第4話:冒険者ギルドⅠ
「これが街に入る仮通行許可書だ。ギルドカードの発行に必要だから、無くすんじゃないぞ」
「ありがとうございます」
門兵さんから仮通行許可書を受け取り、リズと一緒に街へ入っていく。
身分証明書も金もない俺だが、無事に検問を突破することに成功したよ。
「本当に、ごめんな」
リズが金を貸してくれたんだ。大声で叫んで盗賊の隙を作った武勇伝で、門兵さんを説得する前に貸してくれて、本当にありがたい。しかも、今日の宿に泊まれるようにと、余分に金貨一枚も渡してくれた。
良い子すぎて、胸が苦しい。一回り以上も年下の女の子に、借金する日がやってくるとは思わなかったけど。
「別にいいよ。交換条件さえ飲んでもらえば、私も助かるから」
当然、初めて会ったばかりの俺を信用して、金を貸してくれたわけじゃない。リズにもメリットのある交換条件を二つ提示され、俺は承諾した。
一つ目は、冒険者ギルドで冒険者登録すること。
借りパクした場合のことを考え、二人でパーティを組み、冒険者ギルドから位置情報を開示できるようにするらしい。クラフトするには素材採取が必須になるし、冒険者登録しておいても損はないだろう。
二つ目は、しばらくリズと一緒にパーティで行動すること。
リズの受ける依頼に付き添い、荷物運びの手伝いをするんだ。ギルドに魔物の討伐した素材を持ち運んだ分だけ利益が増えるため、リズが損することはなくなる。少しでも分け前をもらえれば俺も助かるし、断ろうとも思わなかった。
実質、俺に気を遣いながら交換条件を考えてくれたんだと思う。迷惑をかけてしまうけど、知り合いのいない異世界を一人で生きていくには、心細い。この世界の一般常識がわからないうちは、下手なことができないというのもあり、リズに甘えることにした。
ちなみに、この話し合いが長引いたため、商人と他の護衛していた冒険者たちとは、門の前で別れている。本当に大丈夫か、と心配そうな目で見られていたから、リズの対応が甘いのは間違いない。
「助けてもらってありがたいけど、リズはちょっと心配になるくらい優しいな」
「私だって、誰でも助けるつもりはないよ。ミヤビは悪そうに見えないっていうのが大きいかな。それに新人冒険者をフォローすると、ギルドの査定も上がりやすいの。だから悪い話じゃない……けど、本音を言うと、盗賊との戦いに巻き込んじゃったお詫び、かな」
「大声を出しただけだし、気にする必要はないと思うぞ。街にも連れてきてもらえたし」
「私が気になるの。魔法が回避されてたら、盗賊がそっちに向かう可能性もあったし、他に増援部隊がいたかもしれない。戦闘できないミヤビが人質に取られた瞬間、難しい戦いになったと思うから」
しゅーんと落ち込むような顔をするのは、部隊リーダーを担っていた責任感だろう。まだ十六歳と若いのに、根が真面目なんだな。
「俺は感謝してるよ。リズがいてくれて、本当に助かったと思ってる。盗賊との戦いに巻き込まれたとも思ってないから、気を落とさないでくれ」
「べ、別に慰めてほしいわけじゃないから、もう。この話はこれでおしまいね。先に宿だけ取って、冒険者ギルドへ向かうよ」
ちょっぴり照れたリズと一緒に歩き進め、宿に到着。互いに一部屋ずつ取ると、すぐに冒険者ギルドへ向かう。
一泊銀貨五枚の宿で、金貨一枚を渡したら、お釣りが銀貨五枚で帰ってきたから、金貨一枚で一万円程度の価値だろう。銀貨は一枚当たり千円だと考えると、銅貨は百円くらいだと思う。
道中、露店をチラチラ見ながら、金銭価値を再確認していると、大通りに面している大きな建物に到着。剣のマークが描かれた看板の上には、『冒険者ギルド』と書かれていた。
普通に文字が読めるのは、特殊な力でも働いているんだろうか。
それに冒険者ギルドの建物から、エルフや獣人といった亜人が外に出てくる。VRMMO『ユメセカイ』では存在しなかっただけに、自然と目が奪われてしまう。
「もしかして、冒険者ギルドに入るのも初めて? ミヤビって、相当な田舎の出身だよね。ずっと山にこもってたの?」
「まあ……そんな感じかな」
「どうりでキョロキョロしてると思った。ギルドは混みやすいから、はぐれないように気を付けてよね」
子ども扱いされていると思いつつも、金を借りた以上は何も言い返せない。ゲーム内で使ってたアバターは少年っぽい感じだったし、田舎出身の男の子が街へ出稼ぎにきた、みたいな感じに思われてるんだろう。
ゲームと違ってBGMはないし、住人たちの話し声がリアルだ。大勢の冒険者が武装しているし、本物のエルフや獣人が見られて、俺は感動を覚えている。
初めてVRMMOの世界を体感したときより、没入感がすごい。今はここが現実だから当たり前だけどさ。大勢の人や街並みを見ると、改めてファンタジーな世界に来たんだなーって実感するよ。
冒険者と異世界の雰囲気に心を奪われた俺が、ボーッとして周囲を確認していると、不意に、プクッと頬を膨らませたリズが目の前に現れた。
「返事がないと思ったら、ついてきてないじゃん。知らない人に話しかけてた私の身にもなってよね」
「……普通にごめん。それは恥ずかしいやつだ」
「わかってくれたなら、別にいいよ。今度はちゃんとついてきてよ」
「はい」
子ども扱いされても仕方がないと、俺は自覚した。監視するようにチラチラと振り向くリズは、相当恥ずかしかったみたいだ。
金を借りたまま逃げようとしていた、と思われるわけにはいかないし、今度はリズの後をしっかりついていこうと思う。
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