10杯目 盗るに耐えない作品の話

店の看板を仕舞った後、俺こと過波去紅舞かなみさくまはカウンター席に1人座っていた。


「みんな、喜んでくれてたな……」


誰かに喜んで貰える時は、初めは嬉しかったが、この店をやっていて段々と当たり前に変わっていってしまっていた。

感覚としては間違いでは無いはずだが、やはり、慣れとは怖いものである。


「さてと、そろそろ片付けを……」


去紅舞は、カウンター席から立ち上がり、厨房内に戻ろうとしたが、


カランコロンカラン


店の扉を開く音がしてしまった。

入って来たのは、ワイシャツにスーツのズボンと言ったところの会社員らしき男だった。


「いらっしゃいませ、本日はもう営業していなくて……」

「……」


男は去紅舞を無視してカウンター席に座る。

そして、


「……オリジナルブレンド1つ」


ぶっきらぼうに注文した。


「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」


去紅舞は、カウンターの中に入っていつも営業で使用しているコーヒーミルとは違うコーヒーミルを取り出し、普段は開けない左の戸棚からオリジナルブレンドと書いてある袋を取り出す。

袋の中の豆を小さい片手鍋に適量入れる。

そして、豆を炒り始めた。

数秒おきに軽く鍋を振り、炒り初めて1分ほどしたあたりで、片手鍋の火を消し、コーヒーミルに豆を入れて、煎じ始めた。

ガリガリとコーヒーミルを回し煎じる音とコーヒーの香りが店内に広がる。


「いい薫りだ、日々の積み重ねによる努力が出せる薫りと言ったところか……」

「それはどうも」


それから数分程して、コーヒーミルを回すのを止めた。

ドリップ器にフィルターを入れ、焙煎した豆を入れる。

そして、お湯が沸く少し手前でコーヒー豆にポットを回しながら、お湯を入れる。

フィルターの縁で表面張力により、泡が浮き上がる。

泡が収まり、フィルターからコーヒーが落ち終わると、また回しながらお湯を入れる。

蒸らしながら淹れて行くことにより、店内には先程よりもコーヒーの薫りが広がる。


「この薫りで、時間の感覚が薄れていきそうだ……」

「まあ、忘れそうなら、忘れる前にお会計をお願いします」

「手厳しいですね」

「当たり前です、商売ですから」


去紅舞はそう言うと、コーヒーを差し出した。


「お待たせ致しました、オリジナルブレンドです」

「ありがとうございます、早速……」


客はオリジナルブレンドを1口飲んだ。


「優しい味ですね、深みもありますし、コーヒーの美味しさが全面に出ていて、一息の幸福が味わえる、本当に究極のコーヒーって感じがします」

「お気に召されたのなら、それは、良かったです」

「それでは、本題に……」

「そうでしたね……」


去紅舞は、椅子に腰かけた。

そして、


「君は一体、過去に何を忘れてきたのかな?」


いつも通り優しい口調で言った。


「俺の忘れた物は、後悔です」

「詳しく聴いても?」

「勿論です……」


去紅舞は、残っていたコーヒーをカップに注ぎ、カウンター内の椅子に客と向かい合う形で座った。


「どこから話しましょうか。かなり長いので、長時間付き合っていただくことになるかもしれませんが……」


申し訳なさそうに言う客を見て、


「構いませんよ、今日は、もう閉店の予定でしたので」


去紅舞は、笑顔で答えた。


「ありがとうございます、それでは、語りますね。僕の後悔を……」


そう切り出し、客は話し始めた。











__________2ヶ月前


「ダメです」


冷酷に切り出したのは、Tシャツにジーパンというラフな格好をしている編集者らしき人だった。


「ダメとは、どこがどうダメなのか教えてもらえなければ、直しようが無いので、詳しく教えてください!」


男性は食らいつくように答える。


「いや〜、なんかさ、最近の絵がね、あまり人気の出そうな絵じゃないんだよね。だから、別の人にお願いした方が、いいものが出来ると思ってるわけよ。分かる、言ってる意味?」


この時、イラストレーターらしき男性は、血が出そうなほどの力で拳を握りしめていた。


『悔しい、でも、それが現実で、自分はチャンスをモノに出来なかった負け犬なんだ』


と内心では理解していた。

理解していたが、認めることが出来なかったのである。

だが、もう1つの考えが、


『まだ、編集部で見てくれたのはコイツだけだ。なら、コイツ以外の編集部の人に見て貰えたら、もうワンチャンス、あるんじゃないのか?』


と言うことが脳裏を過った。


「それじゃあもう行くから、今後は来ないけど、次の編集社では頑張ってくれたまえよ〜!」

「あっ、ちょっと!?」


そう言われて、イラストレーターはその場に立ち尽くしてしまった。


「なんで、どうして、こんなにも人生は難しいのだろうか……」


そのイラストレーターは、その場に座り込んだ。

そして、泣き出した。


『もういっその事、このまま楽になりたい……』


そう過った時、正気に戻った。


『自分にはまだファンがいる!

