第24話 提案

「あの司祭様。少しよろしいでしょうか」

「おや、カレン殿。如何されましたかな?」


 教会から出ていこうとするププド司祭をカレンは危ういところで引き留めた。


「お忙しいところ申し訳ありません。少々お伺いしたいことがありまして」

「ふむ。ご相談でしたら立ち話もなんですし、部屋に戻りましょうか?」

「いえ。そこまで深刻なものではないので。ただ、ここのところ精霊からの干渉が昔に比べて増えてきたので、司祭様はそういった現象に何か心当たりはないかと思いまして」

「ああ、なるほど。そういうことですか」

「何かご存知なのですか?」

「精霊からの干渉というのはそこまで珍しいことではないのですよ。ただ普通はそれが小さな範囲に留まるので殆どの人はそれに気づかないだけ。もしくは気付いても運がいい悪いで認識してしまうのです」


 精霊は星の意志そのもの。そんな言葉をカレンは思い出す。この星の至る所にいるのならば気付かぬうちに影響を受けても確かにおかしくはないだろう。


「ですが私の場合は運というにはいささか干渉が強すぎる気が、それに昔は精霊にここまで干渉されることはありませんでした」

「それは当然ですよ。誰だって運の良い時期や悪い時期というものがあるでしょう。精霊は本来気まぐれなもの。いえ、そのあまりの大きさに我々のことを個体として認識しにくいのでしょう。人だって虫などの小さな生物を個体として認識するのは至難でしょう?」

「それは……そうですけど」


 だからといって虫と一緒にされることにカレンはちょっとだけ抵抗感を覚えた。


「ただ、精霊は時折一方的な愛を人に向けることがあります。精霊に愛された人は気力に満ち、強運となり、豊かな人生を送ります。まぁ途中で精霊に見放されなければの話ですがね。兎にも角にも精霊は人を愛するのです。時に人よりもずっと深く」

「では私の今の状況も……」

「はい。精霊が貴方を好いているが故に起こることです。干渉が他の人よりも強いのは聖女様という『眼』を通して、精霊が貴方を個体として強く認識しているが故に起こる現象なのでしょうね。案外、聖女様の感情に同調して貴方のことをお姉さんと思っているのかもしれませんよ。いやはや羨ましい限りですな」


 本心から羨ましそうな笑みを見せるププド司祭。


「それではどうやってこの現象を止めれば」

「私たちには無理です。術で精霊に働きかけることはできても、それは一瞬の物理現象を起こすために過ぎません。精霊と語らうことができるのはあくまでも聖女様のみに与えられた特権なのです」


(それならプリラに止めてもらえば……)


 そう思うカレンであったが、時折精霊と言い合う妹を思い出して却下した。本人が友達と表現するように、精霊との関係は一方的な主従関係とは違うのだろう。


「どうしても身の回りで起こる現象を止めたいのであれば……どうでしょうか、聖女様を我々に預けてみませんか?」

「え?」


 思いがけないププド司祭の提案にカレンは一瞬何を言われたのか分からなかった。

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