第34話 姉妹の会話

「それでね。ロラン様がね、式の日取りはいつにしようかって。ねぇ、ねぇ。いつがいいかな?」


 姉に揺さぶられてプリラの頭が左右にカクカクと揺れる。


 ロランとの正式な婚約が決まったその夜。カレンはプリラの部屋を訪れて、ベッドの上で延々と惚気話しを聞かせていた。


「あっ、ごめんなさい。私ったらさっきから同じことばかり、プリラも聞いててつまらないわよね?」

「……(フルフル)」

「そう? それならいいけど。……ねぇ、プリラは国に帰りたいと思う?」


(お父様が本気で私達のことを思ってくださっているなら、ラルド王子とプリラの婚約が成ることもないし、プリラは好きな国での生活を選ぶことができるわ)


 初めこそ不遇の扱いを受けていた妹ではあったが、聖女と判明してからは何不自由のない生活を送っていた。知らない内に妹が帰郷の念にかられていはしないかと、カレンはずっと気掛かりだったのだ。


 プリラがそんなカレンの服の袖をそっと掴んだ。


「……お姉様と一緒がいい」

「プリラ……そうね。私達はずっと一緒よ。この国は好き?」


 ロランの求婚を受けた以上、カレンに帰るという選択肢はない。そんなカレンと一緒にいると言うことは、ダルル王国よりもサムーラを選んだのと同義だった。


「(コクン)。……楽しい」

「それならいいのよ。それなら、ね。二人でこの国を私達の新しい故郷にしましょう」


 そう言って妹をギュッと抱きしめるカレン。姉妹は暫くの間互いの温もりだけを感じていた。


「……あっ、そう言えば。最近友達ができたんですって?」

「(ドキッ!?)」

「アラン君って言ったかしら? どうしてお姉ちゃんに教えてくれなかったの?」

「(オロオロ)」

「プリラ?」


(この慌てよう。何か話しにくい理由でもあるのかしら?)


「……分かった」

「(ギクリ!?)」

「プリラ、ひょっとしてその男のこと……」

「(ドキドキ)」

「好きなんでしょう?」

「!? ……??」


 不思議そうに小首を傾げるプリラを前に、カレンはやっぱりねとばかりに頷いた。


「それでお姉ちゃんに言い出しにくかったのね」

「……(フルフル)」

「ふふ。照れちゃて」


(プリラもそんなことを気にする年になったのね)


 嬉しいような寂しいような気持ちに促されて、カレンは妹の頭を撫でた。


「ジン風祭、その男の子も誘って一緒に回りましょう」

「……(コクン)」

「決まりね。もちろんアラン君が良いと言えばだけど、当日はロラン様を入れて四人で見て回りましょう。ただロラン様は用事があるらしくて、途中何度か抜けることになるそうなのよね」


(どんな用事か教えてもらえなかったわ。あまりしつこく聞くのも変な話だし。……いつかは教えてもらえるのかしら?)


 必要がなければ無口なロランだが、仕事に関しては一層口が重い。だがカレンは夫婦になる以上、これからは互いのことを出来る限り共有したいと考えていた。


「お祭り、楽しみね」

「……(コクン)」


 そうして年に二回しかない、盛大な祭りの日がやってきた。

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