そして、まだ応援してくれてる人が絶対にどこかに!』


と考えるようになっていた。

その頃には、TwItterやp〇xivを探るが、そこには既に自分を叩く意見や、『呆れた』『応援してたのに』などの意見が多く書かれていた。

そう、あの編集者はイラストレーターを使うだけ使って捨てたのである。


「うわぁぁぁぁっ!!」


イラストレーターは、発狂しながらモニターを突き破った。

あの編集者は、自分からアイデアを全てを奪い去り、挙句の果てには自身の立場や職までも奪おうとしているのだ。


「こんな世界に、もう居場所なんてないんだ……」


そう一言呟いた時、ピロンっ!とスマホの通知音が鳴った。


【貴方を〇〇さんがメンションでツイートしました。】


急いでスマホを開き、ツイートの内容を確認する。

どうせまた叩かれる内容なのは知っている。


『でも、それでも何処かに居るはずなんだ、自分だけの味方が……』


そんな一欠片の希望を抱きながら、ツイートを開く。


【世間では、イラストレーターの〇〇(@〇〇)さんが凄い勢いで叩かれていますが、僕はそう思いません。1度、〇〇さんにはお仕事の依頼をしたのですが(だいぶ昔だから覚えてるか分かりませんが)、納期の1週間前には完璧な仕上がりで納品されていたので、何かの間違いなのでは無いでしょうか。〇〇さん、僕は世間に何を言われても、貴方の味方でいるつもりです。これからも頑張ってください】(画像添付)


添付されていた画像は、イラストレーターが初めて受けた依頼で、自分の名前が世に出て自分の名が売れるイラストであった。


「な、なんで、なんで今更になって、涙が止まらんのや……」


イラストレーターは、泣き崩れた。

今まで頑張ってきたことは、間違いではなく、正しい事なんだって、間違いじゃなかったんだって認めて貰えたような気がしたのだ。


『自分の絵が、いつか誰かが喜んでくれること』


それが、イラストレーター自身の夢であり、本当に叶った瞬間なのかもしれない。


そのツイートのリプライには、


【でも、大手の依頼を蹴ったんだろ?そんなのこの業界では生きていけないよ】【そりゃあ、新人の頃とは全く違うだろ。今は多少納期過ぎてるだろ】【嘘つくなよ、偽善者】


などのマイナスイメージな言葉もあれば、


【だよね!あの人はそんな人じゃないよね!私もずっと味方です!】【他人の意見に引っ張られてバカなんじゃないの?今回だって、〇〇さんは悪くないよ!】【偽善者とか、嘘つくなとか言ってるけど、お前らは〇〇さんの何を知ってるんだ?】


