第129話:プール革命
「よし、ここのプールで怪我をしそうな場所はないな」
女性陣が水かけバトルをするなか、俺が一人で点検していたのは、流水プールになる。
水源ブロックにミスリルを混ぜ込み、水圧でプールに流れを作っただけの簡単な仕組みだが、意外に微調整が難しい。流れが強すぎると危険な目に遭うし、弱すぎると物足りなくなる。常に流れを一定に保つ必要もあって、水源ブロックの角度を僅かに調整する必要があった。
少し尖った部分もあったけど、全体的にハンドクラフトで滑らかにしておいたから、ここはもう大丈夫だと思う。
最初のプールはカレンが見てくれてたみたいだし、まだ手付かずの三つ目のプールに行こうと歩き始めると、ちょうど水かけバトルが終わった三人が流水プールにやって来た。
戦闘モードに入っている影響か、流水プールに飛び込むと、経験者であるメルを筆頭に、流れに逆らうように泳ぎ始めている。
純粋な身体能力だけならメルが上だけど、魔法を使うリズとエレノアさんはズルい。流水プールの流れを一部だけ速くしたり、渦を作って邪魔をしたり、自分の周りだけ流水が干渉しないようにしたり、とにかく大人げないんだ。それでも、一心不乱に泳ぐメルと同レベルだから、良い勝負だとは思う。
楽しんでくれてるのは何よりだけど、冒険者は独特な遊びをするみたいだ。もっと普通に遊んでほしいよ。女子が三人集まってキャピキャピするのかと思ったら、完全にバトルだもんなー。
戦場と化したプールに巻き込まれたくはないので、俺は一人で三つ目のプールに足を運んだ。ここには、プールの革命的存在、ウォータースライダーが二台建設されている。
一つは、傾斜が緩やかなお嬢様スライダーだ。ハンドクラフトで滑りやすく作られていて、思っている以上に速く滑ることができる。スリルよりも遊戯を楽しむ、気の弱いお嬢様向けのウォータースライダーになる。
もう一つは、わんぱくスライダーだ。傾斜を付けて加速を続け、急なカーブで体がグォンッと持っていかれてしまうような、スリルがあるタイプ。全長を長くしていることもあり、階段で上がるのは面倒だが、遊び盛りの子供には嬉しいウォータースライダーになる。
貴族を対象にした施設のため、カレンと一緒に話し合い、様々な意見を出して作った結果が、この二種類のウォータースライダーだ。わんぱくスライダーは危険を伴うかもしれないので、入念に検査した方がいいだろう。
カレンが自信作と言っていたし、大きな問題はないと思うが……、ところどころ気になる部分はある。ウォータースライダーで滑ることばかり考えたため、上り階段の手すりなんかは、まだ甘い。女性ならいいかもしれないけど、力のある男性や遊んでる勢いでぶつかったときに、壊れそうな弱さがあるんだ。
人気アトラクションになると思うし、こういった些細なポイントは修正しておいた方がいい。安全が確保されてこそ、楽しく遊べるから。
細かくチェックをして、修正を加えながら進んでいくと、ウォータースライダーの頂上に到着。あとはウォータースライダーを滑る場所さえチェックすれば、リズたちに遊んでもらって、試運転にしようかな。
「ミヤビー! こっちの建物はなんなのー?」
下の方からリズの声がしたため、手すりから顔を覗かせると、流水プールで泳いでいたはずの女性陣が、いつの間にか下のプールサイドまで来ていた。
どうやらバトルは終わったみたいで、三人とも落ち着いているように見える。
こうして呼ばれてみて気づいたけど、下を覗くと思っている以上に高さを感じるし、怖がる人がいるかもしれない。転落したら大問題になるし、もう少し安全性を高くした方がいいかな。
「こっちはウォータースライダーで、いま最終チェックをして――」
リズの問いに答えていた、その時だった。手すりを意識しすぎた俺は、片足が取られるようにバランスを崩し、そのままの勢いでウォータースライダーを滑り始める!
「いやーーー! せめて、心の準備をさせてくれーーー!」
滑る気がなかっただけに、心が追い付かない。視界に映る光景がどんどんと流れていく。
水と傾斜の二つのパワーで加速する俺は、もう誰にも止められない! なぜこんなに速いのかわからないほど、初速と加速が速い!
まだ滑ってもいいかチェックできていない以上、滑ってる最中に危険が待ち構えている可能性がある。いったんスピードを緩めて止まらないと……。そう思って壁に手を当てて止めようと試みる。が、めちゃくちゃツルツルで止められる気配がない!
カレンのやつ、混乱した人間が途中で止まらないように、めちゃくちゃ丁寧にハンドクラフトをしてやがる! どうりで初速も加速も速いはずだ。これは、どうあがいても加速するように作られた、絶叫スライダーじゃないか!
うおおおっ! 急なカーブでもほとんど減速しない! 体が吹っ飛びそうで怖い!
ちょ、待ってくれ! いま勢いがありすぎて一回転したぞ! 不自然に屋根がついていると思ったら、一回転することを想定して設置してある!
カレン!! お前、随分と容赦のないウォータースライダーを作り上げたみたいだなー!!!!
「ひぃやあああーーー!」
あまりの速度であっという間に最終コーナーを曲がると、リズたちが待つプールに突っ込む!
バッッッシャーーーーーーン!!!!!!!!
盛大な水飛沫を上げて、無事に生還できたものの、俺は放心状態になってしまった。
死ぬかと思うほどのスリル満点だったし、途中で一回転したら、方向感覚がさっぱりわからなくなったよ。ジェットコースターと比べ物にならないくらい、すごい勢いだったぞ。
非常識な建築物はほどほどにしなければならないと、身を持って体験することになるとは……。
ヤバい。心臓がバクバクとして、手が震えている。心の準備をせずに滑り落ちるもんじゃないよ、これは。
完全に血の気が引いた俺がプール内で立ち尽くしていると、様子がおかしいと気づいたのか、リズが泳いで近寄ってくる。
「ミヤビ、大丈夫? 今のは家で走る速度だったよ」
「その言葉に突っ込む元気がないから、ちょっと手を貸してくれ。普通の家は走らないんだ」
「でも、うちの仮拠点は走るし、ちゃんと突っ込んでるから大丈夫そうだね」
バクバクする心臓に戸惑いつつ、手を取って先導してくれるリズについていく。リズと手を繋いで歩くのは、これが初めてだっけ、と思いながら。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。