第30話 剣術の稽古

「ロランの……従兄弟?」

「そうです。ここにはロラン兄様に呼ばれて来ました。剣を教えてもらう約束なんですけど、ひょっとして君も?」

「……(コクン)」

「やっぱり! でも凄いですね、ロラン兄様は中々人に剣を教えないので有名なのに。えっと君は……あ、すみません。お名前を教えてもらってもいいですか?」

「……プリラ」

「プリラさんですか。ん? プリラ? って、ひょっとして聖女様ですか!?」

「……(ジー)」 


 妖精のように美しい少女に見つめられ、好奇心に輝いていたアランの視線が宙を彷徨う。


「えっと、その、あっ!? そ、それじゃあプリラさんの周りで光っているのは精霊なんですか? 凄い。ここまで実体化した精霊を初めてみました」


 アランが無邪気に手を伸ばせば、精霊は威嚇するように何度も瞬いた。


「……友達」

「え?」

「みんな、友達」

「ひょっとして精霊のことを言ってるんですか?」

「……(コクン)」

「いいなぁ。僕も精霊と友達になりたいです」 


 心から羨ましそうにそう言って、アランは微笑んだ。


「……(ジー)」

「あっ、すみません。変なこと言って。僕なんかが精霊と友達にだなんて、なれるわけないですよね」

「……(ジー)」

「あ、あの? プリラさん?」


 少年と少女が向き合っているそこに、長髪の男がやって来た。


「ロラン兄様」

「……ロラン」


 パッと顔を輝かせて男に駆け寄る二人。そんな少年少女をロランはジッと見下ろすと、


「仲良くな」


 とだけ言って二人に竹刀を手渡した。


「はい。でも、あの、プリラさんは聖女ですよね? 剣を学ぶ必要はないのでは」

「希望だ」

「本人のですか? でも危ないですよ。兄様の剣術は実戦向けなんですから、剣を教えるだけなら他の人でいいと思います」

「プリラ、見せてやれ」


 ロランの言葉に反応してプリラが竹刀を振る。ヒュッと空気が裂ける音がして、アランの顔色が変わった。


「兄様、プリラさんはいつから剣術を習ってるんですか?」

「まだ初めて一月と経っていない。うかうかしていると追い抜かれるぞ」

「(エッヘン)」


 腰に手を当ててどうだとばかりに胸を張るプリラ。


「僕は剣術はあまり好きではありませんので、別に抜かれても構いません」

「プリラ、お前の勝ちだ」

「(エッヘン)」

「い、いえ。別に勝ち負けではないと思うのですが」

「(エッヘン)」

「……分かりました。それでは僕も」


 アランがそこで竹刀を振るう。流麗でありながら力強いその動きに今度はプリラが目を見開く番だ。


「プ、プリラさんは確かに才能があると思いますけど、才能だけで勝てるほど剣の道は甘くないですから」 

「……(ム~)」


 頰を膨らませたプリラはアランの動きに負けじと竹刀を振るう。それを見たアランもまた、プリラに対抗するように素振りを始めた。


「では今日の稽古を始める……が、その前にアラン」

「はい? 何でしょうか兄様」

「稽古のことはカレンの姉には内緒だ。いいな?」

「え? ど、どうしてですか?」

「いいな?」

「(シー)」

「わ、分かりました」


 そうして今度こそロランによる剣術稽古が始まるのだった。

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