1-10「討伐隊」

 30頭から成るオークの山賊団は、すでに冬を越すのに十分な食糧を手にしてはいたが、本格的な冬が訪れて雪が降りだす前にさらなる略奪を働こうと準備を始めた。


 十分冬を越せると言っても、オークたちが常に満腹で過ごすためにはまだまだたくさんの食糧が必要だったし、何より、オークは食べるのが大好きなのだ。

 食べ物はいくらあってもいい。


 おまけに、この辺りの人間たちはオークの様な魔物の群れに直面した経験が少なく、オークにロクに反撃もできないことが分かっている。

 簡単に、奪いたいだけ奪うことができるのに、オークが躊躇(ちゅうちょ)する様な理由は無かった。


 そもそも、このオークの山賊たちは、できるだけたくさんの食糧を略奪するべく、元々住んでいた地域から遠く遠征してきているのだ。


 元々オークたちがいた地域では、長年にわたる魔物との戦いからそれなりに備えをしていることが多く、人間たちも戦う準備を整えていて手ごわかった。

 それでもオークの略奪を完全に阻止することはできていなかったが、オークたちの食欲を完全に満たせるほどの略奪品は得ることが難しく、それならば、と、ボスオークが魔物に対する備えが手薄な地域に遠征することを決めたのだ。


 ボスオークの狙いは、大正解だった。

 遠征した地域は魔物が多く出没する地域からは遠く、魔物の被害とは無縁ですっかり平和に慣れ切っており、オークの山賊団の力で簡単に蹂躙(じゅうりん)できてしまった。


 オークたちは付近を偵察して、襲撃できそうな村を幾つか発見している。

 どの村も、最初に襲った村と同じ様に小さな村ばかりで、オークにとってはどこもお手頃な襲撃目標だった。


 しかも、すでに1つの村が犠牲となっているにも関わらず、他の村の守りは手薄なままだ。


 中には最初に犠牲となった村と同じ様に丸太で城壁を作り、堀を作っている様な村もあるが、そこには兵士の姿さえなく無く、守りはぜい弱だ。

オークたちの力ならことも無く簡単に蹂躙(じゅうりん)できるはずだった。


 どうやら、最初にしぶしぶ送り出した50名の兵士では手も足も出なかったということを知ったこの地の領主が、これ以上の損害を避けて、村々からの援軍要請に生返事ばかりをくり返しているらしい。


 村々も領主にとって守るべき領地であるはずだったが、元々山間部にある村ばかりでそこから得られる税収入は小さなもので、大きな兵力を動員してオークを討伐させる費用と天秤にかけて、割に合わないと考えた様だった。

 街道から得られる交易収入や、都市からの税収、平野部にあって大きな耕作地を持つ村からの収入に比べれば、山間部にある小さな村などいくつ消滅しても、領主にとってそれほど大きな痛手とはならないということなのだろう。


 そもそも、最初に犠牲となった村のために駆けつけた50名の兵士たちだって、領主が積極的に出陣させたものでは無かった。

 オークの脅威から人々を守る、その行為を騎士としての義務だと感じ、自ら任務に志願した騎士とその配下の兵士たちがいたからこそ、領主は出陣を許したのだ。


 だが、その50名は、簡単にオークたちに壊滅させられて、指揮をとっていた騎士たちは全員、壮烈な戦死を遂げている。

 その勇敢さは吟遊詩人によって歌にされ称えられるだろうが、自ら進んで割に合わない任務を引き受けようという奇特な人間はもう、現れなかった。


 オークたちを止められる者は、ここには誰もいなかった。


 オークたちは、次の襲撃目標をすでに定めている。

 目標を決めたと言っても、特に理由があって決めたわけではない。

 近いところから、片っ端。

 オークたちは無造作に、一方的に、全てを蹂躙(じゅうりん)していくつもりだった。


 この辺りにいる人間たちで、オークに通用する力や備えを持った人間は、誰もいないのだから。

 自分たちを遮(さえぎ)ることができる者など、いるはずが無いではないか。


 そうタカをくくったオークたちは、準備を整えると襲撃目標へと出発した。

 準備、と言っても、オークは人間と異なって武器や道具を使う文化に乏しく、また、人間相手にそんなものを必要としていなかったから、せいぜい腹ごしらえを済ませ、これから行う破壊と略奪を想像して気分を高揚させるくらいのことしかしていない。


 もちろん、何もせずに人間たちが勝手に食糧を差し出してくるのであればそれ以上のことは無いのだから、襲撃予定に入っている周囲の村々にはまず、脅しをかける。

 今回の襲撃は、村々を威圧するためのものだ。

 人間たちが大人しく食糧を差し出してくるならそれでよし、もしそれを拒否したり、オークたちを満足させるだけの貢物を用意できなくなったりすれば、蹂躙(じゅうりん)するだけのことだ。


 破壊と、殺戮(さつりく)。

 そして、手当たり次第に齧(かじ)りつくことのできるご馳走。


 オークたちは舌なめずりし、ウキウキ、ワクワクしながら、周囲の村々を恫喝(どうかつ)して回った。


 中には交渉と称してオークに人間側の主張を述べようとした村や、先に保有する食糧の一部を差し出して災禍(さいか)を逃れようとした村もあったが、どちらもオークたちは一笑の下に拒絶した。


 一方的に全てを奪いつくすことができるのに、わずかでも人間たちの取り分を残してやる必要など、どこにあるだろうか?

 人間たちが勝手に食糧を差し出してくるならその方が楽だからいいが、かといって、そういった態度を取ったからと言って、人間たちに少しでも何かを残してやろうという発想にオークは至らない。


 食糧を差し出してくる村があれば、その村への襲撃は後回しとするだろうが、オークたちに差し出す供物が不足すれば、最後には全て蹂躙(じゅうりん)してしまうのだ。


 オークたちはその時が来るのを、また、のんきに食っちゃ寝しながら待った。


 そして、いよいよ、オークたちが食糧を持ってくるように要求した期日となった。


 オークたちは、食糧を持ってくる様に人間たちに指図しておいた場所で、人間たちが食糧を運び込んで来ることを、腹をさすりながら待っていた。


 涎(よだれ)が、だらだらと溢れ出てきている。

 オークたちはもう飢えてはいなかったが、オークの食欲は無尽蔵に近い。いくらでも食べることができるし、オークは食べることが大好きだ。


 オークたちは人間たちが食糧を抱えてやって来ると信じていたが、しかし、オークたちの期待は裏切られた。


 約束の場所には、確かに人間が現れた。

 だが、やって来たのは、オークたちに貢ぐための食糧をたっぷり抱えた人間たちではなく、鎧と剣で武装した、討伐隊だった。

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