第106話:予期せぬ付与魔術

 クレス王子とシフォンさんが教会デートに出かけて、国王様と騎士たちが架け橋の点検を始めたため、俺はクラフターたちを集めた。


 もう夕暮れ時だけど、あと一つだけ大事なものを作らなければならないことに気づいたんだ。


「全員で手分けして、国王様が滞在する宿泊施設を作ろう。架け橋で心をつかんだのは間違いないが、クラフターの待遇が良くなるかどうかは、別問題だ。商業ギルドを納得させるためにも、まずはバックに国を付けた方がいい」


 真剣な表情で頷くクラフターたちは、自分たちが置かれている状況をしっかり理解していると思う。このままだと、街道整備の仕事しか回ってこない、と。


 生産ギルドや鍛冶師の力を借りずに建築した大きな架け橋は、クラフターの有用性を示すためのアピールに最適だった。崩壊しない限りは残り続けるし、国への貢献も大きい。クレス王子と一緒に作ったことを考えると、国民の支持を得ることもできると思う。


 しかし、街道整備専門のクラフターになりたいわけじゃない。俺たちは、生産者として生きていきたいんだ。


 自分で作製したアイテムで生活する、そんな夢みたいな現実を過ごすために、国王様にアピールをしよう! 貴族と取引ができるようになれば、必ず商業ギルドを納得させられる!


 さあ、今こそ立ち上がるんだ、クラフターたちよ!


「時間がないけど、俺は国王様が過ごす宿舎の案を考える」

「私はカーテンを作るわ。国王陛下でも違和感がない、オシャレなものを作りたいの」

「じゃあ、僕は大きなランタンを作って、みんなのアイテムを輝かせようかな」


 三週間にわたって架け橋を作り続けた俺たちは、一致団結していた。国王様が度肝を抜くクラフトをして、未来を勝ち取ることだけを考えている。猛スピードで建築を始めるクラフターたちの姿を見て、俺は思う。


 隊長と呼ばれていただけで、一緒に作業できなかったな……って。


 もちろん、指示は出したり、足場を作ったり、安全対策をしたりして、多大なる貢献はした。架け橋も骨組みを作って、みんなが作りやすいように先導した功績は大きいと思う。


 でも、みんなで一緒に大きな建築物を作って、ワイワイ盛り上がれた感じがしないんだよ。最後は一人で教会を作り始めて、架け橋はクレス王子とカレンに丸投げしていたし、完全に別行動を取ってしまった。


 クラフトのスキルレベルが違う以上は、仕方ないと思う。下手に協力すれば、みんなのクラフトスキルのレベル上げに支障が出てしまうから。


 俺はいま、子供たちの運動会を見守る先生みたいな立場なのかもしれない。最後くらいは混ざりたい気持ちもあるけど、できる限り目立たないようにしよう。国王様に相応しい寝坊必至の極上ふわふわベッドだけ置いて、後は任せるとするか。


 あっ、あとはアンジェルムの街で買っておいた布や生地を寄付しておこうかな。これで王城の国王様の部屋よりも、オシャレで快適な空間を作ってほしい。


 みんなで国王様に別荘地だと誤解させてやろうぜ! クラフターの存在価値を象徴するかのように、短時間で最高の建築をするんだ!


 クラフターたちが作業を始めるなか、俺が後方腕組み担任教師をしていると、学級委員的なカレンが近づいてくる。


「木材が余ってたら、いっぱい欲しいのです! 師匠の仮拠点みたいな雰囲気を出せば、国王様もビックリすると思うのです」


 そういう作戦できたか、なかなか良い案だな。王城住まいの国王様は日常と違う感覚になり、別荘感が出やすくなるだろう。


「わかった。まだまだインベントリに原木が残ってるし、好きなように使っていいぞ」


「はいなのです!」


 どどどどーんっ! と原木を取り出すと、カレンは他にも言いたいことがあるのか、ヒソヒソ話をするように顔を近づけてきた。


「師匠、一つ聞きたいことがあるのです。あの教会にも付与魔法を施されているのですか?」


「いや、聖属性の付与魔術を施して、神聖な雰囲気を演出しておいただけだ。時間をかければ、カレンもできると思うぞ」


「付与魔術だけならやれないことはないと思うのですが……、少し違う印象を受けるのです。あの教会が建設されてから、魔物の襲撃も減った気がしますし、心が安らぐようになったのです」


 そういえば、危険な魔物の襲撃は減ったよな。前はグリフォンが頻繁に飛んで来てて、リズと騎士団が必死に追い返していたのに。国王様が騎士たちを引き連れてきたなら、もう少し音で魔物が反応して、襲撃してきてもおかしくはない。


 もしかして、教会に聖属性の付与魔術を施すことで、周囲に結界が張られたのか? 特定の建物に高レベルの付与魔術を施すと、特殊効果が発生するんだ。


 俺がVRMMOで作った『月詠の塔』も、付与魔術を施しすぎた影響で特殊効果が発生していた可能性がある。縁結びの精霊が住むと言われていたけど……、あれは本当だったのかもしれないな。


「詳しいことはわからないが、良い影響が出てるならいいんじゃないか。昨日だって、カレンも普通に騎士の人と話してただろう?」


「自分でもよくわからないのですが、急に慣れてきたのです。似たような装備をした人ばかりだなーって思い始めたら、全員が同じ人なんじゃないかって錯覚が起こり始めたのです」


「それは間違いなく錯覚だぞ。気を付けろ」


「わかってるのですよ~」


 木材を受け取り終えたカレンが走っていく姿を目で追っていると、恥ずかしがることもなく、大きな声でクラフターたちに声をかけていた。みんなで協力して、ログハウスを作りたいらしい。


 一緒に依頼をこなして、みんなに慣れてきた印象も受けるけど……、国王様を見てもカレンが緊張しないのは、絶対におかしい。勢いだけで作った教会だけど、予想外の効果を発揮しているみたいだ。プラスに働く分には構わないし、他にこの影響に気づきそうなのは、クレス王子くらいだろう。何も問題はないよ。


 弟子が成長していく姿を見守るのはいいなーと眺めていると、ポンポンッと肩を叩かれる。振り向くと、真剣な表情を浮かべるリズがいた。


 結界が張られていると思ったが、暗くなり始めたタイミングで、魔物がやって来たとでも言うのか!? 国王様が来た以上、いつも以上に厳戒態勢を……ん? 誰も警戒してないな。それに、国王様と目が合ったけど、これはもしかして――。


「ミヤビ、落ち着いて聞いて。国王様から呼び出しがかかったよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る