第69話:コミュ障、カレン
翌朝、約束通りにヴァイスさんの店にリズと足を運んだ。
昨日は久しぶりに仮拠点でのんびりしたんだが、その時にヴァイスさんに付与魔法を教えることになったとリズに話したら、一緒に行くことになった。なんだかんだで、育ての親であるヴァイスさんが恋しいんだと思う。
意外にリズは寂しがり屋で、一人を嫌う傾向にあるから。
打ち解けるまで壁を作るタイプのリズは、交流関係が狭く深く付き合うせいか、仲良くなった人には気を許しがちだ。まだまだ子供っぽい部分もあって、その日にあったことを話してくれることも多い。護衛依頼の出来事をヴァイスさんにも聞いてもらいたくて、ウズウズしているだろう。
まだ朝ということもあって、ガラッとした店内を進んでいくと、ヴァイスさんと恥ずかしそうな女の子が一緒に待っていた。
青い髪をショートボブにしている、ボーイッシュな雰囲気が漂う、リズと同い年くらいに見える女の子。手をモジモジとさせてキョロキョロする辺り、落ち着かない印象を受ける。
隣に歩くリズは知り合いみたいで、手を振って駆け出していった。
「カレンちゃーん、久しぶりだね。朝からここに来るなんて、珍しいよね」
「あわわっ、リズちゃん! ひ、久しぶりなのですッ! なんだか、緊張しますね……!」
「三か月前にごはん食べに行ったし、今回はそんなに期間が開いてないよ」
「ええっ!? 三か月前だと、初対面みたいな緊張感なのです!」
どうやらかなりの恥ずかしがり屋さんみたいだ。知り合いのリズと話すだけでも顔が赤いから、完全なコミュ障体質と言えるだろう。俺が近づいてくと、動揺のあまりギュッと目をつむって、両手を胸の前で握りしめている。
「あ、あの! は、はじめまして、カレンなのです。よろしくお願いします! し、し、師匠ッ!」
どうしよう、弟子を取った記憶がないし、思い当たる節が何もない。はじめまして、と言われてる以上は初対面だと思うんだが、何か勘違いをされてないか。
「ヴァイスさん、どういう展開になりました?」
隣で佇むヴァイスさんは、そういえば初めてだったか、と言わんばかりに手をポンッと叩いた。
「うちの店で付与魔術を臨時的に手伝ってくれてる者なんだが、昨日の話をしたら、随分と食いついちまってな。こいつも一緒に付与魔法を教えてもらいたいんだが、いいか?」
「別に構いませんよ。ヴァイスさんが苦戦するような作業ですから、厳しい気はしますけど」
「さすがに見込みのねえ奴に声はかけねえぜ。付与魔術だけで言えば、ワシと同じくらいの腕を持つんだが、見た目通りの恥ずかしがり屋でな。普段は生産ギルドの倉庫で、素材を管理する仕事に就いてる。今日は無理やり休ませて引っ張ってきたんだ」
ヴァイスさんが認める優秀な生産職の人間か。生産ギルドの名誉会長なだけあって、融通が利くんだな。若い女の子の仕事を急に休ませるとなれば、変な噂が流れそうな気もするけど、その辺りはヴァイスさんの人柄が良くて、誤解も起きないんだろう。
改めて自己紹介をしようとカレンさんに顔を向けると、ビシッ! と擬音語が聞こえてきそうなくらいに背筋を伸ばしてくれた。
「しばらくの間、よろしくお願いします、カレンさん。師匠と呼ばれるのは慣れないので、ミヤビでお願いします」
「よ、呼び捨てで大丈夫なのです、師匠ッ! この度は、ご教授いただくことになりまして、本当にありがとうございます!」
「そんなに固くならなくてもいいんじゃないかな。年も近いと思うし、もっと気楽に接してくれるとありがたいよ。俺もカレンって呼ばせてもらうから、ミヤビって呼んでくれると嬉しいんだけど」
「わかりました、師匠ッ!」
これは一部の話が通じない、赤壁パターンか? リズは友達みたいなんだし、助けてくれよ。
「ヴァイスおじさんにお世話になってた頃、同じ部屋で過ごしてた仲なんだけど、カレンちゃんはこういう子なの。ミヤビと同じクラフターだし、目標にされたんじゃないかな」
うんうんと何度も強く頷くカレンを見て、俺はなんとなく事情を察した。
鍛冶スキルとクラフトスキルは使い方が違うから、今までヴァイスさんが付与魔術だけでも教えてあげていたに違いない。その後、コミュ障を改善するために生産ギルドで働かせたはいいものの、うまくいっていないみたいだ。もしかすると、コミュ障が改善した結果が今の状態なのかもしれないけど。
臨時で付与魔術要員がいるのなら、ヴァイスさんの店はどれだけ忙しいんだろうか。数週間前に付与魔術の業務を手伝ったけど、俺は絶対にヴァイスさんの店に雇われたくないぞ。しんどい作業ばかり回されるのが、目に見えてる。
「早速、練習を始めましょうか。早めに付与魔法を覚えてもらわないと、また店の手伝いをさせられそうなので」
「そこは心配いらねえぜ。カレンに手伝わせる予定だからな。生産ギルドの倉庫仕事は、しばらく別の奴らで回すように言っておいた」
「ええっ!? 聞いてないのです~! 人間関係のやり直しは、付与魔術よりも難しいのに~!」
「気にするな。付与魔法ができるようになれば、うちの店で働かせてやる」
「嫌なのです~! 難しい仕事ばかり回される未来しか見えませ~ん!」
頭を抱えて嫌がるカレンを見て、俺は気づいた。カレンが逃げた結果、俺が付与魔術の作業をする羽目になったんだ、と。
よし、厳しくいこう。カレンが成長した分、俺が楽できる気がする!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。