二話 俺を迎えに来る不思議な城なし

 仲間とはぐれた。

 城のない天空の城を見つけた。

 『城なし』と名付けた。



 そして、着地してみて驚愕した。


「寒くないだと!?」


 どうなってるんだ?

 高く飛べば飛ぶほど寒くなったのに。


 ついでに息苦しさ何かも感じていたんだがそれもない。


 しかし、都合は良い。


 これで文字どおり、ゆっくり羽を休ませられる。


 割りと平らだが、軽くボコボコとした地面に俺はねっころがった。


 立っていたときは気がつかなかったけど、城なしは線香が燃え尽きたような臭いがする。


 長いこと太陽の光に焼かれていたからそんな臭いがするんだろう。


 だが、この臭いは嫌いじゃあない。


 眠気を誘う心地の良いものだ。


「くはーっ。疲れたわあ。これからどうしようかなあ。仲間とはぐれてしまったから、森の中は怖いし」


 この世界には魔物がいる。

 見た目は動物と変わらない。

 出会い頭に襲いかかって来るのが魔物。

 それ以外が動物。


 魔物ってヤツはどいつもこいつもデカくて、力があって、すばしっこい。


 基本一撃食らったら即死だ。


 俺にだって魔物を倒す力はあるけど一人はしんどい。


 仲間と合流するにはどこまでも広がる森に戻らなければならない。


 でも、寝たら死にかねないし、不眠不休で森をさまようとか無理だ。


「仲間との合流は諦めて、一人で生きていく覚悟を決めるかしかないよな……」


 元々は人との繋がりを絶って一人で生きて行きたかったし、本来の姿であるボッチに戻っただけだ。


 それに仲間は俺が居なくても余裕で生きていける。

 合流が絶望的な以上、自分の事だけを考えよう。


 そうと決まれば取りあえずここを冒険してみるか。


 お宝が、眠っているかもしれないし。


 そう考えて辺りをうろつき回ったんだけど、あまり大きくないので、あっという間に冒険は終わってしまった。


「天空の城なしの大きさは俺100人分。中央に水源あり、お宝なし!」


 なお、俺100人分と言う数字は実際に100回ねっころがって調べたので信用に足る数字である。

 以上。


 って、ただの岩じゃねーか!

 思わせぶりな格好しやがって!

 ダンジョンとかあってもいいんだぜ?


 まあ、水源の方はありがたかったな。

 雲の上にあるのに水があるのは謎だったが。


 湖と呼ぶには小さく、池と呼ぶにはあまりにも水が澄んでいた。


 しかしそれだけだ。


「はーあ、ただの安全地帯かよ……。ん? 安全地帯? そうか! そうだよ! ここに住めばいいんだ!」


 ここなら一人でも生きていける。

 幸いにも最低限必要な水がある。

 魚を放して養殖してもいい。


 後は岩しかないが、土なんて地上から持ってくればいいし、土があれば畑が作れる。


 実のなる木を持ってきても良い。


 他人からみればただの浮いている岩にしか見えないだろうけど、俺にとっては楽園だ。


 翼のある俺だけの楽園。


 ただの岩の塊がどこまで可能性を秘めているのだろう。


「よし、俺はここに楽園を築き上げる!」


 早速行動開始だ。


 と思ったが計画は必要だろう。

 まずは食う寝る出すだよな。


 食う。

 食料は取りあえずはあるが加熱する必要がある。


 かまどが必要になるな。

 かまどと言っても石を切り出したり、粘土で作るわけじゃない。


 そんな知識と技術はないわ。

 河石拾って来て組むだけだ。


 寝る。

 寝床は夜までに間に合わせる必要がある。


 酔っぱらって夜に外で寝た事があるが、からだが冷えきって死ぬかと思った。


 冬じゃなくても人間外で寝たらダメだ。


 家は大事。


 出す。

 便所はどうするかな。


 土がないからその辺掘って埋めるとかはムリだ。

 しかし、文明人として、野ざらしにもできない。

 しばらくは、地上で済ませるか……。

 すぐに必要なモノじゃあない。


 よし、計画はまとまった。

 かまどの材料と家の材料があれば良いか。


「取り合えず、石と木と葉っぱを拾って来ますかね」


 俺は気合いを入れ直すと再び空の世界に舞い戻った。


「くっそ寒い!」


 外は相変わらずの寒さだ。


 寒いならとっとと、下まで降りれば良い話だがそうはいかない。


 この雲の形を覚えなければ見失ってしまう。

 雲の下をぐるりと旋回して形を覚える。


「雲の下からは見えないよう隠されている。でも、ただの岩か」


 さて地上に向かうとするか。

 昇りは時間が掛かるが下りはビュンビュンだ。

 急降下最高!


 おっ、城なしは結構な速さで飛んでいるんだな。

 森を抜けているじゃないか。

 あの崖の上に降りるとしよう。


 俺の翼は、羽ばたいて浮き上がるようにはできていない。


 できたとしてもやりたかないわ。

 何千回翼を振るえば浮き上がるんだって話。

 絶対過労死するよね。


 そんなわけだから、高所から飛び降りて勢いをつける必要がある。


 そこで、崖の上に着地すると言うわけだ。


 俺はゆっくりと速度を殺して着地すると、即座に石や木や葉っぱを集めた。


 そして、手当たり次第にウエストポーチに詰め込んでいく。


 このウエストポーチ、実は魔法の道具で、この世界ではマジックアイテムと言うらしい。


 見た目に反して大量に物を入れられるスゴいヤツ。

 加えて、重量はウエストポーチ分だけと言う正に魔法の道具、マジックアイテムだ。


 ダンジョンのボスの戦利品。


 仲間と一緒に冒険した証で、俺の宝物。


 まあ、このウエストポーチの口にサイズが合わなけりゃ、入らないけど──。


 おっと、もういっぱいいっぱいだな。

 入りきらずにはみ出してきた。

 そろそろ城なしに戻りますか。


 で、空を飛んで城なしに戻る段階になって気が付いた。


 いくら、城なしに迫ろうとしても叶わないのだ。


 いったいどうして……。

 ああ、そうか!

 城なしは飛んで移動しているのだ。


 それに同じ速度で飛んで追い付けるわけがない。


 俺の方が早いが、ちょっと早いぐらいじゃ焼け石に水だ。


 何で気が付かなかったんだよ……。


「クソッ、せっかく楽園を見付けたのに諦めてたまるかよ!」


 俺は追い掛けるのをやめなかった。


 するとどうだろう。

 ある時を境にして城なしに近づき始めたではないか。

 まるで、俺に城なしが気付いて迎えにきたみたいに。


「なんだ? いったいどうなってるんだ?」


 ただの岩ではなかったのか?

 しかし、なんでまた俺を迎えに?


 わからん。


 でも悪いモノではなさそうだよなあ。

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