第11話 お弁当
「お祭りですか?」
お昼前。花嫁修行とお勉強。共に午前中の用事を終わらせたカレンとプリラはテラスでお茶を楽しんでいた。
「はい。もうすぐジン風祭というお祭りがありまして、ロラン様はその準備にかかりっきりなのです」
「それでお昼に帰れなくなると仰っていたのね」
(私が何かしてしまったのかと思ったわ)
ホッと息を吐くカレンを見てメイド長であるアシヤが優しく微笑んだ。
「坊っちゃまもカレン様と昼食が取れなくなるのを残念がられておりましたよ」
「そ、そうですか。そう言ってもらえるのは、その、う、嬉しいです」
顔を赤らめる姉をテーブルを挟んで正面に座っているプリラがじっと見つめる。
「な、何よプリラ。お姉ちゃんの顔に何かついている?」
「……お弁当」
「へっ!?」
「ロラン様、一緒」
「あ、ああ。そういうことね。お弁当を持っていけばロラン様も一緒に昼食が取れるというのね」
「……(コクン)」
「プリラ、それは……いい考えね」
「(エッヘン)」
「まぁ、プリラったら。ふふ。殿方の前じゃあそんなことしちゃいけないわよ?」
腰に手を当てて小さな胸を張るプリラを笑いながら嗜めると、カレンは時計に目を向けた。
「今から作ってお昼に間に合わせるのは難しいかしら」
「カレン様が今日花嫁修行で作られたカレーならまだ余っておりますが」
「そうね。あれなら……いや、でも」
「カレン様? いかがなされましたか?」
「その、ロラン様はカレー、お好きかしら?」
「カレン様の手料理であれば坊っちゃまはなんでも喜んで食べられます。このアシヤが保証いたしますよ」
「お姉様の料理、美味しい」
アシヤに続き、ここしばらくカレンの花嫁修行の成果を食べ続けてきたプリラに肯定されてカレンの顔から迷いが消える。
「じゃ、じゃあ今から出ればお昼には十分間に合うと思うし、お姉ちゃんと一緒にロラン様に持って行ってみようか?」
「(コクン)」
「それでは護衛を手配いたしますのでしばらくお待ちください」
「ありがとうアシヤ。それと質問なのだけれど」
「はい。なんでしょうか?」
「ロイド様は貴族なのに随分と精力的に働いていらっしゃるけど、どの様なお仕事をされているのかしら?」
貴族は土地や賃貸の利権、あと平民からの税で食って行くものが多く、ロランのように忙しく動き回る者は少ない。少なくともダルル王国ではそうだった。
「申し訳ありませんが、私の口からはお応えできません。ですがカレン様ならば遠からず分かることだと思いますよ」
そう言って浮かべたアシヤの笑みが、カレンは少しだけ引っかかった。
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