と擁護や応援のリプライもあった。










それから3日後、例の編集社の週刊誌には、イラストレーターのネームまで完成させていた読み切りマンガが、別の超有名漫画家の絵で載っていた。


『盗作』


そう、あの編集者の男は、ずっとチャンスを伺っていたのだ。

読み切りで売上を伸ばすなら、やはり新参者よりも圧倒的大御所に描いて貰う方が売れると。

超有名漫画家は悩んでいた。イマイチ自分の作品が生み出せなくていたこと、自分には斬新なアイデアがない事を。

その2人が今回の事を計画していたのだろう。

TwItterを開き、検索をかける。


【今週の〇〇〇の読み切りマンガ、正直あの先生の世界観とズレてるし、どちらかと言うと〇〇さんのあの作品に近いような気がする。】

【#〇〇〇読み切り 今回のは、この先生の作品じゃないし、こういう系の作品は、あの絵柄じゃないと思う。】

【〇〇〇の読み切りマンガ、これ〇〇さんの作品の盗作なんじゃね?】


などの声が広がっていた。












「という訳なのですが、どうですか?」

「いや、どうですかと言われても……、お気持ちご察し致しますとしか言えませんね」


去紅舞は、話し終えたイラストレーターの男にそう伝えた。


「それで、貴方の依頼は?」

「あの時に戻って、ちゃんと自分の作品を取り戻す。そして、僕を信じてくださった人達に僕の絵柄で僕の作品としてちゃんと世に送り出します!」

「承りました、それじゃあ、先にコーヒー料金を……」

「あ、あの!僕、過去に戻るのとか、初めてなんですが、これ、少ないんですが、僕の全財産なんですが、これで足りますか?」

「……プッ、ハッハッハッハ」


去紅舞は、思わず吹き出してしまった。


「お客さん、ウチは過去に戻るのに金はかからねぇよ」

「そ、そうなんですか?」

「あ、でも、オリジナルブレンド代は払ってくれよ、160円」

「は、はい……」


イラストレーターの男は去紅舞に160円を支払う。

去紅舞は、「毎度あり」と言いながら受け取る。


「それで、過去に戻るのに必要になるものって……」

「過去に戻るには、寿命が必要なんだよ」

「じ、寿命!?」

「ああ、でも、今回はせいぜい4日戻るってところか?」

「いえ、企画会議のあった1ヶ月前に行われたネーム打ち合わせまで戻りたいんです」

「丁度1ヶ月ですか?」

「丁度1ヶ月です」

「なるほど……」


去紅舞は、1度椅子を立ち上がり、小さな小棚から、袋を取り出した。


「これは?」

「サービスだよ、とりあえず開けて1枚食べてみな」


不安気な顔をするイラストレーターに「ほら早く」と言わんばかりの顔をしている去紅舞。

恐る恐る袋から1枚取り出すと、それはクッキーだった。

黄緑色の生地にオレンジ色の焼き目、


「これは?」

「抹茶ミルククッキー、今度店で出そうと思う新商品だ。料金はいいよ、ほら、早く食べな」

「は、はい……」


恐る恐るクッキーを口に入れ、かぶりつく。

サクッ

と言う音が口の中に広がる。

咀嚼する度にミルクの甘さと抹茶の風味が広がる。


「……美味しい」

「だろ!!」


去紅舞は、「ニシシ」という顔をしながら答える。

その瞬間、イラストレーターは、目から一筋の雫が流れ落ちた。


「美味しい、美味しいよ!!うぐっ、美味しい!!美味しい……」


溢れる涙とは裏腹に、ただただ口はクッキーを求めているようだった。


「うん、辛かったよな。悲しかったよな。悔しかったよな。苦しかったよな。でも、全部抱え込む必要は無いんだ。たまには一息つていこうぜ!」


泣きながら袋の中にあったクッキーを残り全て食べ尽くした。


「どうだ、気持ち楽になったか?」

「うん、ありがとうございますマスター……」


涙を拭いながらイラストレーターは、顔を上げた。

その顔は、この店に入ってきた時とは違い、迷いが少し晴れていた。


「気持ちが晴れたなら、そりゃあ良かったよ。それじゃあ、そろそろ?」

「はい、戻ります。寿命ってどのくらいですか?」

「ん〜、多分だけど、1ヶ月なら、2ヶ月かな。1ヶ月戻ってやり直せるなら、安いものだろ?」

「ま、まあ、そうですけど……、寿命って気持ちなんじゃないんでしょうか?」

「さあ、どうだろうね。でも、貰うものは貰うよ」


そう言うと去紅舞は、再びイラストレーターの前に座った。


「さあ、どうするかい?」


去紅舞は、悪戯じみた笑みを浮かべながら問いかける。


「もちろん、戻ります。僕の作品は僕のものであり、他に誰にも渡したりしないんだ!!」

「決意は決まったようですね、それでは、コーヒーをまずは飲み干してください」

「何の為に……」

「まあいいから、騙されたと思って!!」

「わかり、ました……」


半信半疑のまま、イラストレーターの男はコーヒーを飲み干す。


「飲み干しましたが、何か変わるんですか?」

「焦んなって、じゃあ、目を閉じて戻りたい日の風景を鮮明に思い浮かべてください」

「……」


男は目を閉じ、その日を思い出す。


"夏の日、喫茶店、アイスクリーム、パンケーキ、編集長、胡散臭い編集者、そして、チラチラとこちらを覗く新入社員らしき編集者"


