第22話 約束の品
「これはカレン殿、お待ちしておりました」
ロランの許可をもらい買い物の前に教会へと寄ることにしたカレンとプリラ。待たされることなく、すぐにププド司祭は現れた。
「司祭様、お約束から日が開いてしまい申し訳ありません」
「ハッハッハ。お気になさらずに。カレン様はまだデルルガに来て日も浅く、色々とお忙しいでしょう。むしろ呼んで頂ければこちらから出向きましたぞ」
「そんな、お気遣いなく。それにロラン様とのお出かけの途中で寄らせてもらっただけですから」
「おお、ロラン殿。よき婚約者を見つけられましたな。流石はデルルウガの若き当主だ。その幸運を大切になさるのですぞ」
「勿論です、ププド司祭。彼女を婚約者にして以降、日々我が身の幸運に震えております。この幸せは……手放せない」
「ロ、ロラン様」
屋敷では愛の言葉とは無縁なロラン。そんな婚約者の甘い言葉に社交辞令とは分かっていてもついついカレンは頬を染めてしまう。
「ハッハッハ。そうでしょう。そうでしょうとも。そして……聖女様、よく来てくださいました。このププド、感謝に耐えません」
膝をついて祈りを捧げてくるププド司祭を前に、プリラはカレンの後ろへサッと隠れた。そして妖精のように美しいその顔を姉のスカートから半分だけ覗かせる。
「……(ジー)」
「プリラ、ちゃんと挨拶しないとダメでしょ」
「ハッハッハ。良いのですよ。よく胡散臭いやつと言われますからな」
「……こんにちは」
「おお、聖女様。こんにちは。今日は良い天気ですな。昨日の土砂降りが嘘のようです」
「……(コクン)。………(クイクイ)」
「ん? プリラ? どうかしたの」
「……約束」
「約束? 何の……って、ああ。もうプリラったら」
呆れたようにため息をつくとカレン。その赤い瞳が遠慮がちにププド司祭へと向けられる。
「む? どうされましたかな。何なりと仰ってください」
「いえ、その……大変厚かましいとは存じますが、先日ご招待いただいた際に話してくださった品は、その……」
「おおっ!! なるほど。そういうことですか。これは私としたことが気が利かず、大変失礼いたしました。もちろんありますぞ。さっ、こちらへ」
貴賓室へと通されるカレン達三人。プリラは見るからにフカフカしてそうな三人掛けのソファへとお尻から飛び乗った。
「プリラ……貴方最近ちょっとわんぱく過ぎないかしら?」
「(フルフル。フルフル)」
「本当に? あまりお行儀が悪いとお姉ちゃんと一緒に花嫁修行受けてもらからね。いやでしょ? これ以上勉強の時間が増えるのは」
「……(フルフル)」
「え? 花嫁修行したいの?」
まさか妹に結婚を考えるような相手が? カレンの胸に一言では言い表せない様々な感情が錯綜する。
「お勉強、お姉様と一緒なら楽しい」
「プリラ……もう、お姉ちゃんが言ってるのはそういうことじゃないんだからね」
妹の横に腰を下ろしてその頭を撫でるカレン。ロランは空いているソファと姉妹が座る三人掛けのソファを見比べた後、黙ったままカレンの横に腰を降ろした。
「お待たせしました。教会が誇る最強の接待兵器。『フルーツパフェタルト』です。あまりの美味しさに頬を落とさないよう気をつけてください」
「(パチパチパチ! パチパチパチ!)」
スイーツを前に手を叩いて大はしゃぎな妹。レディには程遠いその無邪気な姿を可愛らしいとは思いつつも、
(やっぱり花嫁修行つけさせた方がいいのかしら?)
と本気で検討するカレンであった。
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