第131話:女の子はみんな、恋話が好き
疲れ果てたエレノアさんに、インベントリからタオルと飲み物を取り出してあげると、ホッと安堵するような笑みで受け取ってくれた。
「ありがとうございます。年齢的にも、これくらいの運動が限界ですね。もう少しリズちゃんと一緒に居させてあげたかったのですが、私の体力が持ちませんでした」
「別に、リズとはパーティメンバーという間柄ですので、お気遣いいただかなくても大丈夫ですよ」
「そういうことにしておきますね。離れたくなくて王都で泣き叫ぶリズちゃんや、二人で思い出作りに励む姿が目に浮かびます」
すべて知っていますよ、と言わんばかりのエレノアさんに顔を覗き込まれ、俺は少し動揺している。半年前の黒歴史ともいえる俺とリズの行動は、口に出されると恥ずかしいから。
偶然にも、ウォータースライダーを滑るリズが「いやぁぁぁぁぁぁ!!」と悲鳴を上げているが、俺も心の中で『いやぁぁぁぁぁぁ!』と叫んでいる。
「冒険者推薦制度を使って、魔法学園に通うことは勧めましたけど、半年間だけとは知らなかったんですよ。てっきり下級生からスタートして、数年かけて勉強するものだと……」
「そうは言うものの、帰り道は寂しくて、メルちゃんに手を繋いでもらったみたいですね。思った以上に子供っぽい一面があって、少し驚きましたよ」
エレノアさんの言葉を聞いて、誰が情報源なのか、ハッキリと理解した。
「意外ですね。こういうことにメルは無関心だと思っていたんですが」
「女の子はみんな、恋話が好きですから」
これ以上の恋話はやめて、と言わんばかりに、バッッッシャーーーーーーン!!!!!! と、リズがプールに突っ込んだ。水飛沫が止むと、胸を押さえるリズが立ち尽くしていたため、少し心配になったが……問題はないらしい。初めてのスリルに興奮しただけだったみたいで、もう一度メルとウォータースライダーを上っていく。
血の気の多い冒険者は、絶叫系アトラクションが好きなのかな。俺、けっこう怖かったんだけど。
「ところで、このウォータースライダー、どう思います? 貴族用に作ってあるものにしては、スリルが強すぎる気がするんですよね」
「完全に冒険者用ですね。魔法学園に通うような貴族でも、半分近くはトラウマになると思います。淑やかなお嬢様であれば、見ているだけで怖いかと」
リズもエレノアさんも悲鳴を上げていたし、滑り終わった後の表情は怖そうだった。スリルを楽しむという意味では成功していても、温室育ちのお嬢様には厳しいよな。速い乗り物がないこの世界に、絶叫マシンは賛否両論の意見が出てくると思う。
「これは庶民用プールに移動させて、入場制限をかけた方が良さそうですね」
「貴族用にするのであれば、もっと傾斜を緩くして、スリルを減らすべきだと思います。現状のものを改良した方が早いのではないですか?」
「それも考えたんですけど、カレンが時間をかけてハンドクラフトをしているので、あまり手を加えたがらないと思うんですよ。まだオープンまで時間はありますし、モチベーションを維持するためにも、別のものを最初から作り直した方がいいですね」
用途に合っていないとはいえ、カレンが丹精込めて作った自信作だし、完全に撤去するのは避けたい。リズたちは楽しそうに遊んでいるから、需要のある場所に持っていけば、リゾート施設も充実して、良い方向に向かっていくだろう。
問題は、どうやって傾斜を緩くして、絶叫スライダーを回避するかだよな……と考えていると、エレノアさんが難しい顔をしていた。
「ミヤビくんの話を聞いていると、クラフターの気持ちがわからなくなります。今までのクラフターは何だったのでしょうか」
目の前に映し出される光景を目の当たりにすれば、エレノアさんが言いたいことも理解できる。粗悪品を作成して修理するクラフターの作品に、こだわりなんて存在しない、それが一般的な考えだと思うから。
でも、この地で作業するクラフターたちは、物が作りたくて仕方がない人たちばかり。丁寧に愛情を込めて修理する姿や建築している姿を見たら、少しずつ印象も変わり始めるだろう。生産職であるクラフターも、プライドを持ってやってるんだな、と。
「あとで街を見学しますか? リゾート施設は立ち入り禁止になっていますけど、すでに商人や冒険者が宿を利用していて、けっこう人気なんですよ」
「風の噂ではよく耳にします。架け橋の上に街が作れる規模だった、という謎の言葉も耳にしましたが、この施設を見ると、あながち間違いではないかもしれませんね」
「国王様が引いていましたし、心の準備だけはお願いします」
「やはり、ミヤビくんには少しお説教をした方がいいのでしょうか」
「架け橋は監修しただけであって、俺はほとんど作成していません。クレス王子とカレンがメインです」
嘘はいけませんよ、と言いたげなジト目をエレノアさんに向けられるが……、ただの事実である。規模を大きくするように指示を出したのは俺なので、強く言うことはできないが。
「ミヤビくんが監修した以上、異次元のものができていても納得できます。お説教の代わりに、流水プールの逆走泳ぎ勝負、やりましょうか」
グッと伸びをしたエレノアさんは、体力の回復が早いのか、まだまだ元気みたいだ。その場で立ち上がると、俺に手を差し出してきた。
「エレノアさんに誘われたら、断れませんね。でも、魔法の使用は禁止でお願いします」
手を取って立ち上がると、ちょうどリズとメルがウォータースライダーを滑ってきた。プールのチェックもほとんど終わってるし、二人と合流して、少しくらいは遊ぼうと思う。
「条件はそれで構いませんが、私もいまは受付嬢ですので、現役冒険者には勝機が薄いです。リズちゃんとメルちゃんからハンディをもらえるように、協力してもらってもいいですか?」
「負けず嫌い、なんですね」
「元冒険者ですから」
この後、リズとメルを説得して、ハンディを獲得して競走したのだが……猫獣人の身体能力の高さを見せつけられる結果となってしまった。猫獣人の体力は無限、そう思ってしまうほどに。
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