第84話:スノーバード

 北の街道を歩き進めること、一時間。前方に映し出された空を見て、俺は首を傾げた。


 全長七十センチ程の真っ白な鳥たちが上空を飛びまわり、雪を降らしているんだ。自分たちの縄張りだと主張するためなのか、溶けたはずの雪が街道に積もり始めた程度だから、まだ影響は小さい。


 魔物は不思議なことをするもんだな、と感心するような気持ちも生まれるが、明らかに不審な点がある。


「スノーバード、群れすぎじゃないか? 依頼書の倍近くいる気がするんだが」


 三十体だと報告されたスノーバードの数が、全然違うんだ。スズメ程度の可愛らしいサイズではないし、依頼書の倍ほどの魔物が群れているため、ちょっと不気味に映ってしまう。


「活動範囲が広い魔物だし、他の群れと合流したのかもしれないね。救援依頼を受けた冒険者は詳しい調査をしないはずだし、普通は二人で来る依頼じゃないから、スノーバードを確認した段階で冒険者ギルドへ報告に走ったんだと思うよ」


 街に近い街道で出鼻をくじかれるよりかは、救援依頼を優先させるよな。この先にある王都まで一週間かかることを考えると、適正な判断だったと思う。相手が空を飛んでる以上、攻撃方法も決められるし、縦横無尽に飛び回られたら厄介だ。


「まあ、これでエレノアさんの機嫌は取れるようになったかもしれないな。周囲に他の群れがいないか確認したら、少しは良い評価をしてもらえるだろう」


「正直、ホッとしてる部分はあるよね。たまーにランクの低い依頼を受けようとすると、ああやって怖くなるんだもん。緊急性があるからCランクの依頼掲示板に貼られただけで、本当はDランクパーティの依頼だから」


「戦闘の勘を取り戻すにはいいとしても、魔物の数は大丈夫か? あれの半分でも、エレノアさんが注意してくれていただろう?」


 俺の心配をよそに、得意げな顔で舌をペロッと出したリズが後ろに下がると、スノーバードに向けて武器をかざした。


「大丈夫かな。アイスニードルを二重展開して撃墜数を増やした後、残りは少しずつ確実に撃ち落とすよ。まあ、作戦は変わらずってことで」


 宣言通りにリズの周りに氷の針が無数に作られていくと、俺は少し前に出て、立ち止まった。


 慎重な性格のリズが自信を持っているなら、万が一のこともないだろう。来る途中に話し合った作戦に付き合って、戦闘のサポートをするか。念のため、地下に避難ができるようにスコップは置いておくが。


 予想以上にスノーバードがでかくて、けっこうビビってるんだよな。


「アイスニードル」


 俺の心の準備ができていないなか、リズの放たれた氷の針が一直線に飛んでいき、スノーバードに襲い掛かる。


 同じ氷属性の魔物とはいえ、先端が鋭利な魔法を物理的に防ぐことはできず、ピエーッ! ピエーッ! と次々に撃墜。半数とはいかないけど、三割近くのスノーバードを一気に撃退することはできただろう。


 しかし、問題はここからだ。仲間が壁になったこともあり、まだまだ浮遊するスノーバードの数は多い。もう一度リズがアイスニードルを展開するなか、俺たちを敵と認識したスノーバードが動き出す。


 上空から猛スピードで滑空し、弾丸のように向かってくるんだ。事前の話し合いでリズが言っていた通りの展開になったため、俺が慌てず騒がず対処する。


「土ブロックで作った巨大な壁、設置」


 どぉーーーん! と登場した、土魔法が付与された巨大な壁を前にして、どごんっ! どごんっ! どごんっ! と次々にスノーバードが激突。ボトボトボトっと墜落する音が続くため、かなりの数が巨大な壁に阻まれたとわかる。


 耐久値が凄まじい勢いで減っている気がするため、予備の巨大土ブロックを設置しておこう。間近で激突する音を聞くと、素直に怖いわ。爆撃されているみたいだよ。


 ただ、いくらスピードに乗って滑空してきたとはいえ、相手は鳥の魔物になる。方向転換して巨大土ブロックを避け、縦横無尽に空を飛ぶのも自然のこと。


「アイスニードル」


 視界から消えた俺たちを視認するため、空中で一度止まったところを、リズがアイスニードルで次々に撃ち落としていく。仮に攻撃を避けられたとしても、徐々に精度が増すリズの魔法の前では、長時間は持つことはなかった。


 上級魔法が使えないリズだけど、何度も使い込んだ魔法を操るのは得意なんだろう。アイスニードルの数は多いし、俺の方に向かって来るスノーバードに牽制して、カバーする余裕も見られる。むしろ、シューティングゲームをやってるみたいで、ちょっと楽しそうな雰囲気まであった。


 すべてのスノーバードを見事に撃墜すると、納得いかなかったのか、少し不満そうな顔でリズが近づいてくる。


「ミヤビと一緒にいると、楽に勝ちすぎな気がするんだよね。冒険者活動を休んでた影響もあって、なんか私、弱くなってる気がするの……」


 落ち込むリズとは裏腹に、周囲は息絶えたスノーバードの群れでいっぱいだ。この光景を前にしても、同じことが言えるのか聞いてみたい。


 俺が取り出した巨大な壁の影響で、スノーバードのスピードを殺したが、普通はこの数を簡単に撃ち落とせないだろう。自分で気づいていないだけで、本当は魔法の天才なんじゃないのか? 魔法学園で勉強できていたら、きっと今頃は……。


「ソロ冒険者の頃と戦闘の仕方が変わって、違和感を覚えてるだけじゃないか? 本来はパーティに前衛がいて、魔法を使うまでは敵を引き付けてもらったり、接近戦にならないようにカバーしたりしてくれると思うし」


「でも、普通はこんな壁を出さないじゃん。ミヤビがいなかったら、さっきのは二パーティが必要だったと思うもん。あー、やっぱり弱くなってるよ。接近された敵にアイスシールドを展開して、アイスランスをゼロ距離発射してた頃が懐かしいもん。やっぱり定期的に戦闘しなきゃダメだなー」


 なぜか落ち込み始めるリズを置いて、俺はインベントリにスノーバードの回収をすることにした。それ、魔法使いの動きじゃなくね? と疑問に思いながら。

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