第25話 司祭との会話
「アリアを教会に預ける……ですか?」
「はい。我々教会には多くの聖女様と関わってきた経験があります。中には自らの力に振り回されて日常生活もままならないお方もいました。その点、プリラ様は素晴らしい。精霊と完全に調和を保っておられる。ですがプリラ様はまだお若い。今は良くてもこれからどうなるか分かりません。ですので我々がーー」
「お断りします」
「……カレン殿、プリラ様が力の制御を誤れば貴方も危ないのですぞ」
「そんなの関係ありません。プリラは国を捨てて私についてきてくれました。私がプリラと離れることはありません」
「なるほど。カレン様の意思はよくわかりました。時にこの機会にカレン様のご両親のことについてお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「両親……のことについてですか?」
あまりに唐突な話の転換にカレンは司祭の意図が読めず、ただ困惑した。
「はい。カレン様の父君イルマルド大公は昔は洗練潔白な人物としてそれはそれは民衆の支持の厚い立派な人物でしたが、カレン様と聖女様の実の母親であるミーレユ様を亡くされ、現在のマーラ様と再婚なされてからは人が変わったような政策ばかりを行っておいでだ。このことについてどう思われますか?」
「どう、と言われましても。……確かにそう言った話はよく聞きますが、私は父の仕事に関われる立場にありませんでしたから」
厳しく躾けられはしたものの、カレンとイルマルド大公の間には親子らしい会話など殆どなかった。過去の父と現在の父がどう違うのか、それはカレンには知りようのないことだった。
「なるほど。ちなみに母君との仲はよろしいのですか?」
「母は……あまり私達に興味を持ってませんでしたから」
「それはプリラ様が聖女様と判明した後も?」
「いえ、それは……違います」
プリラが聖女と分かった途端マーラは人が変わったようにプリラを可愛がりだした。あんな笑みを見せる母は初めてで、妹に優しくなってくれて嬉しい以前にちょっと不気味に感じたのをカレンはよく覚えている。
「なるほど。ふむ。なるほど」
「あの……この質問にはどのような意味があるのでしょうか?」
「そうですな。簡単に説明しますと、とあるところにあまり頭のよくない、はっきり言えば無能な御仁がおりました」
「はい?」
またも唐突な話の切り替えに、カレンはからかわれているのではと疑い出した。
「ですがその御仁は奴隷の入手を始めとした違法ギリギリ、または明らかに違法な行為まで実にうまく行ったのです。このことについてどう思われますか?」
「……実は無能ではなかったということですか?」
「なるほど。確かにそれは十二分にあり得る話ですね。無能と思っていた御仁が能力以上のパフォーマンスを発揮した場合、そもそもその人物は本当に無能だったのか? 脳ある鷹は爪を隠す。流石はカレン殿、聖女様の姉君は伊達ではありませんな」
「はぁ、その、ありがとうございます?」
「私のような凡愚はこう考えたのですよ。無能な者が能力以上のパフォーマンスを見せる時、必ず影に有能な者の手引きがあるとね」
「それは……あり得る話だと思います」
当主よりも部下の方が優秀というのは特別珍しい話ではない。そして部下の功績が全て上司の称賛に変わることも。
「そうでしょう。そうでしょう」
「あの、お話は今ので?」
「はい。終わりです。ご静聴、ありがとうござました」
カレンとしては結局ププド司祭が何を言いたいのか理解できずじまいだったが、司祭がそれ以上話すつもりがないと分かって追求することはしなかった。
「では、私はこれで」
「ああ、お待ちください。最後に一つだけ。もしもプリラ様が自分から教会に来ると仰られた時は、貴方はどうされるおつもりですか?」
「その時は……あの子の意思に任せます」
それだけ言ってカレンはその場を早足で去った。
(司祭様、聖女であるプリラを手元に置きたいのかしら?)
嫌な予感を覚えながらもカレンが貴賓室に戻るとーー
「……(クイクイ)」
「……(パクリ)」
何故かロイドの膝の上に乗ったプリラが婚約者の口に無言でパフェを運んでいた。それをロイドが生真面目な顔で黙々と食べるものだから、それを見たカレンは小さく吹き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます