三話 ナイフ一つで着火する
城なしに楽園を築き上げようと決意した。
仲間との合流は諦めぼっちになった。
あと、城なしが迎えに来た。
城なしの謎は考えてもわからないので今は忘れよう。
拾ってきた物で色々と作らないと。
しかし、こうしてみると何だか無人島生活みたいだな。
空だし、岩だし、水場しか無いけど。
無人島に一つだけ持って行くなら何を持って行くか何て考えた事あったけな。
はて、俺は今何をどれだけ持っているんだっけか。
どれ一通り持ち物をチェックしてみるか。
持ち物
ウエストポーチ(マジックアイテム)
アイテムボックス【防具 布】
アイテムボックス【武器 鉄】
肉
ナイフ
素材
石、木、草、葉っぱ
魔法
【放て】 魔力を直接ぶつける物理系魔法
アイテムボックスって言うのは、ダンジョンの宝箱から手に入るポピュラーなもの。
付属されたカタログから好きなものを選んで、これが欲しいと願えば手に入る。
【防具 布】【武器 鉄】というのは、材質を示している。
例えば布の服、鉄の剣といった具合だ。
このアイテムボックスは、ダンジョンに潜れば簡単に手に入る。
が、いつダンジョンが見つかるかわからないし慎重に選ばないと。
肉は魔物を倒せばいくらでも手に入るから、取り敢えず、ウエストポーチに突っ込んだのがそのまま入っている。
ポーチに入れておくとどう言う分けか腐らないので新鮮だ。
魔法は……。
これは道具といって良いものか。
まあ、似たようなもんだろう。
一撃は強力なので魔力全部込めれば大抵の魔物は倒せる。
ただ、コストパフォーマンスに優れた魔法ではないので魔物に対する切り札だ。
一度使ってしまえば、再使用に数時間は掛かるのでその間は丸腰みたいなもんだ。
生半可な武器では魔物は倒せないので、後は死に物狂いで逃げるしかない。
ともあれ、無人島に一つどころか、複数便利アイテムを持った状態で、漂流したと思えば悪くない。
もっとも、これでも少ない方なんだがな。
と言うのも、俺は盾役だからあんまり荷物持てなかった。
盾といっても肉壁だから、ウエストポーチを魔物に破壊される可能性があったからだ。
破壊されれば中身はロストしてしまう。
そんな訳で、貴重品から替えの服に至るまで仲間に預けていた。
こんな事になると分かっていたなら、もう少し物を詰めておいたんだがな。
グウウ……。
おっと腹の虫が鳴いた。
飯にするか。
しかしまずはかまどを水源のそばに作るとしよう。
材料は石を4個。
本来なら燃え広がるのを防いだり、風避けの為に石をたくさん使って組むんだろう。
が、ここに燃える物はないし不思議とここは弱い風がたまに吹く程度だ。
雑でよい。
さっそく石をウエストポーチから出して並べていく。
するとそこで不思議な事が起こった。
俺は確かに石を出して置いたハズなのに、目を離した隙に石が消えたのだ。
「えっ?」
いや、俺がボケてて実は出していなかったとか?
いやいや、流石にそれはないわあ。
でもそれならならどういうこっちゃ。
もう一度石を置いてみるか……。
ゴトリと置いた石とにらめっこ。
消えないな……。
気のせいだったのか?
しかし、更に石を出そうと目を離したと隙に石は無くなっていた。
「うおっ! なんだこれ!?」
目を離すと消えるのか。
誰もいない筈なのに石が消えて無くなるとかホラー過ぎるわ!
城なしにはお化けとか幽霊とかゴーストとかそう言った類いのモノでもいるのか?
目に見えないモノは信じない派なんだけど異世界だから、いても不思議じゃあない。
消える瞬間を見れば何か分かりそうな気がする。
目を反らすと消えるなら、そのフリをして誘い出せば何かが分かるかもしれない。
よし、やってみよう。
石を出して、視線を反らすフリをして──。
石を見る!
するとどうだろう。
石が地面にめり込んでるではないか。
うん、地面は岩なんだけど!?
なにやら岩に石がめり込むと言うとんでもない絵面になっている。
俺が見ちゃったから、途中で止まったと。
何で見られると止めるんだ?
ワケがわからん。
うーん。
石がめり込んでるのは何でなんだ?
岩に石を取り込んでるのか?
まさか、城なしが喰っているとか?
やはり、城なしはただの岩ではない様だ。
腹一杯になれば食われないかな。
試してみるか……。
かまどに必要な分だけ残して、別の所に全部石を出して見た。
何も起きないな。
警戒しているのか?
