7-6「王都」
パトリア王国での休息は、一行にとって素晴らしいものになった。
アルドル3世たちがよく便宜を図ってくれたというのもあるし、少女たちも自分たちの故郷であるということでリラックスし、思う存分、羽を伸ばすことができた様だった。
サムはこれまで、オークであるということで公の場での行動を制限されることが多かったのだが、パトリア王国では自由に行動することができた。
アルドル3世が王都にサムのことを「無害な魔物である」とお触れを出してくれたために、サムは手枷も足枷も必要なく出歩くことができた。
さすがに単独行動まではできなかったが、他の仲間たちと一緒に城下を見物するのはとても楽しいことだった。
旅の間、ほとんど見ることができなかった少女たちの一面を見ることができたからだ。
ティアは、その普段の性格から想像がつく通り、かなりお転婆なお姫様として知られている様だった。
幼いころからよく城を抜け出して城下に遊びに出かけていたらしく、街の人々はティアのことをよく覚えていて、ティアがお姫様ということで壁を作って接したりはせず、お互いに親しげな様子だった。
ティアは城下の構造にもとても詳しく、抜け道や、隠れる様に営業しているが、いいものを売っている店などにも詳しかった。
その一方で、ラーミナは兵士たちから人気がある様だった。
近衛騎士団の団長であるガレアの娘であるというだけでなく、ラーミナはその武芸で良く知られているらしく、兵士たちから尊敬され、憧れられている様子だった。
特に、若い貴族たちから人気がある様だった。
それはつまりラーミナに好意を持っている男子たちが多いということなのだが、ラーミナは声をかけてくる兵士たちに愛想よく応じながら、少し困っている様子でもあった。
ルナは、なかなか買い物上手だった。
少し天然気質のあるルナは街の人々から自分の娘であるかのようにかわいがられており、お店で何かを買おうとすると、店の人から特に品質の良いものを選んでもらったり、おまけしてもらったりしていた。
ルナはいつも「悪いですから」と謙虚に断ろうとはするのだが、街の人々から向けられる好意を無下にすることは彼女の性格からいって不可能なことで、結果、荷物持ちとしての役割も担っていたサムの持ち物はどんどん増えていった。
リーンは、勝手気ままに行動していた。
一行は街中で団体行動をしていたのだが、リーンはいつの間にか姿を消し、いつの間にかまた一行と合流している、ということを繰り返していた。
いったい、リーンは何をしているのか。
気になったサムがためしにリーンを探しに行ってみると、彼女は、食べ物屋さんの軒先(のきさき)でつまみ食いをしていた。
それもどうやら、店の人が自発的に店の商品をリーンに分け与えている様だった。
と言うのも、リーンはガリガリに痩せている上に不思議な愛嬌があったから、物欲しそうな視線でじーっと見つめられると、店の側が耐え切れなくなってしまうらしい。
まるで、餌付けでもされている様だった。
しかもリーンは自分に食べ物をくれるお店をしっかりと記憶していて、久しぶりに帰って来た機会になじみの店をめぐっているのだ。
「ネコかよ」
その光景を見た時、サムは思わずそう呟いてしまっていた。
実際、リーンに餌付けしている店側のリーンの扱いは、野良猫か野良犬の様だった。
マスコットか何かみたいな感じだ。
「こらっ、リーン! こんなところで何してるんですかっ! お金はちゃんと払っているんですか!? 」
サムとしては別に店の人がこれでいいというのなら構わなかったのだが、リーンの兄を自認しているバーンにとっては、あまりよろしくない行為であるらしかった。
バーンの言い分は常識的なもので、「売り物をお金も払わずにもらっちゃダメ」というものだった。
しかし、リーンは少しも悪びれた風がない。
「バーン。これは盗ったんじゃない。もらったの」
「それは、リーンがお店の人を困らせたからでしょ! お店の人だって商品として売っているんだから、お金を払わないと」
リーンはバーンにそう言われても、いつもの無表情で、店の人からもらった鶏肉の串焼きもぐもぐと食べ続けている。
バーンは無理やりリーンから串を奪うわけにもいかず、ぅー、と悔しそうに唸ってから、店の人にお金を渡そうと財布を取り出したが、店の人は「いいから、いいから」と言ってバーンをなだめた。
「別にちょっとくらい、大した金額でもないし、構わないよ。それに、あのお嬢ちゃん、いつ見てもガリッガリだからねぇ。しっかり食べてもらわないと」
「そう。私、しっかり食べないと、ダメ」
全く悪びれないリーンを睨みつけると、バーンは彼女をしかりつける。
「そんなこと言って! 僕たちは元々、自然に存在している魔力を吸収して生きていけるから、本当は食べる必要なんて無いのに! 」
サムにとって、その事実は初耳だった。
いや、恐らくは、長く旅を続けてきた他の少女たちも知らないことだったろう。
それは、旅の様子で容易に想像がつく。
少女たちはいつも自分たちと同じ量の食事をリーンのために準備していたし、何なら、店主たちがしているように、リーンに自分の分を少し分け与えてもいた。
「あんた、いつになっても、全然太らないわよねぇ。そんなんじゃ健康に良くないし、ほら、もっと食べる? 」
ティアなどはいつもそう不思議そうにしていたから、リーンが、本当は「食事が無くても生きていける」ことは知らないはずだった。
怒っているバーンに、串だけになった焼き鳥の串をぺろぺろと名残惜しそうになめていたリーンは、少し慌てたように人差し指を立てて、シー、とバーンに言った。
「バーン、声が大きい。それ、秘密のこと。……じゃないと、ごはん、もらえない。いつも少し多めにもらえて、私、お得。私、食べるの好き。たくさん食べるの楽しい、嬉しい」
どうやら、リーンは意図してこの事実を隠している様だった。
何というか、ずるい。
バーンは呆れてそれ以上何も言えなくなり、サムは、思わず笑ってしまっていた。
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