9-17「ファイヤーゴーレム」

 サムは真っ先にマールムへと向かって駆けだしたのだが、短足のオークであるがゆえに、その走る速さはあまり速いものではなかった。


 サムは周囲の兵士たちに次々と追い抜かされ、身長が小さいために歩幅が小さいはずのドワーフたちにさえ並ばれてしまった。


「はっはァ! 威勢がいいぞ、勇者ども! さァ、我輩のもてなし、たっぷりと心行くまで味わうがいい! 」


 喚声(かんせい)をあげ、武器を振り上げながら突っ込んでくるサムたちを見て嬉しそうに笑うと、マールムは自身の刀を振り下ろし、ファイヤーゴーレムたちに突撃を命じた。


 ゴーレムは地響きを立てながら前進を開始し、その両手を振り上げ、先に接近を終えていた人間の兵士たちに振り下ろす。


 赤々と燃え滾(たぎ)るゴーレムの身体はどうやら、正確には炎ではなく、溶岩の塊でできている様だった。

 ぶォん、と風を切る音と共に振り下ろされたゴーレムの腕を兵士たちは命中する寸前で回避したが、その熱気で衣服が燃え上がりそうになり、実際に火がついてしまった兵士は悲鳴をあげながら地面の上を転がり、慌てて消火しなければならなかった。


 その様子を見たルナ、バーン、そしてエルフの魔術師たちが、ゴーレムと戦う兵士たちのために冷気の呪文を唱える。


 魔法のおかげで兵士たちはかろうじてゴーレムたちと正面から戦うことができたが、しかし、剣で切り裂いても、槍で突き刺しても、ゴーレムたちはびくともしなかった。


 身体が溶けた溶岩でできているからか、傷口がすぐに塞がってしまうのだ。

 しかも、その温度は鋼が溶けだすほどに熱いものだったから、魔法によって守られているにもかかわらず、兵士たちの剣や槍も溶けかかってしまう。


 こちらの攻撃が通じないせいで、兵士たちはゴーレムからの一方的な攻撃にさらされることとなってしまった。


「くはははっ! いいぞ、いいぞ、必死に戦え! 必死に戦って、無様に死んでゆけ! 」


 その戦いを観戦していたマールムが、愉快そうに笑い声をあげた。


「くそっ、どうすりゃいいんだっ!? 」


 サムは聖剣を持っていない方の手で熱さから敏感な豚鼻をかばいながら、ゴーレムの前でたじろいでしまう。

 どこを切りつければいいのか、そもそも、聖剣とは言え効果があるのか、分からなかった。


「ゴーレムには、その形を作り出して、命なきものに命を与える核がある! そこを攻撃しないと! 」

「それはいいが、核って、どこだ!? 」

「そんなの、分かんないわよ! 私が作ったんじゃないんだから! 」


 ティアがゴーレムへの対処法を教えてくれたが、結局は、ゴーレムの核がどこにあるかが分からなければ、手の出しようがない。

 サムも、ティアも、ラーミナも、リーンも、他の兵士たちと一緒になってゴーレムからの攻撃を必死に回避し続けるしかなかった。


「ええい、なァにを、ちんたら戦っておるか! 」


 そんなサムたちを怒鳴りつけたのは、アクストだった。


 そして、アクストは雄叫びと共に駆け出すと、ファイヤーゴーレムの1体に向かって飛びかかり、気合の声と共に、両手でかまえたバトルアックスを振り下ろした。


 脳天にバトルアックスの直撃を受けたファイヤーゴーレムは、溶岩の飛沫を飛び散らしながら一瞬、真っ二つに両断されてしまう。

 だが、2つに別れた身体はすぐにくっつき、また1つのゴーレムへと戻ってしまった。


「あっ、あそこっ! 」


 それでも、ゴーレムが真っ二つになった瞬間、ティアはそこにあったものを見逃さず、そう叫んでいた。


「首のつけ根! あそこに、核がある! 」


 それは、古代文字(ルーン)の刻み込まれた、岩石の塊の様に見えるものだった。


 サムも、確かにそこにそれがあることをその目にしていた。

 ちょうど、人間でいえば首の骨と背骨がつながっている辺りだ。


「ぅァッちちちちっ! 」


 ゴーレムを真っ二つに切り裂いたのはいいものの、その熱さで溶け始めたバトルアックスを放り投げたアックスに、サムは叫ぶ。


「アクストさんよ、聖剣で切るのは平気なのか!? 」

「フン、平気に決まっておろうが! イルミニウムが溶けだす温度は、鋼とは比べ物にならんぞい! 」

「よし、分かったぜ! 」


 アクストの怒鳴り返す声にうなずいたサムは、聖剣マラキアを振りかぶってファイヤーゴーレムへと切りかかった。


 ゴーレムはその燃える腕を振り下ろしてサムに反撃し、サムはドワーフ製の鎧越しにでも自身の毛先が焦げる様なチリチリとした感触を覚える。

 それでも、その攻撃をかわしたサムはファイヤーゴーレムの懐へと飛び込み、アクストのおかげで発見することができたゴーレムの核へと、聖剣を振り下ろした。


 聖剣マラキアの刃は聖なる光をまといながらファイヤーゴーレムの身体へと食い込み、切り裂いて、その核を両断した。


 その瞬間、ファイヤーゴーレムは命の無い無機物へと戻り、溶けた溶岩が形を失って崩れ落ちていく。

 溶岩は完全に崩れ落ちる前に熱を失って固まり、何の変哲もない岩石へと姿を変え、ボロボロとその場に積みあがって小さな山が出来上がった。


 倒せる。

 そう理解したサムは、苦戦している兵士たちを助けるために前に出て、次々とファイヤーゴーレムたちを聖剣で切り裂き、岩石の塊へと変化させていった。

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