第9話 可愛い
カレンの予感は果たして当たっていた。
「カレン」
「はい。ロラン様」
「…………今日はいい天気だな」
「お散歩ですか? 喜んでお供いたします」
「カレン」
「はい。ロラン様」
「この屋敷の料理には飽きただろう」
「そんなことはありません。トムさんの料理は絶品です。いくらでも食べられます。ねっ、プリラ」
「……(コクン)。トムの料理、美味しい」
「あ、いや、…………そうだな。それは、そうだ」
「でもたまには外で食事をしてみたくもなります。ロラン様、よろしければ今夜連れて行ってくださいませんか?」
「お、おう! 仕方がないな。最高の店を紹介してやろう。……仕事を終わらせてくる。今日は俺が戻るまで屋敷にいろ。いいな」
「はい。行ってらっしゃいませロラン様」
「カレン」
「はい。ロラン様」
「…………」
「プレゼントですか? ありがとうございます」
「…………」
「? えっと……ああ、ここで開けるのですね。少々お待ちを。……わぁ、素敵なドレス。ありがとうございます。大切にしますね」
「ふん」
言葉足らずなところがあるロランであったが、プリラとのコミュニケーションで相手の様子から考えを察することが得意となったカレンにはむしろ話しやすいくらいだった。今もプレゼントを渡すだけ渡して何も言わずに去っていくロランであったが、既に二週間以上も同じ屋根の下で生活しているカレンには、彼が今喜びと気恥ずかしさで小さく震えていることが見て取れた。
(可愛い……だなんて、殿方に対して失礼な感想よね)
でも出来るならロランを追いかけて、その背を思いっきり抱きしめてみたい。そんな欲求がカレンの中で大きくなり始めたところにーー
「あら、プリラ」
タイミングよく、家庭教師の授業を終えた妹が廊下に出てきた。プリラは姉を見つけると嬉しそうに駆け寄ってくる。いつもならそんな妹が自分の元に来るまで優しく見守るカレンであったが、今日は自分から妹へと近づいた。それも結構な勢いで。
「プリラ~!!」
常にない姉のテンションに、プリラの動きがピタリと止まる。そこをすかざすカレンが抱きしめた。
「ねぇねぇ、見て見てプリラ! これ、ロラン様に頂いたの! 素敵じゃない? 素敵よね? ねっ? ねっ?」
「(コクコク)(コクコク)」
「でしょう? お父様やラルド王子にもプレゼントを頂いたことはあるけれどこんなに嬉しかったことはないわ。どうしよう。な、何かお返しするべきよね? 何がいいかしら? それにしても……ふふ。ああ、ごめんなさい。あの時のロラン様のお顔がね、とても可愛らしかったものだから。本当にプリラにも見せたかったわ。私なんだか胸がキュウ~って締め付けられて、思わずロラン様を抱きしめたくなったの。だからプリラを抱きしめちゃうわね。えい」
妹の小さな体に回す両腕に力を込めて、カレンはこれでもかと頬擦りした。
「(わたふた)(わたふた)」
「あ、ご、ごめんない。コホン! ……それでプリラは今日どんなことを学んだの? お姉ちゃんに聞かせて?」
慌てて姉としての威厳を取り繕うカレンをプリラは銀色の瞳でじっと見つめる。
「な、何かしら?」
「……お姉様の話、もっと聞きたい」
「えっ!? ほ、本当に?」
「……(コクン)」
「プリラ……うん。それじゃあ今日は久しぶりにお姉ちゃんと一緒に寝ようか。それで好きな殿方の話に花を咲かせましょう。プリラはどう? 好きな人はできた?」
「私はお姉様が好き」
「ありがとう。お姉ちゃんもプリラが大好きだよ」
今度は優しく妹を抱きしめるカレン。異国での生活は想像しなかったほどに順調で姉妹は日々を楽しく暮らしていた。だが二人はまだ知らない。ダルル王国では第一王子が二週間も行方不明でちょっとした騒ぎになっていることを。
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