「はい、大丈夫です」

「そうですか、それでは、3つ!」

「はい?」

「3つです。私が3つ数えて、指を鳴らすと、貴方はその日に戻ります」

「はい……」

「力は基本一方通行なので、何か言うなら、今のうちにお願いします」

「そうですね、僕のマンガがこの世に出たら、この店に置いてもいいですか?」

「もちろんですよ、お客様優先なのが、当店でございますので」


去紅舞は、社交辞令のように言った。


「ありがとうございます、それが聞けて十分です。お願いします」


イラストレーターの男は、決意が固まった口調で言った。


「運命に抗う貴方に幸運を、1、2、3……」


パチンッ!!


という音が店内に響いたのと同時にイラストレーターの男は店の中から消えていた。


「きっと貴方なら、良い方へ過去をかえることが出来ますよ」


去紅舞がそう呟いたと同時に


カランコロンカランッ!


店の入店を知らせるベルが鳴った。

探偵らしき風貌の男が、入店してきた。


「お前にしては、遅かったじゃないか。依頼は終わったのか?」

「あぁ、なんとか証拠は掴めた。依頼人に渡せるし、何なら会って渡してきたぞ、去紅舞。あ、あと、これは依頼人からのプレゼントだ。店に置いてくださいだそうだ」


探偵は、紙袋をカウンターに置いた。


「おう、ありがとうさん。そして今回もお疲れ様。依頼料金は、現金にするか?」

「いや、家賃の前渡しにしさてくれよ」

「わかった」


そう言うと、去紅舞は席に残っているコーヒーカップを下げる。


「んで、そっちの依頼人はどうだったんだよ、去紅舞?」

「中々に面白い男だったよ。彼はきっとこの先強く生きていけると思う」

「もう少し早ければ、俺も会えてたかな?」

飛兎とびと、お前は会わない方が良かったよ。でも、根にある良い奴って事を忘れなければ、どんな困難も乗り越えられよ、きっと……」


そう言うと、去紅舞はカップをタオルで拭き終わり、カップ棚に仕舞う。


「んで、そのマンガ、店に置くのか?」

「ああ、若い人が来てくれるようにね。あそこに、空いている本棚があるだろ?」

「開店当初からずっと空いているな……、まさか!?」

「そう、開店時からずっと空けていたんだ。いつかこんな日が来ると思ってたからね」

「過去に戻れるだけじゃなくて未来まで見えてるのか……」

「いや、ただの予測でしかないから、未来なんて見えてないよ。未来は常に変わり続けるのだから、俺が見ることなんて出来ない」


そう言うと、去紅舞は紙袋の中に入っている本を本棚に収納し始めた。

そして、本棚に収納し終えると、店の公式アカウントでTwItterを更新した。


【本日より、喫茶店 月日の薫り に〇〇先生のマンガを置きました。当店来店の際は、是非読んでみてはどうでしょうか!】(画像添付)


とツイートした。

ツイートと同時にたくさんのRTといいねが送られた。

そして、リプライには〇〇という名前で


【ありがとうございます!!!

たくさんの人に読んでもらえると嬉しいです!!!】


というコメントが添えられていた。

去紅舞は、少し嬉しそうな笑みを浮かべながら、店の外の看板を店内に入れた。


「本日は店仕舞いだ!飯でも行くか、飛兎?」

「なんか、嬉しそうだな!もちろんですとも!」


そう話しながら、飛兎と去紅舞は片付けを終わらせると店から出て行った。















Tale.


