九話 食べるのです食べるのです食べるのです!
ラビにバニー服着せた。
恥じらいがないので説教した。
城なしが海に出た。
城なしは災害とは無縁の場所だ。
天気がないから天候を要因とする災害が起きない。
海に面していないから津波は起きない。
地面と接していないから火山の噴火も地震も起きない。
いや、地震はあったか。
まあ、あれは貧乏揺すりみたいなものだ。
よって城なしでは災害が起きない。
だが災害はなくとも、城なしにいるからこそ起きる問題も存在する。
それは──。
「ひのふのみ……。うーん。朝昼晩で三食。二人で一日六食。すると残りは三日分ってところか」
昼食を作りに一人かまどに向った俺は、ラビには内緒でこっそりとウエストポーチを開いて、何日分の食料があるか数えていた。
思ったよりも少ないな。
海がもし太平洋や大西洋並みだった場合、補給出来ないのでこの量だとかなり厳しい。
一日に食べる量を減らすか?
だが……。
『奴隷になればお腹いっぱい食べられて、綺麗な服を着て、いっぱい気持ち良いことしてもらえるって聞いたのです!』
むう……。
“お腹いっぱい食べられて”か。
「あっ。俺が食わなければ……」
六日は持つ。
ただ、余計な心配を掛けたくはないから、ラビには悟られないようにしないとな。
ガタッ。
「ん……?」
今なにか聞こえた様な?
それから5日が過ぎた。
案の定俺はピンチにみまわれている。
やはり、大きな海に出てしまった様で食料が足りない。
しかし、そんな事情はラビに知らせず、いつものように朝食を用意した。
「さあ、ごはんだ。おたべ」
「食べたくないのです……」
「ん? 飽きたか? それともからだ壊したか? 食欲がないなら、置いておくから後で食べるといい」
なんだか元気がない。
いつもはピンと伸びてるお耳もしょげちゃっている。
はて、これはいったいどうしたものか。
「違うのです。ご主人さま食べてないのです。もう何日も食べてないのです」
余計な心配をかけたくなかったから、知られまいと隠していたんだが……。
食べていない事に気付かれていたか。
飢えと言うのは苦しいものだ。
痛みや苦しみに敏感な子供なら尚更苦しい。
だから、全てをラビに与えたのだが弱ったな。
「ラビはまだ体が成長しきっていないから食べる必要があるし、俺はラビのご主人さまだ。ご主人さまは奴隷にお腹いっぱい食べさせなきゃダメだろう?」
「でも食べないと死んじゃうのです……」
「ラビのご主人さまは凄いから、ひと月食べなくても死なないよ」
俺は元ニートだ。
ニートと言うのは飢えに耐性があるのだ。
なぜなら。
たまに俺だけご飯でて来なかったから!
ニートには良くある話だ。
それが切っ掛けで、飯を作れたりもする。
「でも……」
これでも納得してもらえないようで、うつ向いて言葉を詰まらせてしまった。
ええい、ダメか。
仕方がない小道具を使うか。
「あーあー。言うこと聞いて全部食べてくれたら良いものあげようと思ったんだけどなあ」
「い、良いものなのです?」
「ジャジャーン。アイテムボックスかっこ布製品! 念じれば、このカタログにあるお洋服が、手に入っちゃうんだぞう?」
これは以前仲間と共に入手したものだ。
ラビには勿体ぶって見せたが一度ダンジョンに潜れば一つは手にはいるモノなので、珍しいモノじゃあない。
「す、凄いのです! いっぱいお洋服の絵がかいてあるのです! 欲しいのです!」
「そうだろう。そうだろう。じゃあ、全部食べるんだよ」
「ちゃんと食べるのです!」
素直に従ってくれたか。
しかし、今日こそは海から抜けて欲しいところだ。
空を飛ぶ体力が無くなってしまう。
いざとなれば、植えたさつま芋のつるや葉を食べたり、タマゴを食べても良い。
出来ればそれは避けたいんだけどな。
だが。
「ああ。今日も海だったかあ」
「海なのです……」
ラビをつれて空を飛んでみるも、地上の様子は相変わらずだった。
ぬっ……。
目の前がキラキラして……。
「ご主人さま? ご主人さま!? 落ちてるのです!」
「ん? あ、ああ。いかんいかん……」
一瞬意識飛んでたわ。
とっとと戻って少し休もう。
何とか無事に城なしへと戻った俺は、浴びるように水を飲んだ。
「ご主人さまやっぱり辛そうなのです。目の下にはクマができて、頬は痩せこけてるのです」
「あははは。昔はいつでもそんな感じだったよ。だから心配いらないんだ。ほーら、ナデナデー」
「ん、んふう。ごまかされないのです……。む、む、むふう。気持ちいいのです」
誤魔化されちゃってるぞ?
