えてもジルがマジックポーチにしたというのに、サプライズされたかのように喜んでいるのである。
「実はアーニャさんが手を貸していた、というオチはないんですか?」
「あるわけないじゃないの。クリスタルもマジックポーチも、ジルが勝手に作ったの。なんで作った本人が気づいてないのか、サッパリわからないわ」
「でも、実はルーナちゃんが凄腕錬金術師だった可能性が……」
「ないです。昨日、出来上がりを確認した時には、普通のポーチでしたから。唐突に大事件に巻き込まれたくらいの衝撃がありますよ」
実際に巻き込まれているが、誰も突っ込まない。
「ルーナお姉ちゃん、どうやってマジックポーチを作ったの?」
「えーっとね、私はマジックポーチを作ってないよ。普通にポーチを作っただけなの。ジルくんが何かしたんじゃないかな」
「ううん、僕は何もしてないよ。アーニャお姉ちゃんのマジックポーチを参考にして、革をなめしただけだもん」
チンプンカンプンなジルの言葉を聞いて、目を閉じたアーニャは、一週間前の記憶を呼び戻す。
魔封狼の革をなめしていたジルは、妙に時間をかけていた。何度もジャラジャラと魔石をあさり、わざわざ粉末にして、革をなめしていた。魔石から魔力を抽出する程度なら、粉末にする必要はない。それなのに、粉末にしていたのである。
(どうしよう、頭が痛くなってきたわ。まさかとは思うけど、マジックポーチに使用された革を完全に再現することを、なめす行為だと勘違いしたのかしら。そんなわけないわよね、私でもサッパリわからないのに……ハハハ。やってるわね)
普通に考えてはいけないと思ったとき、すべての現象が一つに繋がった。絶対に犯人はあんたじゃないのよー! と、誰もがわかりきっていることを、大声で叫びたくなるくらいには、ヤキモキしている。
「ジル、さっきエリスのポーチにマナを収束させてたわよね」
「うん。革をなめしたのにね、うまく魔力が流れてなかったの」
「やってんじゃないのよ。マジックポーチに変化した原因は、絶対にそれよ」
「えーっ! 僕、革をなめしただけなのに?」
「なめすの認識が違うわね。革にマナをなじませる行為が、なめす作業になるわ。私の記憶が確かなら、魔石の粉末を使ってたと思うんだけど、あれはどうしたの?」
「アーニャお姉ちゃんのマジックポーチを参考にしたときにね、魔封狼の革の内側に模様が描いてあったの。だから、なめすために、それをマネしたんだよ」
「やってんじゃないのよ! マジックポーチの加工作業に決まってるわ」
「でも、面倒なだけで難しくなかったよ。何回かに分けて魔力を馴染ませて、最後にマナで焦げ目を入れるような感じで、革の奥にギュッと流し込むの。お菓子作りの工程みたいだよね」
「やってんじゃないのよッ!! あんた、知らないうちに超一流ねッ!!」
突っ込み疲れたアーニャは、ゼエゼエと息を切らす。
今日は朝から初めて街の防衛に参加し、エリスとルーナに隠し事がバレ、クリスタルとマジックポーチが作られた。良い思い出は、新作オムライスだけ。こんなに濃い一日を過ごしたのは初めてで、頭が追い付かない。
「ルーナ、後のことは任せるわ。なんかもう、考えるのが面倒くさいもの」
その結果、丸投げするのであった。
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