「暑い……」


夏の日、僕は編集社の前にある喫茶店で、アイスクリームの乗っているパンケーキを食べていた。

打ち合わせ前ということもあり、少しだけお腹を満たしておきたいという理由だ。


「今日も最高気温更新か……」


呑気なことを調べている間に、乗ってたアイスクリームは完全に溶けてしまった。


「あれ?時間って何時から……」


スマホのスケジュールアプリを確認すると、もう既に10分前であった。


「ヤバイ、急がないと遅刻しちゃう!!」


僕は急いでパンケーキを食べて、編集社のあるビルに入った。

エレベーターに乗り込み、3階を押す。扉が閉まり、3階に登っていく。

扉が開くと、簡易的な受付窓口があった。


「あの、本日打ち合わせに参加するために来ました、〇〇です」


僕は受付嬢にそう言った。


「〇〇様ですね、少々お待ちください……」


受付嬢は、キーボードをカタカタと言わせながら来客リストらしきExcelで検索をかけていた。


「〇〇先生、本日はご来社ありがとうございます。本日は、新ネームの打ち合わせという事で、お間違いありませんでしょうか?」

「はい、間違いありません」

「それでは、こちらの来場者カードを首からお掛けになって、お進み下さい。場所は、A会議室になります」


受付嬢は、丁寧に来場者カードを手渡し、僕はそれを首から掛けた。


「ありがとうございます」


一言感謝を述べると、軽く会釈をする受付嬢。

僕はそのまま会議室へ向かった。





会議室に入るとまだ誰もおらず、ただ、先程からチラチラとこちらを覗く新入社員らしき社員の視線が気になって仕方ない。

でも、彼は、何処かで見たような……

そんな事を考えいると、


「おっ、〇〇先生!ご無沙汰しております!」

「あ、編集長さん。こちらこそ、今回はありがとうございます!」


僕は頭を下げる。


「いえいえいえいえ、頭を上げてください!私たちこそ、今回の事を受けて下さったことがこちらの方でもとても嬉しかったので……、あ、今回、先生の担当をする……」

「△△です、今回はよろしくお願いします」

「は、はあ……」


僕のこの編集者の第一印象は、見るからに胡散臭いだった。

担当をする予定の編集者は、名刺を渡してきた。

それを受け取ると、名前を見て何か何処かで見たような気がする名前だった。


「〇〇先生、実は、△△はあの超有名漫画家の□□先生の担当編集をやっているんですよ!!なので、実力は折り紙付き……」

「編集長さん、失礼を知った上で言います。担当を変えてください」


僕は変な感が働き、担当を変えてもらうように編集長に言った。

それから、


「そうですね、僕も漫画家としてはNewbeeですし、新人の方と一緒に成長したいな〜と思っていたのですが……」


僕はチラチラとこちらを覗く新入社員を見た。

僕が見ていることに気が付いた新入社員は、急いで自席のPCに顔を向けるが、編集長は気が付いたのか、新入社員の方へ歩いて行った。


「新人君、〇〇先生に興味があるのか?」

「ひゃ、ひゃいっ!?学生の頃に好きだった絵師さんが、〇〇先生だったので、まさか本人に会えるとは思っていなかったので……」

「なるほど、憧れか。素晴らしい!!憧れや目標は人を成長させる。だから、君の初仕事として君を任命しようと思う!!」

「ほ、ほ、本当ですか!?」

「ああ、もちろん失敗したらクビだけどね!」

「は、はいっ!!頑張りま……」

「ちょっと待ってくださいよ!!」


担当予定だった編集者は、声を張り上げる。


「普通新人はベテランのサポートだったり、有名な漫画家さんの担当からでしょ!!あと、Newbeeの漫画家を育てるのも、俺たちベテラン編集者の仕事じゃないですか!!」


確かにこの人の意見は正しいと思うが、僕は肯定も否定もしない。


「確かに、今までのこの業界はそうだった……」

「なら!!」

「でも、今回は

「え……」


編集長の言葉に、編集者は絶句した。


「君が担当した新人漫画家さんは、みんなクレームを入れているんだ。だから、君には任せたくないんだ」

「そ、そんなわけ……」

「前来た新人賞上がりの子の作品、わざと脱稿させたろ?」

「……」

「お前が何をやっていたのか知ってるんだよ。だから……」

「……めます」

「あ?」

「俺、この会社を辞めます!!」


そう言うと、編集者は自席の引き出しから退職届を持って来た。


「これで後悔するのはアンタらだ!!優秀な俺よりも、そんなちっぽけな新入社員を選んだ!!俺はな、この会社以外にも必要として!!」

「それは、100%無いから気にする必要はないですよ」


僕は元編集者の男に言い放った。


「どういう事だよ、お前みたいなフリーランスなんてすぐに首切りされて……」

「実はですね、僕、今なんですよ」


そういうと、僕はスマートフォンで配信中の画面を出し、男に見せた。


「コメントを読んでみましょうか。『あ~、やっぱりそうだったんだ。いつも思ってたんだよな~、あの人の絵柄じゃないって』『てかさ、多分あの先生の代表作も、盗作だったりして!!』『それよりも、編集者がそういう盗作を手伝うとかマジで信用ならないじゃん』『盗作被害にあった方々に謝罪してほしい』とのことですが、どう思います?」

