空を飛ぶしか能がないから空の上で暮らすわ 〜ご主人さまはすごいのです!~

つばさ

一章  まずはウサギ小屋から始めよう

一話 仲間とはぐれて俺ぼっち

 俺の名前は出飼翼いずかいつばさ

 元ニートの転生者で今は冒険者をやっている。

 転生時に多少の手心を加えてもらったので容姿は人並み。


 そんな俺は白くて大きな翼と三つのスキルを持っている。


 何でも思い通りの形で転生させてくれると言う女神さまに空を飛びたいと願ったからだ。


 しかし、スキルは空を飛ぶためだけにあるので大したスキルじゃあない。


 【有翼飛行】主に翼を支えるための筋力を補う。

 【落下耐性】空から落ちても死なない。

 【風見鶏】 風が見える。


 パッとしない大変地味なスキルだ。


 だが、これだけ空を飛ぶためのスキルを持っていても思い通りに空を飛べず大変苦労した。


 例えば転生した直後は、空の上から始まるイカした計らいだったんだが翼を動かすことができずに墜落。


 【有翼飛行】では、翼を動かす感覚まではカバーできなかったのだ。


 それでも【落下耐性】のおかげで即ミンチは避けられたが致命傷。


 この世界に魔法なんてものがなければ死んでいた。


 他にも【風見鶏】の使い方が分からなくて高度を上げられずに落下したり。


 着地の仕方が分からなくて、やっぱりグチャグチャになったり。


 滝壺に落ちて溺れたり──。





 もうね。もう俺お空飛べなくてもいい。


 イモムシみたいに地べたを這いずって生きていく。


 そんな風に考えてふて腐れたいた時期もあった。





 だが、それも全ては過去の話。




 俺は今、初飛行に成功して空の上にいる。


「ようやく空を飛べた……」


 口もとが緩む。


 翼が風を切り、風を受け、風に乗る。

 するとどこまでも続く森が川の様に流れていく。

 そんな地上の様子を眺めるのは気分が良い。


 ふと、視線を離れたところに移せば、巨大な熊の魔物が、木々の間から頭だけを突きだしていた。


 魔物が動くだけで、雑草を踏み散らすかのように木が薙ぎ倒されていく。


 だが、そんな恐ろしげな光景も空の上ではどこか別の世界の出来事の様に思えた。


「これが空を飛べる者の世界……」


 やっぱり空を飛びたいと願って良かった。

 諦めないで本当に良かった!


 心の底からそう思った。


 むっ、感動している場合じゃあない。

 高度が下がってきている。

 高度を上げないと──。


 さて、俺の視界に移るのは地上の様子や、青い空だけじゃあない。


 【風見鶏】の効果で風の流れる様子が、砂を空にぶちまけた感じで視覚化されている。


 これは焦点を合わせたところだけが強調されるので邪魔にはならない。


 ──下から吹き上げる風はどこかにないかな。


 おっ、あったあった。


 見つけた風に翼をのせる。

 すると風を受けた翼が俺を持ち上げる。


 ふわっとした感覚がたまらん。

 気持ちが良いなコレ。

 しばらく空の散歩を楽しもう。


 だが、すぐに思い直す。


 おっといかん。

 遊んでいる場合じゃあない。


 この深い森を抜けるために地形を覚えてそれを仲間に伝えないといけないんだった。


 とは言え、見渡すかぎり森だらけだ。

 隙間無く木で埋め尽くされて終わりが見えない。


 空を飛べば森の出口も見付かると思ったんだけど甘かったか。


 それでも延々と続く森の上を進んだ。

 いくらなんでも終わりのない森なんてない。


 そんなふうに考えて。


 しかし。


「ダメだ。キリがない。一度仲間のところに戻ろう」


 結局、森の出口は見つからなかった。


 そして、諦めて引き返そうとしたところで問題が発生した。


 俺はまっすぐにうつぶせをする姿勢で、羽ばたかずに風を受けて空を飛ぶ。


 だから、その場で止まって振り返るなんてできない。


 つまり来た道を戻るには、ゆっくりと弧を描いて旋回する必要がある。


 だが、どこまで旋回しても森なのだ。

 どこへ向かえば仲間のところに戻れるのかわからなくなってしまった。


「うわっ。まずい。迷子になった」


 こんなの海の上を飛んでいるようなものだぞ。

 どうすりゃいいんだ。

 高度を上げて視野を広げればなんとかなるか?


 しかし、少し高度を上げたぐらいでは何も変わらなかった。


 ダメか。

 もっと高度を上げればいいのか?

 もっともっと──。


 そして、気がついたら雲の上にいた。


「ぶえっくしょん!」


 さ、寒い。

 鼻水が凍ってるわ。

 くしゃみしたら氷が飛んでったもん。

 さすがにやりすぎだ。

 もう地上が見えてないし!


 もはや迷子になったなんてレベルの話ではなくなってしまった。


 これでは仲間との合流はできない。

 このままずっとぼっちになったらどうしよう。

 一人で生きていく自信なんてない。


 仲間だって俺が空からの情報をもって帰らなければ困るはずだ。



 むっ……。本当にそうか?



 そもそも、ずっと森でした。そんな情報がなんの役に立つんだって話だ。それに仲間は優秀だから、きっと空からの情報がなくてもきっと森を抜けられる。


 俺の仲間は──。



 転生させる側の存在で、転移者であり、この世界を知る大賢者の少女。


 なんでそんなの選んで転生したのか、魔法も使える不死身のスライム。


 瞬時に五本の矢を放ち、ついでに男女問わず瞬時に手を出す転生者である兄エルフ。


 兄には劣るが、優れた弓の技術を持ち、森に愛され祝福された妹エルフ。



 魔物どころか、ドラゴンや精霊。悪魔や魔王。天使や神にだって勝てそうな面々だ。





 俺、空飛べる……。




 あれ? 俺要らなくない?





 なんだか悲しくなった。


 同じ姿勢で疲れてきたしもう休みたい。

 体もだいぶ冷えてしまった。

 高度を下げよう……。


 しょぼくれて。

 半ば自棄気味に体を地上に向かって傾ける。

 すると不思議なものが目についた。


 なんと雲の上に島が浮いていたのだ。

 例えるなら天空の城の土台。

 もちろん城はない。


 ただの岩の塊だ。


 なんじゃこりゃ?

 どういう仕組みで飛んでいるんだ。

 何でこんなものがこんな所にあるんだろう。


 しかし、休憩するには良さそうだ。

 果たして着地しても良いものなのか不安ではある。

 でももう一息つきたい。


 考えるのをやめて着地しよう。


 城のない天空の城。

 だから『城なし』と名付けてやろうか。


 そんな城なしもまた空を飛んで移動している。

 だから着地がなかなかに難しい。


 それでも意を決して地に足つければ、ずっこけて転がりながらも、なんとか城なしに着地できた。

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