第35話 祭りの始まり
ジン風祭。年に二回、精霊に感謝を捧げるその祭はサムーラでも屈指の催しであり、近隣諸国からも少なくない人や商人がやって来る。自然、自由都市デルルガは人によってごった返しとなる。
「二人とも私から離れないでね」
「は、はい」
「……(コクン)」
歩くのもままらない人混みではあるが、カレン達の周囲にいる護衛達がそれとなく三人の空間を作ってくれているので、非力なカレンでも何とか人混みを塗って前へ進めていた。
(やっぱり素直に用意してもらった席に着いていれば良かったかしら?)
カレン達には貴族専用の席を準備するという話もあったのだが、祭りの熱気を感じてみたかった三人はその話を断ってしまった。
(ロラン様がいてくださったら良かったのに。どこにいらっしゃるのかしら?)
ジン風祭は王族の剣舞で始まって剣舞で終わる。そして今年の祭りで剣舞を担当するのはロビン殿下だ。三人は今、殿下の剣舞を見学しようと立ち見席にいた。
「あっ、ほら。ロビン殿下よ」
絢爛豪華な舞台の上に頭にターバンを巻いた褐色肌の王子が出てきた。その手には一本の剣が握られている。
「もう始まりそうだけど、プリラそこから見える?」
必死にぴょんぴょん飛び跳ねているプリラ。だがどんなにプリラが飛び跳ねても正面にいる大人を超える高さには届かない。
「……(ふるふる)」
「困ったわ。今のプリラを私が持ち上げられるかしら?」
「(グッ)」
「え? 大丈夫って言いたいの?」
親指を立てたプリラがコクリと頷く。
「それなら持ち上げてみるわよ。……あら? 軽い。と言うか……」
(重さがないわ。これってもしかしなくても精霊の力……よね? こんなことも出来るのね)
カレンが驚いていると、プリラは自分を羨ましそうに見上げるアランに手を伸ばした。
「え? ぼ、僕は無理ですよ。大丈夫。殿下の剣舞は前にも見たことありますから」
「遠慮しないで。アランくんも見たいでしょ」
プリラを片手で抱っこしたカレンは、もう一方の腕でアランも持ち上げた。
「わっ!? す、凄い! カレンさんって、見かけよりも力持ちなんですね」
精霊の力が働いていることに気づいてないアランは細腕のカレンが見せた怪力に驚愕する。
「えーと、まぁ、そんな感じかな? あっ、ほら、二人とも。丁度ロビン殿下の剣舞が始まるわよ。……あら?」
「どうかしましたか?」
「え? ううん。何でもないわ」
(ロビン殿下の雰囲気がまた違う)
いつもの飄々とした雰囲気ではなく、以前に感じた影のある感じだ。
(剣舞の最中だから? ううん、役とかじゃなくてもっとこう……なんだろう?)
ロビンの舞は繊細でありながらも炎のように激しく、剣について何も知らないカレンでさえも魅入ってしまう何かがあった。
剣舞を眺めていたプリラがポツリと呟く。
「……ロラン」
「うん。……へ? ロラン様が何処かにいらっしゃるの?」
「ロランの剣にそっくり」
「デルルウガの剣はこの国で最強、ロラン兄様はロビン殿下にも時折剣を教えていますからね」
「そうなんだ。アラン君は物知りなのね」
「い、いえ、僕はサムーラの人間ですから、これくらいは知っていて当然です」
「ふーん。……でもプリラはよくロラン様の剣に似てるって分かったわね」
「(ギクッ)……た、たまたま」
「そうなの? アラン君はどう思う? 偶々分かっちゃうものなの?」
「へ? ぼ、僕は知りません! 何も知りませんよ?」
自分の腕の中で慌てふためく少年少女。カレンはなんとなく事情を察することが出来た気がした。
(ここ最近、随分ヤンチャになったと思ったら。……まぁ、今は気付かないふりをしてあげましょうか)
「ほら二人とも、ちゃんと見ておかないと殿下の剣舞が終わっちゃうわよ」
「そ、そうですね、すみません」
「(コクコク)」
そうしてカレン達三人は人混みに混じってロビン殿下の剣舞を眺めた。
こうしてジン風際は幕を開けたのだった。
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