「……」

「いや、黙り込めば許してもらえると思ってるんですか?」


僕はさらに元編集者に詰め寄る。


「この件に関して、僕は追及を辞める気はありませんし、□□先生にも責任を取っていただく必要があることを考えています。□□先生っ!!見てますよね?次はあなたの番ですよ。覚悟しておいてください」


僕はスマホを閉じる。


「さてと、話はまだ終わっていませんでしたね」

「お、俺は別にお前の作品は、ぬ、盗んでいませんけど⁉」

「はあ、これだから自分が優秀だと思い込んでいる奴は厄介なんだ……」


「はぁ」とため息をついて、僕は鞄から数枚の資料を取り出し、元編集者に叩きつけた。


「こ、これは……」

「あんたの今までの悪事を記した証拠だよっ!!」


元編集者は、受け止めきれず、

地面に資料がバラバラと広がった。

そこには、□□先生と△△が脱稿させたはずの原稿を共有している様子、そして、金銭の受け渡しの様子が何枚もの資料に記載されていた。


「確かに、僕たちみたいな素人上がりのまだ何一つとしても実績のない作家よりも、代表作のある大物作家の方が書けば売れるかもしれない……」

「なら、俺のやってきたことは何も間違っちゃいないだ……」

「ダメなんだよ」


僕は、突き放す様に冷たく言い放つ。


「は?」

「僕がわかったとしても、この国の法律が許してくれないんだよ。生み出したものには著作権が生まれる。だから、お前がやってくれたことは全て犯罪行為だったんだよ」

「そん、なの……、わかって……」

「わかってねぇから、平然と出来てんだろ?」

「……」


△△は、唖然とし膝から崩れ落ちた。

そして、僕は更に詰寄る。

「僕の場合は、未遂で終わったけど、他の人はどうだ?」

△△は、「ヒイッ」と言いながら、少し後ずさった。


「さあ、罪を償う時間だぜ」


僕は、髪の毛を持ち上げながら、言った。

△△は、既に涙を流していた。


「ごめん、なさい……」

「ごめんで済んだら、公務員の一部が仕事無くなるだろ」


そう言って、僕は△△の髪の毛を振り払う。

直後に、編集長が呼んでいた警察が逮捕状を持ってやって来た。

どうやら、とりあえずは詐欺罪という事になったらしい。

今後の取り調べで詳しい事は、決めるらしい、証拠も無いからね……。

△△は、そのまま連行されて行った。


「いや〜、〇〇先生。なんとお礼をしたら良いか……」

「いえ、僕はただ、自衛しただけに過ぎませんし、まだ終わってませんよ」

そう言うと、僕は荷物を持った。

「新人くん!□□先生の仕事場まで行くから、案内頼めるかな?」

「はい!分かりました、今すぐ準備します!」

「〇〇先生、お気を付けて……」


編集長に見送られ、僕と新人くんのNewbeeコンビは、次の相手との戦いに向かうのであった。


















現在:喫茶店 月日の薫り


「さてと〜、飛兎。この依頼ってあの編集社のライターさんだよな?」

「原本は俺が持ってるが、コピーはもう先週渡したぜ。これ、今週のやつ」


そう言うと、飛兎は週刊誌を去紅舞に渡す。

その見出しは、1人の新人漫画家が1人の新人編集者と一緒に、大物漫画家の秘密を暴露したという記事だった。


「うん、これで今日もいい一日になりそうだ」

「あぁ、そうだな。きっと最高な日になるといいな!とりあえず、俺は寝るから、お疲れ様〜」


「くぁぁあっ」と欠伸をしながら、飛兎は2階へ上がって行った。


「さてと、後片付けしますかね〜!」


そう言うと、去紅舞はカウンターテーブルを拭き始めた。

そして、カップの近くまで来た時、


「貴方の人生に、後悔と少しのコーヒーの薫りがありますように」


そう呟き、カップをシンクに置いた。

















________________________

(あとがき)

皆様お久しぶりです、汐風波沙です。

今回は、第2章の完結の話として、執筆致しました。

内容がかなりありましたが、考えながら、書きましたので、とても時間がかかってしまいました。

今後とも、喫茶店 月日の薫り〜過去かえる喫茶店〜をよろしくお願いします!

そして、感想・レビュー・応援・作品のフォローよろしくお願いします!

以上、汐風波沙でした。

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