第28話 ロビン王子

「何故ここにいる?」


 現れた王子にロランが鋭い瞳を向ける。


(ロラン様、どうしたのかしら?)


 普段であれば他人に対して屋敷にいる時とは別人かとも思える社交性を発揮するロランが、よりにもよって王子を相手に地でいっていることがカレンには意外だった。


「そう怖い顔をするでない。お前が中々婚約者を見せに来ないから、我の方から来てやったのではないか」

「お前はそうやって……いや、いい」


 ロランは腕を組むと、もう話すことはないとばかりに目を瞑った。その眉間にはわかりやすい皺が刻まれていた。


「やれやれ。相変わらず見かけによらず短気な奴だ。こんな男が婚約者では大変ではないか、カレンよ」

「そんなことはありません、ロビン王子。ロラン様は素晴らしいお方です。前の婚約者とは比べ物になりません」

「まぁ、お主の前の婚約者はかなりアレだったからな。あの男にお主は惜しいと常々思っていたところだ」


(陛下、今日は機嫌の良い日なのね)


 ロビン王子とはラルドの婚約者であったときにダルル王国で何度か会ったことがある。いつも陽気なロビン王子ではあるが時折別人のように影を纏うことがあることにカレンだけが気付いていた。


「む、どうしたカレンよ?」

「いえ、なんでもありません」

「そうか? また俺が影でも纏っているのかと思ったぞ」

「陛下、その話は……」


 ダルル王国にいた頃、あまりに頻繁にロビンの雰囲気が変わるものだから、ロビンの体調が悪いのかと思って聞いたことがあるのだ。その時、正直に影を纏った時があると言ったせいで今でもこうしてからかわれるカレンであった。


「ちなみにどうだ? 今日の我は? この美しい顔のどこかに影は見えるか?」

「いいえ。今日の陛下に一片の曇りもありません」


 曇りがなさすぎて、もうちょっとテンションを落としてほしい。とは言えないカレンであった。


「であろう、であろう。聞いたかロラン? 曇りがないとよ」

「…………」


 ロランは瞑目したまま、王子の言葉を無視する。


「むぅ、相変わらず何とつまらん奴だ。むっ?」

「……(ジー)」

「ほう、このちびっ子いのが噂の聖女か。ラルドの阿呆に婚約者にされそうなところを逃げてきたらしいな。どうだ? 我がもらってやろうか?」

「(ササッ)」


 素早く姉の背後へと逃げるプリラ。


「陛下。そのようなご冗談は」

「別に冗談ではないがな。聖女という点を除いてもその娘は将来もの凄い美女になるだろう。今のうちに唾をつけておくのも悪くない」

「……(ベー)」

「こら、プリラ」

「ハッハッハ。良いではないか、愛らしいぞ。そうだ。今度のジン風祭、お主らには我の剣舞を近くで見る権利をやろう」

「剣舞ですか?」

「なんだ知らんのか? 祭りでは精霊への感謝を捧げる舞を代々王族が行うのだ。サムーラの男はこの国で二番目の剣士、精霊もきっと喜ぶであろう」

「二番目」


(ということは一番はやっぱり……)


「そうだ。一番はそこでムッとしている無愛想男だ。ほら、ロラン。いつまでも怒ってないで我に似合う服の一つでも見繕ってみろ」


 ロランの肩に気安げに腕を回すロビン。カレンはロランが何か無礼を働くのではとハラハラした面持ちで見ていたが、意外にもロランは言われるまま大人しくロビンに合いそうな服を探し始めた。


(何故かしら? 肌の色も髪型も何もかも違うのに、あの二人、こうして見ているとまるでーー)


 クイクイ、とスカートを引かれるカレン。


「ん? どうしたのプリラ」

「……これ」


 プリラが手に持っているのは赤いワンピースだった。ただサイズ的にどう見てもプリラのものではなかった。


「お姉ちゃんに選んでくれたんだ?」

「……(コクン)」

「ふふ、ありがとう。それじゃあ私もプリラに選んであげる。ん~。これなんて可愛くないかな?」

「(プイ)。……(グイ)」

「え~? 絶対プリラにはスカートの方が似合うわよ」


 男と女に別れた四人はしばらくの間、それぞれのパートナーと服選びを楽しんだ。

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