十一話 おっぱい出ないのです

 バナナ見つけた。

 海を作った。

 寝た。



 城なしに海を作り上げるとまる1日眠りこけ、2日ほどダラダラとして過ごした。


 それでも飽きたらず俺が八度寝を決め込んだお昼ごろ。


 ラビが俺を起こしにやって来た。


「ご主人さま起きるのです「ひよひよ」」


「んあー……?」


 なんだ?

 語尾にひよひよつけてぶりっ娘な気分なのか?

 ちょっと可愛いけど起きたくない。


 もう一生分働いたのだ。

 後は人生消化試合。

 寝られるだけ寝ていたい。


「ラビ。お昼はまたバナナをお食べ。ご主人さまは、あと、三度寝ぐらいしたら起きるから……」


「もうごはんは食べたのです。もうずっとひとりバナナなのです! でも、それより、たいへんなことが起きたのです「ひよひよ」」


 バナナは不満なのか、ちょっぴり責め立てるような口調だ。


 んー。バナナで誤魔化し過ぎたか。

 楽で良かったんだが……。

 しかし、そうかあ。


 たいへんなのかあ……。


 って、ラビが大変!?


「何があった!? 怪我した? それとも病気か?」


「産まれたのです! でも、どうやっておっぱいあげたら良いのかわからないのです」


「うっ、産まれただと? バカな! ラビが妊娠していただと!? 相手は誰だ? 潰してくれるわ」


 絶対に許さない。

 地の果てまで追いかけてでも潰す。

 こんなん戦争だろうが!


「相手? パパの事なのです? それならご主人さまなのです」


 えっ?


「待つんだラビ。俺にはまったく身に覚えがない。そ、そうだ。まずは話し合おうじゃないか。きっとなにかの間違いだ」


「寝ぼけてるのです? とにかく赤ちゃんを見てほしいのです」


 そう言ってラビは我が子を抱き上げて俺に見せてきた。


 産まれたばかりで毛はぽさぽさ。

 背には翼があって俺っぽい。

 体は全体的に茶色でラビっぽい。

 目は開いてなくて、ちょっと目付きが悪い。


 割りと不細工だ。


「ひよひよ」


「いや、ひよこじゃないか!」


「タマゴからヒナがかえったのです!」


 ああ、そうか。

 タマゴなんてモノがあったな。

 起きたばかりで頭が回ってなかった。


「でもこの子たちおっぱい飲んでくれないのです。近づけても、つついたり、ついばんだりだけで飲んでくれないのです。ほらっ……」


「ちょっ、ダメだ! お乳めくるのダメ! ラビはおっぱい出ないんだ」


「えっ!? ラビのからだおかしいのです? なんでおっぱい出ないのです? ちゃんと見て欲しいのです……」


 そんなつぶらな瞳を潤ませて悲しまないでおくれ。


 いやまてよ?

 もしかして俺が間違ってる?

 女の子っていつでもどこでも、おっぱい出せるもんだったっけ?


 いやいや、確か牛とかは、妊娠しないと出なかったハズだ。


 きっと人間も同じだろう。


「良いかいラビ。おっぱいって言うのは妊娠しないと出てくる様にならないんだよ」


「さすがご主人さま物知りなのです! それならラビがおっぱいだせるように、ご主人さまがラビを妊「言わせない!」」


 どうも生命の神秘性となると危険な方向に話が進んでいけない。


 延長線にある事なので仕方がない事なんだが……。


 さて、どうやって説明したものか。


 いやそもそも──。


「ヒヨコは、おっぱい飲まないんだよ。おっぱい飲んだら哺乳類じゃないか」


「ほにゅうるい? じゃあ、この子たちは何を食べるのです?」


「んー?」


 考えてなかった。


 ヒヨコって何を食べるんだ?

 虫か? 芋虫とかその辺りか?

 ツバメは虫を運んでいたような。


「虫だと思う。でも、産まれたばかりで食べるモノなのかな。もう少し様子をみよう」


「あ、虫を食べるのです? 探してくるのです」


 話聞いてないし。

 まあいいか……。

 好きにさせてあげよう。

 俺は巣作りから始めるかな。


 城なしの作った一番小さな壺の底に布をひいた。


 人肌を保てるよう、焼いた石を布でくるんだものをあてがってやる。


「ひよひよひよひよ」


 うむ、カワイイな。

 取り合えずはこれで良いだろう。


 さて、次は俺たちの飯だ。

 昼飯はバナナにひと手間加えてみる。


 まずはバナナを布で絞ってと。

 4本ぐらいで良いかな。

 これはバナナジュースだ。


 冷やしてこのまま飲むのも良いが、それではごはんとは言えまい。


 だからこれを火にかける。


 鍋は壺で代用する。

 城なしは壺作りにハマった様で壺ばかり作る。


 この壺なんて翼の生えた人間と、ウサギ人間がなかむつまじくバナナを食べているところが、壁画チックに彫られている。


 人間味溢れる城なしだ。


 更にバナナを取り出すと、一口サイズに切り揃えて葉っぱに載せた。


 スプーンが欲しいが、俺は器用じゃあない。


 木片削って、四角い板状にしたもので代用することにしよう。


 そして、スプーンが完成する頃には、火にかけたバナナジュースから甘い香りが漂い、食欲を刺激してくる。


「ご主人さま。良いニオイなのです」


 ラビも香りにつられてやって来たか。

 この食いしん坊さんめ。

 ただ、その手に持っている虫はよろしくない。


「今日のお昼ごはんだよ。お手て洗っておいで。あと、虫は食卓に持ってきちゃあダメだ」


「わかったのです。でも、虫は子供たちのご飯なのです」


 なるほど、確かに虫もご飯だ。


 食卓に並んでいてもおかしくはあるまい。


 そんなわけがあるか!


「逃げないように虫は壺に入れてフタをして置くんだ。日差しの強いところに置くと死んでしまうから、日陰に置いてくるといい」


「なるほどわかったのです!」


 ラビの駆け行く姿を見送ると、俺は鍋の様子を見た。


 ふむ。良い感じに出来たかな。


 このあつあつのバナナジュースを一口サイズに切ったバナナにかければ完成だ。


 バナナオンバナナと名付けよう。


「手を洗って来たのです!」


「よーしよーし。ならおたべ。このスプーンですくって食べるんだ。熱いから気を付けてね」


「ふはっ、あつあつでとろとろなのです!」


 うむ。舌に絡み付く濃厚な甘さ。

 しかし、もとは甘さ控えめのバナナだ。


 濃いホットバナナジュースが、ぶつ切りにしたバナナと複雑なハーモニーをかもしだし、しつこい甘さを抑えている。


 これは旨い。


「くふぅ。しあわせなのですー」


「それは良かった。ラビがしあわせなら俺もしあわせだよ」


 満面の笑顔でお腹をさすりながら、余韻に浸るラビを見ると作ったかいが、あったと思えるものだ。


 今度はデザートにあれを作ってみようかな。

 それともおやつにあれかな?

 なーんて、ぽこぽこアイデアも沸いてくる。


「んふー! ご主人さま大好きなのです!」


「そうかそうか。なら愛でてやろう」


 俺はお腹に頭をぐりぐりして甘えてくるラビの頭をそっとナデてやった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る