第14話 移動

(何だか私の知らないところで大ごとになっているみたいだわ)


 司祭と別れた後、暫くの間カレンはその場に立ち尽くし先程の会話を反すうしていた。


(やっぱりいくらラルド王子でもあんな無茶苦茶な行動は問題になったのね)


 大公の娘であり第一王子の婚約者であるカレンを、いくら第一王子本人とはいえ王に無断で隣国へ嫁がせた挙句、聖女であるプリラを婚約者にしようとしたのだ。問題にならない方がおかしかった。


(でもラルド王子はお父様達とは話がついたと言っていた。……お父様達は今どうされているのかしら? それにこの国の第一王子であるロビン様やロナルル様まで関わってらっしゃるなんて)


 第二王子であるロナルルは横暴なラルド王子とは正反対の性格をしていることで有名で、誰とでも気さくに会話し、貴族、平民問わず人気が高い。カレンもロナルル王子にはラルド王子の横暴さから何度か助けてもらったことがあった。なので本来であればロナルル王子が関わってくることはカレンにとって頼もしい話であったが、今は気掛かりが一つ。


(ロラン様との婚約に影響がないといいのだけど)


 客観的に見て、カレンはラルド王子の横暴で売り払われるように隣国にやってきた。ロナルル王子が事情を把握したのであれば、カレンの為に意にそぐわない婚約を無効にして、カレンをダルル王国に連れ戻そうとするかもしれない。


(そうなったら嫌だな)


「……(ギュツ)」

「プリラ? ……ふふ。心配しなくてもお姉ちゃんは大丈夫よ」


 自分を見上げる妹に対してニッコリと微笑むカレン。


(ロナルル様だもの、話せばきっと分かってくださるわ)


「カレン様、司祭様とのやりとりで少し目立っておられます。早急に移動された方がいいかと」


 護衛主任である女騎士の言葉に周りを見れば、何人かがその場に膝をついて祈りを捧げていた。無論彼らの祈りの先にいるのはプリラだ。


「そうね。移動しましょうか」


 注目を集めることで予期せぬ騒動が起こる。そんな危惧以上にカレンはロランに会いたくて仕方なかった。


「カリーナ、あなたロラン様がどちらにいらっしゃるのか把握していないかしら?」

「申し訳ありません。ただおられそうな場所の心当たりがいくつかありますので、そちらにご案内いたしましょうか?」

「ええ。お願いします」

「それではこちらへ」

「分かりました。ほら、プリラ行きましょう」

「……(コクン)」


 そうして移動する姉妹。果たして護衛主任カリーナが案内する先にロランはいた。ただ居たのはロランだけではなくて、


「え? ロ、ロナルル様!?」


 スラリとした長身に、男性にしては長い金髪を後ろで一括りにしたその姿。ロランと一緒に人の輪の中心に立っているのは、間違いなくダルル王国の第二王子であるロナルル王子だった。

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