第23話 火花

「ほう。やはりウインディーネ様も祭られたいと。そう思われているのですね?」

「……(こくん)」


 一心不乱にパフェを頬張るプリラの正面でププド司祭がせっせとメモを取っている。


「それではノーム様はどうなのでしょうか?」

「……?」

「ああ、申し訳ありません。おそらく大地の中にもお友達がいらっしゃると思うのですが、そのお方のご意見をお伺いしてもらってもよろしいでしょうか」


 虚空を見つめるプリラ。程なくしてその視線がププド司祭へと降りてくる。


「どっちでも良いって」

「なるほど。……いや、しかしノーム様だけ外すことはできませんな。あの、ちなみに一緒に祀ることは許されますでしょうか?」

「?」

「つまりですな。二大祭は年に二回。年の始まりと長き夜の始まりに行われます。祭りは国をあげて盛大に行われますが、規模が大きいのでこれを後二回追加して行うことは……その、恥ずかしい話ですが難しいのです。ですのでもしも精霊様がお許しいただけるのでしたら、現在行われてる祭りにて祀らせていただきたいと考えております」


 キョトンとした顔で目を瞬くプリラ。彼女は会話の最中でも動かし続けていたスプーンを止めると、次にカレンを見た。


「えっとつまりね。プリラのお友達のためにパーティーをやりたいけど準備が大変だから、二人の友達を一緒に一回のパーティーでお祝いしてもいいかって聞いてるの」

「……いいの? …………いいって言ってる」

「おお。ありがとうございます。これはこうしてはおられませんな。ちなみに一月後に行われる祭りは風の精霊ジン様を祀るものですが、ウインディーネ様とノーム様、どちらの精霊様を一緒に祀るべきでしょうか?」


 ププド司祭の質問にプリラは今までで一番難しそうな顔をした。


(どうしたのかしら? あっ、精霊の名前を出されたからね。でも本当に不思議、どうして名前を覚えようとしないのかしら?)


 首を傾げながらもカレンは妹に司祭の意図を伝える。


「プリラ、風の中にいるお友達と一緒にお祝いされたいのは誰か聞いてくれる?」

「……誰がいいの?」


 程なくしてプリラの視線が下を向いた。


「土の中の子なのね?」

「……(コクン)」

「なるほど。流石は聖女様。ありがとうございます。これで我らの祈りもより精霊様に届きやすくなることでしょう。しかしこれは……ううむ。お呼びしておいて大変恐縮なのですが、席をはずしてもよろしいですかな? いや、なに、早速祭りについて話を進めたいと思うのですよ。何せもうさほど時間がありませんからな」

「もちろんです。良い祭りになるよう、互いに頑張りましょう」


 ロランの言葉にププド司祭は頭を下げる。


「そうですな。何せ今年は聖女様がいらっしゃる。なんとしてでも盛大なものにせねばなりません。それでは聖女様、そしてカレン様。私はこれで、何かあれば声かけれていただければ教会の者が対応いたしますので」


 そうしてププド司祭は部屋を出て行った。


(今追いかければ精霊のことについてこっそり聞けるかしら?)


「ロラン様、少し司祭様にお伺いしたいことを思い出したので、席を外してもよろしいでしょうか? ……ありがとうございます」


 無言で頷くロランに礼を言って席を立つカレン。そのスカートをプリラが引っ張った。


「どうしたの?」

「……(ジー)」


 妹の視線の先にはカレンの食べかけのパフェ。フルーツパフェタルトなるものは確かに美味しいが少食なカレンには量が少しばかり多かった。


「欲しいの?」

「……(コクン)」

「私はもう十分食べたから、食べちゃっていいわよ」

「何?」

「え!? ロ、ロラン様?」


 何事かとカレンが視線を向ければ、ロランは逃げるようにサッと目を逸らした。よく見てみれば、ロランの前に出されていたスイーツが綺麗になくなっていた。


(プリラもかなりの勢いで食べていたのにそれよりも早いなんて、男の人ってやっぱり凄いのね。……え? もしかして)


「あの、ロラン様も欲しいのですか?」


 と、カレンが口にした途端、寡黙な婚約者と聖女な妹の間でバチリと火花が散った。だがあまり重要なことではないのでカレンは二人を放ってププド司祭を追いかけることにした。

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