第4話 天国からのメッセージ

「今度は何だよ?」

 今日は厄日だと投げやりに蒼夜がつぶやくと、オオハクチョウは光のベールに包まれたように発光し、そこにぼんやりと天使たちの映像が浮かび上がる。


 どうやらそこは、天国の宮殿らしく、庭にある鏡の泉に集まった天使たちが、天使の昇格試験を受けている天真を覗いて大騒ぎをしていた。

『何をやっているんだ天真は!』

『悪魔と一緒に管理人をするなんて、とんでもない!』

『神様に知られる前に、大天使ミカエルに助けてもらおう』


 小さな天使たちがおたおたとしながら羽ばたいた時、薙ぎ払うような突風が吹き、天使たちが悲鳴をあげながら顔を覆う。風が止み、恐る恐る腕を外した天使たちの前に現れたのは、燦然と光り輝く長老の男だった。

『この試験は無効じゃ!悪魔の所業に良心の呵責などないゆえ、まともな管理人になるとは思えぬ。天使の純度が落ちる前に、天真を即刻呼び戻せ!』


 老人の言葉にムッとした蒼夜が、何だこのジジイと呟くのを聞いて、ぎょっとした天真がこの方は神様ですと小さな声で言うと、蒼夜はこんなのが?とでも言うように、口をへの字に曲げてフンと鼻を鳴らした。

『では、あの少女はどうなるんでしょうか?願いも無効になるのでしょうか?』

 小さな天使の世話役のアンジェが、前に進み出て神の御前に膝まづいて尋ねる。 


『一度願いをかけたなら、それは審判の日まで有効じゃ。彼女が結婚する相手によって、彼女の運命が天のように光に満ちるか、はたまた地獄の闇でもがくかは彼女次第。途方もない願などかけた彼女が悪いのじゃ。成る様に任せ、天真には戻るように伝えなさい。管理人を放棄しても今回は降格はなしじゃ』


『天真は天使の中でも真面目な子です。放棄して少女が不幸になった場合、自分を責めるかもしれません。もし、天真が最後まで見届けると言ったら、どうなるのでしょうか?』


『いくらわしらが永遠の命を持つといえど、一人の人間に長きに渡って付き合えるほど暇ではないし、わしゃ面倒くさくて、そういうのは好かん。命令をきけぬなら羽をもぐ!と伝えなさい。人間として暮らすもよし、悪魔の家族に加えてもらうもよし、勝手にすればよい」


 映像を見ていた天真がたじろぐ気配が伝わり、蒼夜がちらりと横眼で見ると、顔面が蒼白になっている。何ていい加減な神だ!と文句を言いたくなったが、続くアンジェの言葉に意識が画面に引き戻された。

『では、私に地上に下る御役目をお言いつけ下さい。悪魔が悪さを働かぬように監視するのと共に、天真の魂が汚れぬよう導きながら、あの少女の行く末をも見守ります』 

 神は一瞬目を眇めたが、天使が己の約束を反故ほごするのに、悪魔が残って運命を見守る事態になっては天使の名折れになると踏んで、アンジェの同行を許可した。

『ただし、あの少女が本当にプリンスと結ばれ、プリンセスになった場合、悪魔の悪行は昇華し、本来持つ力を失うだろう。人間になるかもしれないことを天真に伝えておけ』

 畏まりました。と頭を下げたアンジェと天使たち一行の前で、また突風が吹き一瞬にして神の姿は消え去った。


 それと同時に映像の光のヴェールが辺りに溶けていったが、身体に受けていた光が薄れても、顔色が元に戻らず、青白いのままの蒼夜が立ち尽くす。目の前に、オオハクチョウの変身を解いた金髪の美しい女性が現れて、天真を蒼夜から引き剥がした。


「私はアンジェ。世話をかけましたが、ここは私たちに任せて立ち去ってください」

「勝手なことを……もし、蒼夜が管理人を放棄したらどうなる?天使が放棄すれば降格で、悪魔の場合は『良心のない所業』によって昇格し、一気に魔王にでもなれるのか?」


 悪魔を評した神の言葉を皮肉って、深影が憎々し気に吐き捨てたが、アンジェは聞こえなかったような涼しい顔で、蒼夜をちらりと見てから、深影に視線を戻す。

「天使の仕事を手伝ったって、あなたたちに良いことはありません。悪魔のままがお嫌ならお手伝い頂いて結構ですが……」

「な、なんだと!」

 深影とアンジェがにらみ合った時、うわ~んと少女怜良の泣き声が上がった。


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