腹一杯になれば食われないかなと思ったんだが。
まあ、食われないなら作業を続ければいいか。
ゴトッ、ゴトッ、ゴトッ、ゴトッ……。
俺は石を並べてかまどに見立てた。
そして、薪がわりに枝や朽ち木を中へ入れれば完成だ。
「さあ! 着火だ!」
俺はこれをやってみたかった。
ナイフ一本で火をつけるとかロマン溢れてて良いよな。
仲間と一緒に行動していた時は魔法一発即着火だったからな。
情緒と言うモノが無いのだよ。
まるで、なっていない。
サバイバルならナイフ一本で火をつける。
これだろう。
えーと。
木の棒と板をこ擦り合わせるんだったかな。
手頃な木の棒を削ってと。
シュッ、シュッ、シュッ……。
こんなもんか。
ボコボコしているし心なしか曲がっているけれど、大丈夫だろう多分。
俺に器用さなどない。
次は落葉をグシャグシャにして粉にした。
これを先ほど木を削った時に出た木の皮とあわせて置いて置く。
そして、割りと平たい木切れを膝で踏みつけて地面に固定し、木の棒を手に持てば準備完了。
ふふ。
これだよこれ。
やってみたかったんだよ。
着火と言えばこれだろう。
後は両手の平でひたすらよじってこ擦り合わせれば……。
よーしよしよし、温かくなってきたぞ。
もうすぐ火がつく。
もうすぐ火が……。
火が……。
「火がつかNEEEEEEEEET!」
全然つかない!
何でだよ。
原始人どうやってたんだよ。
擦れど、擦れど、棒と木切れが温かくなるばかり。
やはり、ナイフ一本で火をつけることは不可能なのか?
男のロマンは諦めるしか無いのか?
なーんてな。
俺はもっとかっこいいスタイリッシュな着火を知っている。
ナイフがちょっぴり傷むがやむを得ん。
こっちの方がかっこいいしな。
俺はナイフをウエストポーチから取り出すと、手に握って石を切りつける。
ガキッ……!
ほら、火花出た。
この火花を使って着火するのだ。
剣と剣がぶつかり合って火花が散るとか言うが、実際あれも本当に火花が散る。
何の原理で火花が出るのかは知らない。
子供のころ、庭の草を刈っている最中に、鎌が石に偶然当たって火花を散らし、楽しくなって火花散らせまくって遊んだ事がある。
無論、親に殴られて俺の目からも火花が出たが……。
まあそこからヒントを得たのだ。
さて、火花が出せたなら、それを枯れ葉の粉に落せば良い。
粉が赤くチリチリと燃え出したら、燃えやすい順に火を移して、ふーふーと息を吹きかける。
すると、ほーら火がついた。
後は石を乗せて加熱させ、この上に肉をナイフで削って焼くだけだ。
シャッシャッシャッ。
ジュワー……。
うん、芳ばしい。
おっと、ひっくり返して両面焼かないとな。
俺は二本の枝を箸にしてひっくり返そうとした。
だが。
「肉が石に張り付いて取れNEEEEEEEEET!」
まあ、こうなるわな。
仕方ない、枝に刺して焼こう──。
そんな訳で待つこと五分。
──焼けた!
さあ、食べてみよう。
肉を口に放る。
すると淡白な味わいが舌いっぱいに広がり、脂が舌に絡み付いてくる。
歯応えがあり、噛みしめる度に肉汁が飛び出してくるではないか。
ただ焼いた肉が、ここまで楽しませてくれるとは。
まったく、酒と塩が欲しくなるな。
楽しい食事が終われば次は寝床だ。
火を起こすのに時間が掛かりすぎた。
もう暗くなり始めているから、急がないといけない。
材料は木の枝と草と葉っぱをありったけ。
二本の枝を斜めに立てて、上の方を交差させて草で縛る。
それを二組用意して上に一本枝を渡して草で縛れば骨組みは完成だ。
これに枝を立てかけまくって、草を載せまくれば屋根に。
葉っぱを中に大量に入れて床にする。
「はい完成。見てくれ悪いが今はこれで良いだろう」
今日は色んな事があって疲れてしまった。
もう寝よう。
葉っぱの床に寝転がると目をつむった。
明日は何をしようか。
城なしは石を食べるみたいだし、たくさん取ってきたらなつくかも知れない。
なついたら俺を迎えに来てくれるどころか、俺を待ってくれる様になる気もする。
後はそうだな、水源に直接手を突っ込みたくないから川を作ろうか。
体も洗いたいし。
それから……。
そうやって、明日の事を考えているうちに、俺はいつの間にか眠りについていた。
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