第7話 鷹
「な、何故こんなところに聖女様が?」
「聖女様? 聖女様だって?」
「本物か? だとしたら凄いことだぞ」
「聖女様を語るなんてあり得ないだろう。そんなことをしたら信者が黙ってないぞ。無論俺だってな」
兵士の言葉を皮切りに平民のみならず商人や貴族までもが姉妹を注視し始めた。カレンは一刻も早くこの場から逃げ出したかった。
「あ、あの、問題がなければ中に入れて頂けませんか?」
「そ、そうですね。すみません。ただ聖女様に関しましてはここで身の証を立てられるものがあれば、立てておいた方が良いかと。万が一にも聖女様を語る偽物だという噂を流された日には、その……危険ですので」
(注目を浴びたのは私達のせいじゃないのに)
そうは思っても聖女の偽物だと思われたら堪らない。何かないかと考えるカレンの腕をプリラが引いた。
「どうしたのプリラ。あら、それは……」
カレンが妹に手渡されたのは十字架だった。
「随分と綺麗な宝石がついているけれど、お父様からのプレゼント?」
プリラはフルフルと首を横に振った。
「貰った」
「えっと、誰に……あっ! もしかして教会の人に?」
「……(コクン)」
「ちょっと見せてもらってもいいですか?」
「ええ。どうぞ」
兵士は渡された十字架を興奮気味に調べる。
(ひょっとしてこの人も信者なのかしら?)
「これは……魔法石か。それに聖女の刻印。これの所持を許されるなんて……本物だ。彼女は本物の聖女だ」
「「「おおっ」」」
と、周りから声が上がり、それはまるで伝播するかのようにどんどん大きくなっていった。
(聖女を騙る偽物だって思われなくて良かったけれど、これ大丈夫なのかしら?)
その場に両膝をついて祈りを捧げる信者達はまだいい。問題なのはーー
「聖女だって? どこだ? どこにいるんだ!?」
「おい、押すなって」
「見えないぞ! そこをどけって」
信者かどうかも分からない、とにかく聖女を一目見たがる人達。彼らの怒号がそこいらで響き渡り、カレンは咄嗟にプリラを背後に庇った。
「これはまずい。聖女様方は街へ入ってください。押さないで! 押さないでください!」
「プリラ。行きましょう」
「……(コクン)」
だが二人が走り出すよりも先に男達の何人かが兵士をすり抜けた。そんな必死の形相でこっちに来て一体どうするつもりなのか。カレンの心臓が飛び跳ねる。その時だ、風が吹いた。目も開けられぬ程の突風が。それがカレン達へと迫った男達を押し返した。
「プリラ?」
「(フルフル)。……私じゃない」
「え? じゃあ一体誰が?」
明らかに自然な風ではなかった。周囲を見回すカレンの視界に一羽の鳥が映る。
「鷹!? え? こ、こっちにくる!? きゃっ!?」
大きく翼を広げて低空を飛翔する鳥。その接近にカレンはプリラを抱きしめ身を強張らせた。
「すまない。驚かせるつもりはなかった。彼の名前はホウビーナ。私の友人だ」
「…………へ?」
いつの間にか二人のすぐ側に男が立っていた。鷹は彼の肩で羽を休めている。
(綺麗な人。でもどこかで見たような?)
腰まで伸びた黒髪に、中性的な顔立ち。一瞬女性かと思ったカレンであったが、細身ながらもよく鍛えられた体を見て自身の勘違いを悟った。
「あの、貴方は」
風を起こしたのはこの人だ。そうカレンは直感した。
「私の名前はロラン。ロラン•デルルウガ。一応貴族の端くれで爵位は男爵。そして貴方の夫となるものだ」
「え? ……ええっ!?」
突然現れた婚約者。目を見開くカレンをロランは夜を思わせる瞳でジッと見つめていた。
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