七話 そうだ焼きいもしよう
迫る尿意、迫られる選択。
俺の楽園に歴史が刻まれたりした。
ラビにタマゴを巻き付けた。
いい感じに日が暮れてきたので焼きいもをしようと思う。
そんなわけで、ウエストポーチから枯れ葉を取り出して盛ってみた。
うん。
情緒もへったくれもないな。
竹ぼうきでサッサッサッと葉っぱを集めて盛りたかったがそんなものはない。
と言うか葉っぱをウエストポーチから出した時点でなんか違う気がする。
まあ、ともかく俺はこれを一度やってみたかったのだ。
落ち葉で焼き芋。
前世は世知辛い世の中で、焚き火なんぞしようものなら、赤い鉄の塊が勢いよく飛んで来かねなかったから出来なかった。
石油ストーブの上にアルミホイルを巻いたいもを転がすのがせいぜいだ。
あれはあれで味があったが、やはり焚き火で焼きいもをしてみたい。
「ご主人さま? 葉っぱを山にしてなにをしているのです?」
「これでお芋もを焼こうと思ってな。甘くてホクホクして芳ばしくて美味しいぞ」
「甘くて。ホクホクして。こうばしい。みっつも美味しいがあるのです!?」
ラビが俺の言葉を歌うように弾ませておうむ返しすると期待に満ちた目で問うてくる。
焼き芋とはかけ離れたなにか別のものを期待されている気がしてならない。
どうしよう。
急きょ予定を変更して別のにする?
スイートポテトなら頑張ればいける気がする。
ああダメだ道具がない。
良く考えたら道具どころか、料理を載せるための器すらない。
あれ? ラビの“ご主人さま”するのは無謀だった?
「ご主人さま? なにか考えごとをしてるのです?」
「ん、ああ。がんばってラビに相応しいご主人さまにならないとなって考えていたんだ」
「えっ? ご主人さまはもう十分立派なご主人さまなのです。何度も危ないところを助けてもらったのです!」
そんなどこぞのヒーローみたいなご主人さまが焼き芋か……。
いや、焼き芋だって捨てたもんじゃないハズだ。
前世で今とは比べ物にならんぐらい旨いものを食っていた俺が、焼き芋を心密かに楽しみにしている。
だから、ただ焼いただけの芋でもきっと満足させてあげられるに違いない。
ん……? ただ焼いただけの芋?
「あれ? なんで焼き芋を知らないんだ? この辺に住んでたなら食べたことも──」
あっ、いかん失敗した。
過去は詮索しまいと決めたのを忘れていた。
「ラビはお舟に乗って遠くからやって来たから、この辺りに住んでないのです」
「そ、そうか……」
やっぱり、色んな過去を思い起こさせてしまいそうでまずい。
しかし、遠くからか……。
まあ一日で別世界だ。
考えても仕方がないか。
そんな事より芋をたらふく食わせてあげよう。
「スタイリッシュ着火!」
「えええええ!? そんなので火がついちゃうのです!?」
いちいち大げさに驚いてくるラビがいとおしい。
ラビが来てくれて良かった。
「おっと焦げちゃう。ひっくり返さないと」
「ラビがやるのです!」
「んんー……」
さてどうしたもんか。
火を子供に任せて良いものかと疑問がある。
子供と言っても歳が一桁なんて事は無いと思うが……。
「なあラビ。ラビは何歳なんだ?」
「えーっと、生まれてから何年たったかは、ちょっとわからないのです」
「そ、そうか……」
この世界では歳を数えたりもしないのかな。
前世と違うなら前世基準で考える必要もないか。
しっかりと火の扱いを教えよう。
幸い城なしには何もないから火事の心配はない。
「いいかいラビ。火は熱い。触れば火傷するし、扱いを間違えれば大切なものまで燃えてしまう」
「大切なものも燃えちゃうのです?」
「そうだ。ラビのお耳やまあるい尻尾が、この落ち葉の燃えかすみたいになったら悲しいだろう?」
