第85話:やっぱ肉王子なんだよなー

 冒険者業に復帰して、一週間が過ぎた日のこと。エレノアさんのオススメ依頼という名の実績作りをする俺たちは、もはや何をしているのかわからなくなっていた。


「肉王子襲来警報を発令しまーす! 今日は大量のオーク肉が入荷予定ですので、解体班は受付カウンターまでお越しくださーい!」


 オークの討伐依頼を終えた俺たちが戻ってきただけで、この騒ぎである。


 奥からワラワラと出てくる解体班の男たちに、肉王子と聞いてカウンターを譲ってくれる同業者たち、そして、受付カウンター三台分に肉の防壁を作る俺。至る所で「やっぱ肉王子なんだよなー」と意味不明な声が上がるのは、大きな理由があった。


 雪が降るほど気温が冷え込むと、一部の魔物が活動を控えるため、食用の肉が不足して値上がる傾向にある。一般家庭でも宿泊施設でも、いつまで自然の脅威が続くかわからないため、できるだけ多くの肉を干し肉にして保存。その結果、物足りない毎日を過ごすのだが……、今年は違う。


 肉が値下がるほど安く手に入り、宿ではいつも以上に肉が多く提供され、冒険者たちの活動は活発化。寒さに負けないと言わんばかりに街が活気づき、治安が良い街となっているのだ。


 俺とリズが冒険者カードを手渡すと、ニッコニコの笑顔でエレノアさんが受け取ってくれるため、誰の影響かは一目瞭然である。


「予想よりも遥かに影響が大きく、冒険者ギルドと街に貢献していると判断されました。今回の依頼を無事に終えたことで、ミヤビくんをCランクに昇格させていただきますね」


 そう、すべては肉王子の影響だ! 冬眠中のオーク二十体を落とし穴に落とし、大量の肉を提供して昇格を決める辺りが、肉王子という称号に相応しい。


「私がCランクまで上がるのに、二年もかかったんだけどなー」


 隣に佇むリズが、ムスッとする気持ちもわかる。


 二か月程度しか冒険者活動していない俺が追いついたら、自分の努力を否定されているように感じるだろう。戦闘職とサポーターで求められていることが違うとはいえ、嫉妬してしまうのも無理はない。


「戦闘で活躍したリズのおこぼれを、俺が有効活用しているようなもんだ。周りから肉王子と呼ばれたいなら、実績を譲るぞ」


「おめでとう、ミヤビ。これからもよろしくね」


 普通はそう思うだろうな。俺もたまに、もっと自慢できる二つ名が欲しかったと思うことがあるよ。


 でも、やっぱ肉王子なんだよなー。俺の心にベストフィットしてくるのは、肉王子しかない。誇りを持って、肉王子として生きていこうと思うよ。


 エレノアさんから新しい冒険者カードを受け取った後、リズにも冒険者カードが渡される。


「そうは言うものの、リズちゃんもCランク冒険者に到達したのは、随分と早い方でしたよ。それに、あとは貴族依頼か大きな依頼をこなせば、Bランクも見えてきましたから」


「ほ、本当ですか!!」


「はい、本当です。昇格が近づいた場合、職員の判断で冒険者に知らせることが許されています。こちらは正式な通知になりますよ」


「で、でも、さすがに早くないですか? Cランクに上がるときはもっと苦労した気がしますし、ミヤビとパーティを組み始めてから、依頼を受ける回数が減ったのに」


 俺の昇格には疑問を抱かないのに、自分の昇格が近いことに疑問を抱いている。そこは素直に受け取ればいいと思うんだが。


「減ったのは、難易度の低い依頼を受ける回数ですね。ミヤビくんとパーティを組み始めてから、高ランク依頼を受ける機会は増え、大きく評価されてます。どういうわけか、Cランク冒険者が二組必要な依頼でも、サポーターと二人パーティでクリアしますし、依頼報告までが早いですから」


「やっぱり持つべきものはミヤビなんだよねー」


 バンバンバンッとリズが背中を叩いてくるけど、俺の影響だけとは言いにくい。むしろ、普通にリズの実績だろう、と突っ込んでしまいたくなる。


 この一週間、エレノアさんに難易度の高い依頼をいくつか紹介されて、俺も戦闘で多少のサポートをこなした。でも、しばらく休んでいた割には、リズの戦闘はキレが増しているんだ。


 魔物の索敵能力がさらに向上して無駄な戦闘はなくなったし、魔法の展開速度が速くなって容易に討伐するし、戦闘する前に作戦を立てて油断はしない。そもそも、危ないと思う戦闘がないんだよな。


 俺が思うに……、夜はグッスリ眠って体力を回復。おいしいものを食べてストレスなく過ごし、冷え性で魔法に集中ができなかった状態が改善された。その結果、本来の力を発揮できるようになっただけ、だと思うんだが。


「リズの実力がでかいだろう」


「よく言うよ。私はミヤビのサポートがないと、もう落ち着いて戦闘もできないと思うんだー。ソロで冒険者活動してた頃は、もっと気を張ってたもん」


 絶対に認めないんだよな。このまま俺の影響じゃないと主張を続けたら、魔物が弱くなったと考え始める気がする。


 そんな俺たちのやり取りを見たエレノアさんが笑うと、珍しく席を立った。


「ここで重要なお知らせがもう一つあります。確実にリズちゃんがBランク冒険者へ昇格するための、大きな依頼を持った貴族が待っておりますので、ご案内しますね」

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