第31話 突然
それは突然のことだった。
「お父様が?」
「はい。現在ロラン様が対応なさっております」
いつものようにロラン邸で花嫁修行を行っていたカレンは思いもよらぬその報告に手を止めた。見ればメイド長であるアシヤも珍しく少しだけ困ったような表情を浮かべていた。
「その、お父様はどのようなご用件で?」
「それは分かりません。カレン様に会わせろとの一点張りで。ただロラン様からは会いたくなければ会わなくて良いと言付かっております」
ロランの気遣いに一瞬甘えようかとも思ったカレンであったが、大公である父を門前払いにしたとあってはロランのみならず、ダルル王国の同盟国であるサムーラ全体に迷惑をかけてしまうかもしれない。流石にそれはカレンの望むところではなかった。だからこそカレンはすぐに覚悟を決めた。
「分かりました。お父様にお会いします」
「……よろしいのですか?」
「はい。ただ、プリラには父が来ていることは秘密にしてください。あの子は今どうしていますか?」
「最近できた友達と中庭で遊んでおります」
「プリラに友達が? その方はロラン様の友人なの?」
「ロラン様の従兄弟ですね。年はプリラ様と同じく十二歳です」
「まぁ、あの子に同い年の友達が? それは素晴らしいことだわ」
気狂いと呼ばれ、自分以外とは遊ぶ相手がいなかった妹に同い年の友人ができたのだ。カレンは父親の突然の訪問など一瞬頭から消し飛ぶくらいに喜んだ。ただーー
「でも、どうしてプリラはお友達ができたことを教えてくれなかったのかしら?」
「それは……存じません」
「そう」
あの年頃の成長は早い。姉に秘密の一つや二つ持っていてもおかしくはないが、友達ができたことくらいは話して欲しかった。
(きっとこうやって自然と姉離れしていくのね。嬉しい反面、ちょっと寂しいわ)
「後でその友達に会うことはできますか?」
「勿論です。アラン様も挨拶したいと仰っていましたから」
(プリラと同い年なのにしっかりした子なのね。……あら? でも挨拶したいと思っていたのにどうして来ないのかしら? 誰かに止められているわけでもないでしょうに)
疑問に思ったが、今はそれどころではないとカレンは頭を切り替えた。
「それではアシヤ、申し訳ないですがプリラがお父様と鉢合わせしないように見ていてもらえますか?」
「畏まりました。お部屋までのご案内は」
「大丈夫。いつもの部屋よね?」
「はい。それでは私はこれで。あ、それとカレン様」
「何かしら?」
「我々デルルウガの人間は皆、カレン様とプリラ様の味方でございます。そのことをお忘れなきよう」
「アシヤ……ありがとう」
一礼してメイド長は部屋を出ていった。
「お父様、今になってやって来るなんて……何をお考えなのかしら」
聖女であるプリラを連れ戻しに来たのか、それともカレンも含めた両方なのか。まさかとは思うが今更ラルド王子の婚約者に戻れとは言い出さないだろうか。様々な可能性が脳裏を駆け巡っている内に、カレンは父親がいる部屋へと辿り着いた。
(とにかく会って話さなきゃ。大丈夫。たとえ連れ戻しに来たんだとしても、ちゃんと話せばお父様だってきっと分かってくださるわ)
自分達姉妹はこの国を離れる気はない。そう決意してカレンが部屋をノックしようとした時ーー
「だから言っているだろうが! 貴様ごときでは話にならん! さっさと娘を出さんか!!」
ドアの向こうから父親の怒声が響いてきた。
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