八話 お姫さまはこんなの着ないよね!?

 ラビと焼きいもした。

 焼きいも食べた。

 おいしかった。



 そして翌日。


「ご主人さま朝なのです」


「んあー?」


 ゆさゆさと体を揺すられ、目を開くとウサギの耳が飛び込んできた。

 健康的な薄茶の肌が、元気なのですとアピールしてる。

 何だ夢か。

 ああ、いや、ウサギの獣人を拾ったんだっけか。

 でも、まだ起きたくない。


「ぐぅ…… 」


「起きないのです? 本当に起きないのです? じゃあ、ニオイ嗅いじゃうのです……」


 ん?

 何か今凄いこと言わなかったか?


「すんすん……。くはぁ、酸っぱいのです。でも、たまらんのです」


 えっ?

 嗅いじゃうの?

 女の子って、みんなワキのニオイ嗅いで喜ぶものなの?


 いや、そうか。

 獣人だからニオイ嗅ぎたくなっちゃうのか。

 石鹸等と言うものがないから、どうしてもニオイはなあ。

 しかし、これは耳が当たって──。


「くっくっくっ。くすぐったいよ、ラビ」


「んはあ! 起きてたのです!? は、はずかしいのです」


 よーし、仕返ししてやろう。

 でも、タマゴをお腹に巻き付けていないか確認しないと危ないな。


 俺はラビの痩せてはないが、たるんでもないお腹をまさぐった。


 よし、大丈夫だな。


「ご、ご主人さま? くすぐったいのです」


「ふっふっふっー。もっともっとくすぐってやるー!」


「あっ。あっはっは。ごひゅひんはま。あははははは! はひっ」


 お次は、ラビを押し倒して馬乗りになってと。

 おっと、体重をかけないように気を付けないとだな。


「ご主人さまあ?」


 あっ、ちょっと。

 この甘ったれた声カワイイじゃないか。

 嬉しいか?

 構ってもらえて嬉しいんか?

 そうかそうか。

 存分に愛でてやろう。


「うぉりゃあああ。わしわしわしわしー」


「ひゃあああああ!? 乱暴にしちゃ嫌なのです! やさしく頭をナデて欲しいのです! やさしく、やさしく──」


 ふぅ……。

 朝っぱらから欲望のままにラビを愛でてしまった。

 ご飯にしよう。


 朝食を作りにかまどへ向かうと、見覚えのないものがたくさん並んでいた。


 おや?

 また城なしが何か作ってくれたのか。

 壺かな?

 大中小と結構あるな。

 これはありがたい。

 城なしは石製品なら何でも作れるんだなあ。

 気まぐれだけど。


「ご主人さま。お腹が空いたのです」


「ああ、ご飯にしよう。って、ラビ頭がボッサボサだぞ?」


「ご主人さまがやったのですよ!?」


 しかし、二人となると食料が心もとないな。

 後三日で肉が尽きそうだ。

 今日は食料品を中心に集めて来よう。

 ラビにひもじい思いをさせるわけにはいかない。


 ともあれまずは食事だ。


 朝から肉と言うヘビーな食卓だが許せ。


 それでも、ただ焼いただけの肉をラビはモリモリ食べてくれた。


「お腹いっぱいになったのです」


「こんなもんしか無くて悪いな」


「とんでもないのです。いつもはこんなに丁寧に処理せず、かぶり付いていたのです」


 あれか、君は野生児みたいな環境で育ったのか。

 非力でとても野性的だとは思えないんだがなあ。

 大人のラビッ種は強いとか?

 とてもそんな想像は出来ないが。


 食事を終えると早速地上に降り立つことにした。

でも、その前に、ラビを着替えさせよう。

 昨日出してあげようと思ってすっかり忘れていた。

 えーと、例の強奪した服は──。


「なんじゃこりゃあ!?」


「ふえ!? 何があったのです?」


「際どすぎるだろうこれ、股の部分とか鋭利すぎる。これはあれか? バニー服か?」


 いや、バニースーツと言うべきか。

 カジノで生活するウサギさん達が着ているアレだ。

 何てもんラビに着せようと考えていたんだよ。


 テカテカしたこの黒い生地はシルクか。

 肩ひもがないし、何と際どい。

 パンツも負けず劣らず、二等辺三角形の凶悪さ。

 普通のパンツじゃ、はみ出ちゃうから、鋭利にならざるをえないのか?

 あ、網タイツもある。


 しかし、こんなん異世界に有るわけがない。


 この世界には俺の他にも転生者が存在して、割りと好き勝手している。


 絶対転生者が、前世の知識をフルに無駄遣いして広めただろう……。


 いや、この世界は燃料の採掘に制限がある。

 かつての仲間からそんな話しを聞いた。

 だからそこまで広まってはいないのか。


「あっ、それはラビのドレスなのです。本当はお姫さまだけが着られるのですけど、ラビは特別なのです」


「不夜城のお姫さまぐらいしか着ないよね!? 閉ざされた夜の世界のドレスだよこれ!?」


 騙されてる。

 騙され過ぎてるよ。

 お姫さまはこんなの着ちゃダメだろう。


 どうにかしたいが、ダメだと言っても、イヤイヤして、諦めてくれない。


 絹だもんなあ。

 絶対に高級品だよなあ。

 肌触りがいいし、こんなおべべはなかなか着られないよなあ。

 そりゃ、手放せないか。


 うーん。

 まあ、水着みたいなモノだと思えば良いのか?

 タマゴをお腹に巻き付けるから、どうせアホっぽい見た目になる。

 人に会うことも少ないだろうし許してあげようか。

 ラビの中ではこれが、お姫さま。

 これが、奴隷なのだ。


「わかった。好きにしていいよ」


「着ても良いのです? やったぁ。早速着ちゃうのです」


「ちょ、まてい! 女の子が男の前で脱ごうとするんじゃあない。いいか、こう言うのは──」


 正しく、恥じらいを教えるため、ラビに説教してやった。


 恥じらいが足りなすぎて先が思いやられるわ。

 いや、たちしょんとニオイを嗅ぐのは恥ずかしがっていたか。

 恥じらいのポイントが掴めん。


「恥じらいの大切さは良く分かったのです!」


「そうか、なら良いんだ。着替えて良いよ」


 説教を終えると、待ってましたと言わんばかりに目の前で脱ぎ出した。


 何も伝わってねぇ!


 後ろ向いとくか。


「ご主人さま! ラビに似合ってます?」


「ああ、すごく似合っていてカワイイよ」


 ウサギの獣人にバニースーツだからな。

 そら似合うだろう。

 タマゴを温める為にお腹に巻いた布が腹巻きみたいでマヌケだけど。


 何とか支度がすんだので、ラビを抱えて空を飛んだ。


 首輪と鎖が命綱。

 鎖は腕に巻き付けた。


 首輪は、ラビにとっては王様の王冠。

 いや、お姫さまだからティアラだっけ?

 そんなものだと刷り込まれている。

 だから、これも外せないんだが、空を飛ぶにはちょうど良い。

 首を吊ってしまうが、なければラビを落としてしまうしな。


「あ、海なのです! 青くて澄んでてとても綺麗なのです」


「ああ、海だな。待ちに待った海だ」


 塩が作るので海には来たかった。

 海産物も期待できるし。

 しかし、これは。


「海しかNEEEEEEEEET!」


 海岸、砂浜通り越して、辺り一面海だった。


「これじゃあ、着地出来ないから今日はお休みだね」


 流石に水上から飛び上がるのは無理だし、そもそも、俺は泳げない。


 塩は惜しいがこれは無理だ。


 仕方がないので俺は城なしにとんぼ返りした。

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