第6話 発覚

「プリラ、ちょっと熱いかも知れないけど、フードを被っておきましょうか」

「……(コクン)」


 左の列に並んだカレンとプリラであったが、周囲からやけに注目されていることに気が付いて顔を隠した。


(お、女だけだとやっぱり目立つのかしら?)


 それだけではなく上等なロープに手入れの行き届いた髪や肌。一目で貴族と分かる二人が平民の列に並んでいるものだから周囲の者達も何事かと視線を送るのだ。


「だ、大丈夫だからね。お姉ちゃんがついているから何も怖くないわよ」

「? ……(コクン)」


 これだけ大勢の人に視線を向けられると、中にはよからぬことを考えている者がいるのではと思い、カレンは気が気でなかった。一方プリラは注目と危険を結びつけられないようで、そんな姉を不思議そうに見上げている。


 幸い絡まれるようなことはなく、何事もないまま列は進んで二人の番が来た。


「デルルガにようこそ。街にはどんな用事で?」

「あの、私、イルマルド大公の娘でカレンといいます。ここには嫁ぎに来ました」

「は? ……大公の娘?」

「は、はい。そうです」

「身分を証明できるものは? それと悪いがフードは取ってくれ」


 兵士の口調は不審者に向けられるもののそれだった。


(な、何か怒らせるようなことを言ってしまったのかしら?)


 プリラの手前平静を取り繕いながらも、泣きたい気持ちでカレンはフードを取る。幸いなことに兵士はカレンの顔を一眼見るなり警戒を和らげた。


「あ~……貴族の方は右の列ですよ? それに護衛の方はどこですか? 我々兵士がいるとはいえ人が多く集まればそれだけ物騒なことも起こります。街の中に入るまでは馬車からあまり離れない方がいいですよ」

「そ、その、途中から歩いてきたので馬車はないんです。だから右の列には並びにくくて」

「えっと、すみません。さっきイルマルド大公の娘とおっしゃいましたよね。イルマルド大公というのはダルル王国の?」

「そ、そうです。これが我が家の家紋です」


 カレンは身に付けている指輪を兵士へと見せた。


「おい、誰か来てくれ! ……もう、大丈夫ですよ。さぞ怖かったでしょう。今からは我々がお守りいたします」

「は、はぁ?」

「それでお辛いことをお聞きしてしまいますが、どの辺りで襲撃を受けましたか? 急げばまだ生存者がいるかも知れません」

「襲撃……ですか?」


(どうしよう。この方が何を言っているのかよく分からないわ)


 兵士はまさか大公の娘ともあろう者が料金不足を理由に馬車を下ろされたなどとは思いもせず、盗賊の類に襲われたところを命からがら逃げてきたのだと思ったのだ。普段のカレンであれば襲撃の一言でそのことに思い立っただろうが、慣れぬ野宿の後で疲れた頭はうまく動いてはくれなかった。


 兵士もそんなカレンの様子に違和感を覚えたようで、その視線が隣でフードを被ったままのプリラへと向けられる。


「失礼ですが、隣の方は?」

「あ、こちらは妹です。プリラ、ご挨拶して」

「……プリラ、です」

「ああ、なるほど。イルマルド大公には二人のご息女がおられるとの話でしたね。確かお一人はラルド王子の婚約者でもう一人は……あっ!? そ、そういえば……えっ!? じゃあまさか貴方は……聖女様!?」 


 途端、その場に存在する全ての視線が自分達に集中するのを感じて、カレンの頰を一筋の汗が伝った。

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