7-11「ドワーフの谷」

 一行がドワーフの谷に到着すると、そこでは、たくさんのドワーフたちが待ち構えていた。

 外からやって来た一行のことを警戒して出動してきたドワーフの戦士たちの姿も多かったが、半分以上は、物珍しさから集まって来た野次馬たちだった。


「この者たちは、遠き人間の地よりやって来た使節である! マハト王への謁見を望んでいる故、これより我が案内するところだ! また、ここにいる魔物は人語を解す奇妙な魔物で、我らへの害意は無い! 皆の者、安んじて道を開けよ! 」


 集まった兵士たちと野次馬に向かって谷の入り口を守っていたドワーフの戦士団の団長であるアクストががそういかつい声で叫ぶと、ドワーフたちは少し戸惑った様子を見せた後、宮殿までの道を開いてくれた。

 どうやら、大事な拠点の防衛を任されている様に、二本の角の兜を被ったアクストは一目置かれているらしかった。


「さぁ、マハト王の下へ案内しよう。使者殿、ついて来られよ」


 アクストは一行に手を差し出しながらそう案内すると、それから、付近に集まっていたドワーフたちに、マハト王への貢物を運ぶようにと指示をした。


 それから、一行はマハト王がいる宮殿へ向かって進んでいった。


「あの、直接宮殿へ向かうということは、マハト王は私たちに会ってくださるのでしょうか? 」


 マハト王に会って助力を願うことが一行がここまで来た理由ではあったが、まだ一行はドワーフの谷についたばかりだった。

本当に話がマハト王に通っているのか、門前払いを食らったりはしないのか心配になったらしいティアが、一行を案内してずんずん進んでいくアクストに心配そうにたずねる。


 しかし、アクストはそのティアの心配を笑い飛ばした。


「なぁに、心配はいらぬ。マハト王は寛大なお方だ。貴殿らの用件が聖剣マラキアのことだと知れば必ずお会いくださる。貢物の酒もあることだし、アルドル3世殿からの紹介もあることだしな。……ところで、貴殿はアルドル3世とはどんな関係なのだ? 失礼だが、貴殿の様な子供が使者に選ばれるのは、やはり気になってな」

「えっと、娘です」

「ほぅ? 」


 ティアがそう答えると、アクストはにやりと笑った後、愉快そうに笑った。


「とすると、母親はステラという名の娘であろう? なるほど、あの剛毅な娘であればお似合いだったであろうな」


 ティアは、どうしてアクストがここまで自分の身の回りの事情に詳しいのか不思議そうな顔をしていた。

 サムにもその事情はよく分からなかったが、アクストはアルドル3世たちのことを気に入っている様だった。

 何か、ドワーフたちに気に入られるような武勇伝でも持っているのかもしれない。


 一行は、ドワーフの谷を物珍しそうに眺めながら進んでいった。

 ドワーフたちが暮らしている街の大きさは見た目よりもずっと広いらしく、谷の表に出てきている部分は恩の一部で、谷の壁面を削ったり堀抜いたりした奥に、たくさんのドワーフたちが暮らしている様子だった。

 どうやら、鉱石を採掘するために掘った坑道がそのまま街になっている様子だった。


 表に出ているのは、ほんの一部に過ぎない。

 その多くは商店や鍛冶場である様だった。


 商店は外部との交易を必要とするものだから外部とのやり取りがしやすい谷の表面にあり、鍛冶場は火を多く使うために換気がしやすい場所に作る必要があるためだった。

 通りは多くのドワーフたちでにぎわっていて、ドワーフの商人たちの呼び声や、鍛冶場から響く、トンテンカン、トンテンカンという、武具を鍛える音が絶え間なく聞こえてくる。


 ドワーフたちの武器や鎧は上質なことで有名で、焦点の軒先に並んでいる武具はどれも一級品ばかりだった。

 人間の商人はこのドワーフの優れた武具を目当てにドワーフの谷を訪れ、ドワーフたちは武具を売る代わりに、谷では得にくい食料などを手に入れている。


 上質な武具は戦う際の生残性に直結するため、一行は興味津々(きょうみしんしん)に商店に並べられた武具を眺めた。


 やがて、一行は宮殿がある巨大なアーチ橋の前へと案内された。

 その宮殿はドワーフたちにとっての最終防衛拠点でもあるらしく、宮殿らしい荘厳さもあったが、武骨な城塞としての性格が濃い建物だった。


 宮殿の入り口の門は二重になっており、その門を守るために堅固で狭間(さま)の多い塔が建てられ、石造りの城壁は高く、とてもよじ登れそうにない高さがあった。


 一行はまだマハト王に本当に会えるのかどうか不安だったが、しかし、アクストが門番のドワーフたちに事情を説明すると、あっさり通行が許された。

 ごごごごご、という重苦しい音と共に開いていく扉を、一行は嬉しさ半分、不安半分といった表情で眺めている。


 ここまで、もう1歩でうまくいきそうなのに、いつも最後の最後で悪い方向へとことが転がって行ってしまうから、こんなにスムーズにマハト王との謁見がかなうのがかえって心配で仕方がなかった。


 一行が宮殿の中に案内されると、さすがに、そこでは少し待たされた。

 アクストが、一行が謁見を願い出ていることをマハト王へと報告し、マハト王への貢物を献上して、実際に謁見する許可を取りつけるのに時間が必要だったのだ。


 待っている間応接室へと通された一行は、そこでドワーフ用の小さな椅子に腰かけながら、そわそわしながらアクストが戻ってくるのを待った。


 本当にマハト王と会って、協力してもらえるのか。

 そのことが不安でもあるのだが、何よりも、ドワーフの椅子の座り心地があまり良くなかったというのが大きい。


 ドワーフたちの椅子は、一行にとって小さいというのもあったが、全て石造りで、とても固かった。

 ドワーフたちにとってはその椅子の固さは何ともない様だったが、一行にとっては少し辛いものがあった。


 幸いなことに、一行が待っていなければならなかった時間は短かった。

 アクストが一行を迎えに来て、マハト王が謁見に応じてくれることを教え、一行を案内してくれたのだ。

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