しかし、思っていたより状況は悪いみたいだな。
ラビの不信感を拭えなくなってきたか。
だが今はそれを考えるより少し休みたい。
「ラビ。俺は少し横になる。さつま芋の畑に水をやっておいてくれ。もう土が乾いてしまってる」
さつま芋はすっかり根が生えて、だいぶわき芽も伸びている。
コレを食べてしまうのは惜しいな。
ギリギリまでこれには手をつけずにおこう。
そして翌日。
今日もラビが俺を起こしにきた。
「ご主人さま朝なのです。起きるのです」
「ああ……。今、起きて……。朝ごはんのしたくをするからね……」
体が重い。
持ち上がらない。
「やっぱりウソだったのです。ごはん食べないから、元気が無くなってしまったのす!」
何とか言い訳したいところなんだが言葉が出てこなかった。
考えようとしても直ぐに散ってしまう。
お願いだから、目に涙をためて今にも泣き出しそうな悲しそうな顔をしないでくれ。
ああ、ダメか……。
溢れた涙がツーッと瞳からひとしずく零れ落ちると、後は止めどなく、ぽろぽろぽろぽろ頬を伝って落ちていく。
「ぐすっ。ご主人さま食べるのです食べるのです食べるのです!!」
ラビが泣きながら俺の口に、ウエストポーチから出した肉のカタマリをぐいぐいと押し付けてきた。
「ちょっ、まっ……。むぐぐ……!?」
流石に生はキツいのだが、聞いてくれそうにないし、体は弱って抵抗できない。
最後のひとカケなんだが──。
「ぐすっ。これが最後なのは分かるのです。後はご主人さまと耐えるのです。だから、食べるのです!」
ああ、俺は何をやっているんだろう。
ラビを悲しませてはダメじゃないか。
ええい! 食ってやるさ!
生だとか、食いにくいとか、そんなのは関係ない!
ああ、くそう、噛みきれん。
だが、飲み込む。
ゴクリ。
「ほら、全部食べたからもう泣かないでおくれ」
無心で肉を食らいつくしてやった。
胃が焼けるように熱い。
空腹にはちょっとキツかった。
「よかったのです。これで元気になるのです」
確かに胃はじんじんするが、活力はみなぎってくる。
ラビは泣くのをやめ、笑顔が戻ってきた。
「よし、今日も地上を見てみようか」
「はい、ご主人さま!」
なんとか体にムチ打って、俺はラビと一緒に空へと飛び立った。
「ご主人さま! 陸がみえるのです!」
「ああ、良かった」
本当に良かった。
「でも、嬉しいからってはしゃぎすぎると落っこちちゃうぞ?」
「ご主人さまは絶対にラビを落っことしたりしないのです!」
「そりゃあ、そうだが……」
まあいいか。
俺はラビの信頼に応えるべく、ぎゅっとラビの体を支え直した。
久しぶりの陸。
待ちに待ち望んだ陸。
それはいつもと違い輝いているようにさえ見える。
俺も少しはしゃいでいるのかもしれない。
きっと、いろいろな食べ物がきっと見つかるだろう。
種類だけじゃなくて量だって豊富にあるハズだ。
可能な限り食べ物を集めよう。
そして、二度とラビを悲しませたりするものか!
俺はそう胸に誓った。
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