「ラビのお耳や尻尾が……」
こういうのは視覚に訴えた方がいいな。
どれ、良い感じに燃えてそうな落ち葉はと──。
カサッ。
「ひええええ。ラビのお耳や尻尾がこんなになっちゃうのです!?」
つついたら、崩れ落ちる落ち葉の様子を見せるのは十分に効果があったみたいだ。
まあ、ここまでなるまでなにもしないなんてあり得ないだろうけど……。
怖がらせておいたままの方がいいかな。
「そうだ。火はとてもおっかないものなんだ。だから火を扱うときは慎重にね。俺がいないところで火をつけたり、火の付いた棒を振り回して遊んだりしたらダメだよ?」
「わかったのです!」
「それじゃあ、お芋の面倒をラビに任せるよ。こまめにひっくり返さないと焦げちゃうから気を付けるんだ」
ちょっと脅かしすぎたかな。
細剣振るうみたいに芋つついとる。
しかし、こうしていると落ち着くなあ。
ぱちぱちとやさしく燃える落ち葉。
ゆるゆると登る煙。
芋の焼ける芳ばしいかほり。
やはり、焼きいもは良いものだ。
これぞ由緒正しき焼き芋よ。
なんて、油断していたところへ。
「いっぱい葉っぱ燃やした方が早く焼けそうなのです。えいっ!」
「えっ?」
止めるまもなく、おもむろにラビが大量の落ち葉を抱えて焚き火に突っ込んだ。
ボフン……。
しかし、火は強くならず、それどころか煙ばかりがもくもくと辺りに漂う。
「ケホッ、ケホッ。目に染みるのです」
「葉っぱはたくさん入れれば良いってモノじゃあないぞ。ほらっ、こっちを向いてごらん。ラビのほっぺがお煤だらけだ」
布で煤を拭ってやる。
ラビのほっぺはふにふにとやわらかくて……。
むう、拭きにくいな。
ひっぱって拭くか。
みよーん……。
おお、よくのびる。
「ぼひゅじんさば。ラビのほっぺをひっぱちゃダメなのです」
「痛いか? もうちょっとだからガマンしておくれ」
「ラビのお顔の形が変わってしまうのです」
「変わらない変わらない」
「ひっぱったところが、びらんびらんになって、ラビのお顔がびらんびらんだらけになってしまうのです!」
「それは怖いな! ほら、もう終わったぞ」
いや、しかし、ほんと怖いな。
びらんびらんお化けを夢に見そうだ。
「良い臭いがしてきたのです」
「どれどれ、ちょっと棒を貸しておくれ」
「はいなのです!」
ラビから棒を受けとると芋に突き刺してみた。
「うん。もうそろそろ食べられそうだ。ほら、棒が芋にすっと通るだろう?」
「棒がおいもに通るのが食べられる様になったしるしなのです?」
「そうだよ。堅いところが残っているとイマイチだからね。ほらっ、食べてごらん」
いもを棒に刺してラビに棒ごと握らせる。
「それじゃあ、いただきます……。あちち……。れもおいひいのれす」
「火傷しないようにね。あと、食べてるときはお口を開けたままじゃあダメだ」
期待に応えられる代物か心配したけれど、大丈夫そうだ。
さて、お味はどんなもんかね。
ふむ……。
外側の皮がちょこっと炭になったがこれで良い。
そんなさつま芋の皮はパリパリした歯触りで楽しませてくれる。
中の黄色い部分は、ほっこりしていて、甘すぎず、しかし、決して物足りなさを感じない甘みで食欲を掻き立てる。
旨い。
もう魔物の肉なんぞ食べたくない。
さつま芋がいい。
気づけば全部平らげていた。
「ふう、食った食った」
「毎日でも食べたいのです!」
「そうだな。毎日食べられる様にしよう。そしたら、飽きてしまいそうだけどね」
飽きたら別の食べ方をすればいい。
時間と手間さえ惜しまなければ作れそうな料理に心当たりがある。
今から収穫が楽しみだ。
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